あらすじ
2011年9月12日、1人の経営者が忽然と姿を消した。JR北海道の社長、中島尚俊氏である。同年5月に起きた特急列車の脱線炎上事故。その再発防止に向けて陣頭指揮を執っていた矢先の失踪だった。そして6日後。石狩湾で変わり果てた姿で見つかった。前代未聞のトップの死――。だが、これだけでは終わらなかった。
2014年1月15日、今度はJR北海道の相談役だった坂本眞一氏の遺体が石狩湾で発見された。遺書は見つかってないが、北海道警は入水自殺と見ている。坂本氏は中島氏の2代前の社長を務めていた。なぜ2人のトップが相次いで自死しなければならなかったのか。
脱線炎上、運転士の逮捕、データ改竄とトラブルが止まらなくなったJR北海道。始まりはどの企業でも起こり得るほころびに過ぎなかった。だが四半世紀余りの間に、経営陣の些細な判断ミスと現場の小さなウソが蓄積され、取り返しの付かない悲劇へと転落した。
新社長の島田修氏は異常事態を収拾できるのか。
徹底した現場取材に加えて、故・坂本氏や前社長の野島誠氏、労組委員長など8人の証言から退廃の真相に迫る。
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Posted by ブクログ
事業改善命令。無意味に見える膝詰め対話。レール検査データの改竄 、JR北海道トップ二人の自殺 ー 北海道の幌内鉄道は、1880年、東京、大阪に次ぐ日本で三番目の鉄道として開業。炭鉱を中心に、硫黄、木材、農産物を運ぶための輸送手段として鉄道網が整備された。今でも、道内465駅の一日の旅客数は東京駅一駅に満たず、貨物のついでに旅客を運んでいるような状況だ。貨物のせいで、レールはガタガタだった。貨物車両は重く、サスペンションが硬い。レールへの負荷が旅客車両より高い。広域な北海道では電化率を高められず、車両の重いディーゼル車の比率が高い。あらゆる悪因子が作用した。
「経営幹部は訴えを聞くだけで手を打たない。現場に諦めムードが広がっている」処分に及び腰の経営陣。労使の馴れ合い。JR北海道労組は革マル派の支配下にあるとの噂も。斯様に問題は組織内に及ぶ。
何故、自殺を選んだか。自殺は適切な判断か。
本著に直接的な答えはない。しかし、著者の綿密な取材により、問題が浮き彫りになり、答えに肉薄するかのドキュメントは、ハラハラするような読み応えがある。企業として教訓を得る良書というのみならず、読み物として秀逸な作である。
Posted by ブクログ
トンネル内での列車火災事故、運転手の故意による安全装置破壊、安全検査データの書換など、度重なる不祥事に加えて社長経験者が相次いで自殺。崩壊寸前の組織となってしまったJR北海道の腐食ぶりを関係者のインタビューより暴く。
一番のインパクトはJR北海道労働組合委員長のインタビュー。とにかく、質問の返答をぼかしまくって、まともに答えようとしない。会社は会社、組合は組合で勝手にやっていくという意識が露骨だ。こんな一世代前の労働組合とのやりとりは、経営者も大変だったろう。自殺したことに同情する。
そもそもJR北海道の安全意識が低さは、赤字路線だらけの北海道鉄道において、経営が成り立たないことが原因だ。その根本を解決しなければ、また不祥事は起こるだろう。
Posted by ブクログ
2011年5月27日。石勝線で特急列車が脱線炎上。不幸中の幸いか、
死者は出なかったものの大惨事になってもおかしくない事故だった。
その後も不祥事が続く中、当時のJR北海道社長が行方不明となり、
後に遺体となって発見された。
しかし、JR北海道の歯車は既に狂いまくっていた。2013年に入って
も列車からの出火、貨物列車の脱線、運転士の覚せい剤使用等々、
不祥事が収まる気配が一向になかった。
そうして、社長経験者でもある相談役が、またもや自らの命を
断つことを選択した。
何故、次から次へと問題が起きるのか。本書は関係者の証言を
丹念に集め、国鉄の前身からJR北海道が辿って来た歴史を追い
ながら問題点を提示している。
自死したふたりの社長経験者だけが悪いのではない。それは
北海道の鉄道の歴史の分だけ積み重なった負の遺産が飽和
状態を迎えたからなのだろう。
例えば旅客路線としてではなく、貨物路線として発達して来た
歴史。例えば国鉄時代からの赤字路線。例えば民営化後の労使
の馴れ合い。例えば労働組合同士の対立。
鉄道事業だけは赤字を減らせない。そこで手を出した不動産事業
が期待以上の収益を上げる。そうすると鉄道事業の現場への関心
が薄まって行く。
自然、現場が要求する予算が通らない。利用客の安全の為に欠かせ
ないはずの保守・点検が疎かになる。そうなると、現場の士気も
あがらない。
石勝線特急列車事故の被害者である医師が語っているように、
分割民営化の際に赤字路線を多く抱える北海道だけを独立し
た組織にしたことが、そもそもの間違いだったのかもしれない。
ひとりJR北海道という組織だけの責任に留まらない。監督官庁
である国土交通省の、重大事故が起きるまでの監査の体制にも
問題提起をしている。
ふたりの死の真相には触れていないので、タイトルには偽り
ありなのだが、非常に丁寧に取材され専門用語も少なく分かり
やすい内容だ。
出来ることなら、副題をメインタイトルにした方がよさそうだ。
きっと著者はJR北海道に再生を願っているのだろうな。そこはか
となく愛情を感じる作品だった。
Posted by ブクログ
インタビューや週刊誌の記事の再編という感じで、タイトルと中身は一致していない。
しかし、多くの方向からの証言がまとめられているので全体を俯瞰的な見るには良い本です。JR北はなぜ腐敗していったのか、時代についていけなかったのか、明確に提言されているものはありませんが、心に思うものはできるだろう。
Posted by ブクログ
民営化したことによる結果、
こういう組織体質になってしまったかどうかはわからない。
ただ、欠かせないインフラである以上、
もう少し国による監督、手当が必要だったのかなと思う。
運用と維持管理の重要さ、難しさを改めて感じる一冊。
また、組合関連でこんな面倒なことになっているとは知らなかった。
一つの組織に複数の組合があるとこういうことも起こり得るんだな。
組合の対立が仕事に影響を与えることは無いと言いきっているが、
色々と話に出てくる以上、言葉通りには受け取りにくい。