【感想・ネタバレ】記憶力を強くする 最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方のレビュー

あらすじ

解き明かされる記憶力の秘密。神経科学の目覚ましい進歩によって脳の記憶の実体がついに見えてきた。記憶力を高める「夢の薬」を研究する著者が、LTPやシナプス可塑性などの最新理論を解説しながら、科学的に記憶力を高めるための具体的な方法を紹介する。(ブルーバックス・2001年1月刊)

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

「記憶力を強くする」というタイトルの本ですが、記憶力を良くするためのトレーニング法だとか、記憶するための技術的なテクニックについて書かれた本ではありません。これまでに明らかになっている記憶の仕組みに関する知見を細胞レベルや分子レベルのミクロの視点で説明するとともに、記憶力を良くするために具体的にどのようなことに心掛けたらよいのかをマクロな視点で説いた本です。
第1章では、記憶の司令塔である海馬の細胞は脳を使えば使うほど増えること、
第2章では、海馬の構造や働き、記憶の種別と階層構造等、
第3章では、神経細胞の伝導、シナプス伝達のメカニズム等、
第4章では、記憶の仕組みと脳の可塑性、ヘブの法則等、
第5章では、LTPの発見とそのしくみ、
第6章では、記憶力を良くするために心掛けること、
第7章では、薬と記憶力に関する話題、
第8章では脳科学の未来として、知能のドーピングに関する倫理、神経細胞の移植治療、「再生」に関する研究等
について説明されています。
第5章までが科学的な説明、第6章が実践編、第7章はトピックス、第8章は将来展望といった構成になっています。

本書を読んで、印象に残った記述は次のようなことです。
・神経細胞の数は減る一方で増えないのは、過去の記憶を保持し、脳の個性を保つためであり、細胞がすっかり入れ替わってしまって、別人にならないようにするためである。しかし、記憶の司令塔である海馬の細胞は、脳を使えば使うほど増える。
・人間が瞬間的に把握して記憶できる対象の数は7個程度あり、「マジカルナンバー7」として知られている。
・海馬は、ベートーベンの「運命」の冒頭と同じθリズムを出すときに活性化する。
・乳幼児は海馬が完成していないので、幼児の頃のエピソード記憶がない。
・人間の記憶が大雑把で曖昧なのは、変化する環境に対応するため。
・LTPのおきやすさと学習能力が深く関連しており、LTPが記憶の分子メカニズムと考えられる。
・「歳のせいで覚えが悪い」というのは間違いで、歳を取るとエピソード記憶が発達し、むしろ論理だった記憶能力は向上する。
・記憶力が高くなれば、ストレスに対する耐性が増す。
・事象を記憶するときに同時に事象の「理解の仕方」という手続きが無意識に記憶され、この手続き記憶は相互に関連しあって、互いの知識の理解を深めてくれる。努力を継続していると、急に視界が開けてものごとが理解できるようになったと感じる瞬間がある。
・記憶力を良くするには、何よりも大切なことはのごとに興味を持つこと、ストレスのない余裕を持ったスケジュールで勉強すること、ものごとの法則性を見つけ出して関連付けて理解すること、声に出すこと、覚えた知識を他人に説明してエピソード記憶として覚えること、復習は1か月以内にすること、記憶は夢を見ることによって保存されるので十分な睡眠をとること、手順を踏んで学習すること、平均的にやるのではなく、まずは一つ得意科目を作ること。
・記憶力を増強させる夢の物質「K九0」が見つかった。
・K九0の試験研究の結果、NMDA受容体にリン酸が結合すると記憶力が増強されることがわかった。
・記憶力増強薬には「知能のドーピング」という問題があるが、安全性が十分に保証されていれば公認されてもよいのではないか。
・現在の脳科学では、記憶の「再生」という現象はほとんど解明されていない。それは、「意識」の実態がほとんど解明されていないため。
・海馬は「記憶を司る重要な脳部位」であると同時に、様々な脳疾患の病巣部位として医療現場では「厄介者」でもある。海馬が「高次脳機能」と「疾患」という諸刃を背負い込んでしまったのは、外界への適応に必要な可塑性を有する器官として選ばれたからだと考えられる。

記憶力を良くするための具体的な方法に関しては、ほとんどがこれまでに聞いたことがあるような話であり、目新しい内容ではありませんが、分子・細胞レベルの科学的な説明を踏まえた上での方法提示ということで説得力があります。
この本は、特に脳のメモリー素子である「LTP」の説明に重点が置かれていると感じました。特に印象に残っているのは、NMDA受容体がLTPを起こすしくみに関する説明です。
この書物が発行されたのは2001年であり、それ以降に脳科学は大きく進歩していると思われますが、脳科学は門外漢なので動向をあまりよく把握しておりません。
iPS細胞によるパーキンソン病治療などのニュース、プロ囲碁棋士に勝つなどAIの発展も目覚ましく、脳科学に関連する話題はホットです。
この本を読んだことをきっかけとして、脳科学に関するニュースにさらに関心を持ち、最近の脳科学に関する本も読んでみようと思いました。

0
2018年09月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

高校の時、物理に対する苦手意識が強くて、1学期に大変な点を取ってしまった。こらあかんと思って編み出した方法は「私はこの、物理の先生が大好きだ!」と自己暗示をかけることだった。一言一句聞き漏らさないぞ♪とキラキラお目々で授業を受けると、2学期以降は何とかそれなりにクリアできた…ってのは「覚えたい対象に興味を持つことで海馬が自動的にθ波を作り出す」という正しい方法だったのかもしれないと科学的に説明してくれる本(ちょっと違うか…^^;)。
「本人の姿勢と気持ちのありよう」とかが書かれてあるところにたどり着くまでの神経回路だのシナプスの可塑性だのは理解するのにちょっと頑張らなあかんかったけど、「科学的にもっとも能率的な学習スケジュール」は今度是非、子ども達の漢字の復習で実験してみたい。

0
2016年05月23日

「学術・語学」ランキング