あらすじ
北海道警察の裏金疑惑を大胆に報じた北海道新聞。しかし警察からの執拗な圧力の前に、やがて新聞社は屈していく。組織が個人を、権力が正義をいかに踏みにじっていくか。恐るべき過程を記した衝撃の証言!
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Posted by ブクログ
【130冊目】道警の裏金問題に対する道新の取材・告発記事、それをめぐる一連の出来事と、道新の謝罪広告掲載、道警OBによる道新らを相手取った訴訟。そして、こうした動きの背景にあった道新幹部による道警及びそのOBとの秘密交渉の暴露を内容とする本書。副題が印象的。
一時期集中的に報道された道警不祥事を整理するのにも役立った。
相関関係にあるいくつかの出来事が同時並行的に描写されているため(これは筆者の認識と合致するのだろう。また、記載をドラマチックにすることにも貢献している。しかし、本書における時系列を前後させるレトリックは、読者を混乱させることにも少なからずつながっているようだ。)、他のレビューには認識の誤りも見られる。私には、本書では下記のように書かれている。
▲道警の裏金問題:
道新→(記事にて告発)→道警
▲裏金問題対応時に本部長が総務部長を叱責したかなどに関する名誉毀損訴訟:
道警OB→(提訴)→道新、高田記者等
●薬物捜査の報道について:
道警→(訂正要求)→道新
道新上層部→(訂正要求・情報源明示要求)→高田・佐藤らの記者
道新上層部→(謝罪広告)→道警
●上記報道に関する道新の謝罪広告について:
道警、道警OB→(不満・訂正要求)→道新
こうして整理してみるといまいちよく分からないのは道警OBの佐々木氏の対応。当初は自身に対する名誉毀損に関する調査・謝罪要求を行っていたのにもかかわらず、薬物捜査の謝罪広告についての自身の不満を名誉毀損訴訟提訴の理由としている(ように本書では読める)。分析的に見れば論理必然的な関係にないはずの両者を混同しているからこそ、佐々木氏の対応が、道新に対する意趣返しのように解釈されるのではないだろうか(その当否は別として。)。
他のレビューには佐々木氏個人の要求・提訴と、道警による対応を混同しているものが見られる。私自身は、少なくとも母国語でなされる文章についてはその相関関係を正確に理解できる人間になりたいものだ。特に個人が主体なのか、組織が主体なのかという点は、本書が個人と組織の関係を主題の一つにしているからこそ、丁寧に読み解きたい。
他のレビューに事実関係を混同しているものがあるのは、本書全体が醸し出す「道警」だとか「秘密交渉」という言葉のおどろおどろしさや、それらに対する恐怖の念から来るのかもしれない。大衆とは往々にしてそうしたものにより冷静なマインドを失いやすいのだろう。だからこそ、「知ろうとすること。」ではないが、冷静に事実関係を見通そうとする姿勢を忘れない能力を意識的に身に着けなければ。
なお、文庫版ではなく、単行本版の方のレビューには良いものが多い。なぜなのだろう。
その上で。裏金問題と薬物捜査報道に対する謝罪広告について。
多くはここには書かないが、本書の記載にある「けじめ」だとか「セレモニー」だとかが主に道警幹部や道新上層部の認識に一番近い表現なのではないだろうか。人間や組織の関係性の生臭い部分がよく表されている言葉だと思う。