あらすじ
【ご注意】※お使いの端末によっては、一部読みづらい場合がございます。お手持ちの端末で立ち読みファイルをご確認いただくことをお勧めします。
福岡・飯塚の炭坑町。私の小学生時代、町で知らないものはいないひとりの悪童がいた。その少年、信さんは、内向的で漫画を読むことが唯一の楽しみだった私を、ある日、いじめから助けてくれた。直後、その場を偶然通りかかった私の母は、誰もが恐れる信さんに微笑みかけた。その日から、信さんと私はいつも一緒だった。昆虫の群れる樹木の在りかから、鉄人28号の似顔絵まで、信さんは様々なことを教えてくれる遊びの天才でもあった。しかし、そんな日々も長くは続かなかった-。人生という名の野っ原を全力で駈けた少年が、いた。心に青く沁みる、名もなき魂の物語。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ひとことで言ってしまうと、古き良き昭和の人情話。
淡々と描写される優しい日常の風景と人物のディテールに、ノスタルジーがこみ上げます。
でも、ただの懐古趣味とか古くさい貧乏美談とか、そんなよくあるお涙ちょうだい話ではないんです。
心の綺麗な未亡人と、親子ほど歳の離れた複雑な生い立ちの少年・信さんとの、恋にならないような、否、恋にはあえてしなかった、微妙かつ繊細な心の交流が、レトロな世界観の中で、美しく切なく描かれています。それを綴るのが、信さんの唯一の親友であり、未亡人の息子であるという点において、この物語の秀逸さ、卓越性を限界まで高めていると思うのです。
良質かつ美しい家族小説でもあります。
Posted by ブクログ
内向的な主人公と母親
町内でも有名なフダツキ信さん
三人の人生がヒョンなことで交わり物語は進んで行く
郷愁溢れる情景の中で
多くを語らないことで
読者に想像を膨らませさせる
後半に収録されている
遥い町(とおいまち)にも共通して言えるのは
生き様
Posted by ブクログ
いずれも九州の炭鉱町、おそらく昭和30年代を舞台に、少年の姿を描いた作品です。
「信さん」は主人公の私の友人だった信さんの話。彼は養子として引き取られ、後に実子が出来たために追いやられ、実像以上に「フダツキ」と見なされていた。しかしある事をきっかけに、私の母を敬愛するようになり、見事にその本性である優しさを花開かせて行く。「遥い町」は戦時中に強制徴用された朝鮮人労働者の息子・ヨン君の話。主人公の友だちだったヨン君は、ガキ大将たちのいわれの無いいじめに耐えていたが。。。
どちらも心を洗うような綺麗な話です。
毎度のことなんだけど、この人の作品はありえないほど奇麗事かも知れません。でもやっぱり読むとホッとします。
解説の「青空フェチ」論が秀逸でした。併録の「遥い町」の一文、
『そこには金持ちも貧乏もなく、町長の息子も、坑夫の息子もなく、ひとりひとりが、ただ、名も無い青空の子供でしかなかったような気がする。』
確かにこの人の作品には、子供の頃に見た抜けるような青空が良く出てきます。
それが清清しさに繋がっているのかもしれません。