あらすじ
建設コンサルタント・二宮啓之が、産業廃棄物処理場をめぐるトラブルに巻き込まれた。依頼人の失踪。たび重なる妨害。事件を追う中で見えてきたのは、数十億もの利権に群がる金の亡者たちだ。なりゆきでコンビを組むことになったのは、桑原保彦。だが、二宮の〈相棒〉は、一筋縄でいく男ではなかった――。関西を舞台に、欲望と暴力が蠢く世界を描く、圧倒的長編エンターテインメント!
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Posted by ブクログ
疫病神シリーズ第1作。ハードボイルドとミステリーが絶妙に融け合い、会話の掛合いで読む手を止めさせない鉄板シリーズ。
建設コンサルタント・二宮啓之が、産業廃棄物処理場の造成をめぐるトラブルに巻き込まれた。依頼人の産廃事業者・小畠一三の失踪。度重なる妨害。事件を追う中で見えてきたのは、数十億もの利権に群がる金の亡者たちだ。なりゆきでコンビを組むことになったのは、桑原保彦。だが、二宮の"相棒"桑原は、一筋縄ではいかない"疫病神"だった…。
もう、面白過ぎ。なぜ黒川さんはこの作品で直木賞をとっていないのか、ひたすら首をかしげるほかないです。
大阪弁で交わされる二宮と桑原の会話が軽妙。そして、金のにおいを嗅ぎ付けて"疫病神"のごとく二宮につきまとう桑原ですが、桑原は桑原で、二宮のことを"疫病神"呼ばわりするってのがたまらん。
金脈に群がる金の亡者どもをこのコンビが蹴散らすのが爽快。そして、何重にも張り巡らされた巧妙なプロットに思わず唸る。ここまで込み入ったストーリーを平易な言葉で綴るのがまたいいんだよな。
Posted by ブクログ
黒川博行氏といえば、筧千佐子のいわゆる「後妻業」を描いた同名の小説で一世を風靡したが、むろんその名は事件報道以前から知っていた。いわゆるハードボイルド小説をものしたら右に出るものはいないと思えるほどの作家である。黒川氏が書く二宮と桑原の「最凶」コンビと呼ばれるシリーズの第一弾が本作だった。
ところで、ごく普通の市民として生きていると、極道の世界にはなかなか現実的な感覚が伴わない。考えてみれば、身近なところにありそうでありながら、実態はアンダーグラウンドな世界に遮蔽されていて実際に目にする機会などまずない。
黒川氏は、そうした普段の我々からは闇に隠されている世界を、ハードボイルドという手法で描いてみせる。ハードボイルドゆえ、語り手の目や五感を通して得られる事実を粛々と書き連ねることとなる。読み手は緻密に描かれた物語の中の事実から立ち昇ってくる感情を、それぞれの読み手に応じて感受することとなるだろう。そのときに誰もが感じる感情こそ、畢竟、ワクワクドキドキといったものではないだろうか。
黒川氏の描写は、どんなシーンをとっても緻密で、丁寧で、読み手は容易にビジュアル化できる。それでいて、文章のスピード感は損なわれない。場面の転換も程よいタイミングで行われる。読み手は心地よいスピード感に乗せられて、あっという間に物語を読み進めてしまうだろう。
もちろん描かれている内容もスリリングだ。本作では、新たな産廃処理場建設を巡って、複数の極道が「シノギ」を求めて暗躍する。といっても、単なる極道同士の闘争ではなく、その裏でおのが手を汚さずに黒幕として姿を見せない奴らが存在するのである。黒幕の代表格は、政治家だ。彼らは極道に負けず劣らず、「シノギ」の匂いを嗅ぎ分けるのに長けている。おのが利権のためになら何でもする人種でなければ、少なくともわが国ではまともな政治家になどなれない。たとえ大馬鹿者であっても、金の匂いを嗅ぐことに長けていれば、政治家は務まる。ある意味では、一見「まともそう」に見える分、極道よりたちが悪い。極道や政治家が金の匂いをプンプンさせ始めると、そこには大手・中小のゼネコンやらヤクザのフロント企業やらが入り乱れ、互いに巧妙な策略を使い、容易に尻尾を掴ませないように複雑な構図を描いてみせる。
最凶コンビは、絡まった糸をほぐすように事実を追いかけ、時には大胆な推測に基づいて思い切った行動をとる。少しずつ交錯した糸がほぐれてくる。その過程を描いた物語こそが本作であり、糸をほぐすプロセスは、絶えず危険な場面の繰り返しである。ゆえに我々はそれを読むことでワクワクドキドキの黒川ワールドに引きずり込まれることになる。いちいち細かな心理描写などが描かれていたら、スリリングさは半減してしまう。黒川氏がハードボイルドという手法を採ったのは、慧眼というほかない。
疾走感あふれるハードボイルド=黒川博行ワールドは、かくも楽しいものであったか。これまで名前は拝見しつつも、作品を読んだのは初めてなことが悔やまれるほどである。黒川博行――またひとり、好きな作家が増えた。
Posted by ブクログ
黒川博行氏が送る『疫病神』シリーズの第一弾。
建設コンサルタントの二宮は産業廃棄物処理場をめぐるトラブルに巻き込まれる。巨額の利権が絡んだ局面で共闘することになったのは、桑原というヤクザだった。金に群がる悪党たちとの駆け引きの行方は――。
『二度のお別れ』に続いて黒川作品を読んでみた。
例によって大阪が舞台であり、大阪弁が飛び交う世界。そしてこのシリーズは裏社会(主にヤクザ)がじゃんじゃん出てくるのでそっちの用語も普通に使われる。
となると大阪弁にも裏社会用語にも馴染みのない自分としては、まず読み進めるのにやや苦労を要した。
海外の翻訳物を読んでいるような感覚とでも言おうか。
そして裏社会のお話になるのでやはり構造が複雑。登場人物も多くてなかなか理解が進まなかったのも事実である。
それでもなお、最後まで読みたいと思わせて(自分の中では)短期間に読み終わったのは、ひとえにこの小説の面白さが成せるワザとでも言おうか。
主人公・二宮はそれなりに常識人寄り(とは言えかなり裏社会に精通しているが)なので、感情移入はしやすい。
相棒の桑原はもう何というか、物凄いパワーの持ち主である。
行動力の権化とでもいうのか。
味方にいるととても頼もしい男だ。
側から見たら良いコンビなのだが、二宮としては勘弁してほしい所だろうw
内容的には関西の裏社会版半沢直樹という感じ。というかこっちの作品の方が先なので元祖半沢直樹なのか。
最終的に悪巧み自体はそのままではあるが、二宮と桑原のお陰で悪巧みの仕組みがバラされたのはスッキリした。
大阪弁や裏社会モノに拒否感がなければかなり楽しめると思われる。