あらすじ
奨励会……。そこは将棋の天才少年たちがプロ棋士を目指して、しのぎを削る“トラの穴”だ。しかし大多数はわずか一手の差で、青春のすべてをかけた夢が叶わず退会していく。途方もない挫折の先に待ちかまえている厳しく非情な生活を、優しく温かく見守る感動の1冊。第23回講談社ノンフィクション賞受賞作(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
将棋にかける、若さの全てをかける世界。
スポーツや勉強にかける他の世界とは全く異なる世界。
泣ける。
奨励会とは厳しい制度だ。
だが、そこで夢破れても何も残らないことはない。確かに戦った経験があり、残るものがあり、その意味で彼らや彼女らは将棋の子である。
Posted by ブクログ
「プロ棋士になる」という幼い頃の夢を叶えるべく、奨励会員として直向きに努力してきた青年たちの、挫折にスポットを当てた作品。将棋連盟で働いてきた筆者が間近で見てきた、夢が潰えた瞬間をここぞとばかりに凝縮している。しかし、悲惨な状況の中にも希望や温かみが感じられるのは、やはり筆者の人徳によるものであろう。
「奨励会が過酷」なのは噂で聞いたことがあるが、これほどとは思わなかった。年にプロ棋士になれるのは4人、26歳で四段を達成していないと退会しなければならないなど。
中でも主人公の成田英二氏のエピソードは終始引き込まれるものがあった。英二氏の夢を応援するために一緒に上京し、養ってくれた両親。しかし二人はまるで英二の挫折した瞬間を見たくないとでも言うかのように亡くなってしまう。運命のいたずらと呼ぶには余りにも残酷な展開に、流石の私も込み上げてくるものがあった。
成功談などは巷に溢れているが、それは生存バイアスによるものであり、大多数の夢追い人は脱落していく。悲しい事実ではあるが、他の道を選んでゆっくり歩いて行くのもまた別の幸せに繋がる。人生のなにか嫌な所と美しい所が表裏一体であることを教えてくれる一冊。本当に良書。
Posted by ブクログ
すごかった、泣いた。将棋を見るのが好きなので手に取った。私でも知ってる棋士の名前がばんばん出てくるのでそれも面白かった。今や大御所となっている大物の棋士の若手時代とか、へええと歴史を読んでるようですごく面白かったし、これから将棋を見る目も深まりそうだと思う。
そういえば一二三ん引退もここ最近のことだったなあ。羽生さんの無冠の王、もちろん藤井くん、すごく最近のことだけど、谷川さんがNHK杯でふとした指し手の間違いをして負けた姿、あとはもちろん、今泉さんのアマチュアからの返り咲きにも思いが及んだ。
将棋の話なんだけど、それへの向き合い方は、それを目指す人たちの人生はみんなそれぞれ違っていて、そういう将棋の技術以外のことが、結果として将棋人生に与えるものがすごく大きい。
谷川さんの凛とした対局姿勢など、人間そのものの器の大きさのようなものも、その人らしい強さというか、そういうのもひっくるめて戦いなのだな、と思わされた。
ただ、本書は強者の話ではない。著者自身も将棋に溺れながら将棋に救われ、すぐ間近で奨励会のドラマを感じ続け、あえて去っていった者たちを追ったというのが、この著者にしか書けないことで、本書最大の魅力になっている。
羽生さん世代の登場、今はむしろ大御所というか、若手たちから追われる立場にすらなってきている世代の、将棋界にもたらした激震の大きさは、そのまま昭和から平成への、時代の攻撃のようにも思えた。
昔はろくに学校にもいかず、勉強もせず、博打や酒をやって将棋をしていた棋士たち。それは、博打紛いの存在だった将棋の象徴でもあり、昭和という時代が許した、時代をあらわすものであったように思う。それを駆逐すべく、あらわれた計算高い「負けない」将棋。
負けたけれど自分らしい将棋を指したかったのだ、という元奨励会員の言葉には、将棋というものの奥深さを感じさせる。勝てばよいのか。何故、将棋を指すのか。そのことを考えず、ただ勝つことを考えた末に待っているのは、勝てない苦しみだけなのもしれない。
私もあんまり詳しくはないが、最近の若手の気風で、研究将棋というのか、序盤ノータイムで見たような型ばかりをさっさと指す、コンピューターゲームを見てるだけみたいな味気ないのがある。
いくら強いとわかっていても、つまらないなと思う。そういう試合に限って、一歩研究から外れるととたんに手が止まって時間切れになってしまうのだ(たぶん)。将棋には記憶力や計算力がいるかもしれないが、それだけでは面白くない、そこに観る側に、心を動かすだけの何かがあればこそ、人は将棋にひかれるのだと思う。ただ勝てばいいというわけではない。私たちはそこに、うっかり見落としてしまったり、勢いで思わずたじろいでしまったり、人間らしいミスもあれば逆転もある、予想のつかないドラマを求めているのである。
決して機械と機械が戦っているかのような、味気ない勝ち負けを見たいのではない。勝たなければ棋士にはなれない、しかし勝っているだけでは、棋士の存在意義にはならない。
将棋をおもしろがって観る人がいるから、将棋を指したい人がいるから、将棋会は成り立つのである。
もう去っていったけど、心に将棋の駒を抱きしめて生きる人と、プロにはなったけど、心ではなく頭で将棋をしている人と。はたしてどちらが将棋を愛しているのか、つまり、将棋から愛されていると言えるのか。その投げかけを、本書から受け取った。
Posted by ブクログ
中座真
現五段。三段リーグを戦っていた。26歳を迎え、昇段しなければ年齢制限という奨励会特有の規則のため、これ以上リーグ戦に参加できない状況だったが、昇段が決まった。
中座千代子
中座真の母。
大崎
将棋世界編集長。新宿将棋センターの金田に紹介されて、日本将棋連盟に就職する。その後「将棋世界」編集部に配属され、編集部員として間近で激動する将棋界を見つづけてきた。少年時代に「北海道将棋会館」に時々通う。
成田英二
四段。二段で奨励会を退会し、その後指導棋士となり四段の免状を与えられていた。白石将棋センターに連絡先を変更。小学5年で三段、「北海道将棋会館」に通っていた。
渡辺明
史上4人目の中学生プロ棋士。新四段。
池辺龍大
三段。奨励会を退会。
東山
白石将棋センター。
金田秀信
新宿将棋センターの社長。大崎に日本将棋連盟への就職を紹介する。
勝浦修
A級棋士。九段。日本将棋連盟理事。
升田幸三
髭の九段と恐れられた。
大山康晴
日本将棋連盟会長。
岡崎洋
奨励会三段リーグ最終日に劇的な勝利で昇段する。
秋山太郎
岡崎の劇的な昇段の陰で、年齢の壁に敗れひっそりと千駄ヶ谷を去っていった。羽生世代。
成田晢
成田英二の父。夕張の炭鉱夫として働いていた。
成田サダ
成田英二の母。
浅利
成田が小学一年生の時に行った北海道将棋会館の席主。
五十嵐豊一
八段。札幌出身。成田の師匠。
関口勝男
昭和58年の春の人事異動で、将棋連盟道場の主任に赴任。五段。
花村元司
九段。関口が内弟子になる。東海の鬼とおそれられていた。
田川信之
関口が初段昇格を果たし、二人で笹塚のアパートで同居を始め
先崎学
八段。自らを小卒と名乗る。小学3年で米長邦雄の内弟子に入る。水戸の天才少年、略して水戸天と呼ばれる。昭和57年組に飲み込まれる。
米谷和典
福島育ちの青年。昭和57年組に飲み込まれる。24歳で奨励会を退会した。
西森照幸
札幌出身。成田の弟分。
加藤昌彦
小林健二八段門下として関西奨励会に入会。25歳て四段になれず、年齢制限で奨励会を退会する
江越克将
第1回世界将棋選手権の優勝者。ブラジル代表。森信雄六段の弟子として奨励会に入会した。6級で入会したものの、これといった成績を一度もあげることができないまま7級で退会となった。
内山佐和子
北見のパチンコ屋「フェニックス」に入ったばかりのパートタイマー。成田より5歳上。