【感想・ネタバレ】ユートピアのレビュー

あらすじ

表題の「ユートピア」とは「どこにも無い」という意味のトマス・モア(一四七八―一五三五)の造語である。モアが描き出したこの理想国は自由と規律をかねそなえた共和国で、国民は人間の自然な姿を愛し「戦争でえられた名誉ほど不名誉なものはない」と考えている。社会思想史上の第一級の古典であるだけでなく、読物としても十分に面白い。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

「ユートピア」は実際には存在しない架空の場所である。この場所では、頭脳と心の豊かさが高いレベルにある人々が、平和に暮らしている。

印象に残ったところは、金がこの世界では、貴重なものだとして、崇められている。しかし、このユートピアでは金を実用性のない、むしろ鉄に劣るものだとして、醜さ、みすぼらしさの象徴とみなしている。
たしかに、金は取れる量が少なく、量的な貴重さはあるけれども、本質的には価値を見出せないものである。金を身につけて、いきなり人間としての格や品が上がるのはおかしいことである。
また、人々は神から、自然に喜びを感じる肉体や精神のあらゆる状態と運動とを快楽と呼んでいる。
その快楽は、あえて他人与えることによって、回り回って自分にとって大きな快楽として、帰ってくると本書では述べられている。要は、情けは人の為ならずと言いたいのではないだろうか。
健康であることが身体の快楽と説いている。暴飲暴食をするという表面的な快楽を追求して、病気で苦しむよりも、健康という状態こそが一番の快楽である。


0
2021年02月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【不人情な近代国家】
大航海の時代に、アメリゴ・ベスプッチの率いる船にも乗って世界探検を経験したというラファエル・ヒロスディさんが訪れたユートピア国について、全体としては、国家制度の在り方に関する自論みたいなのが語られる。聞いているのは、この小説の語りのトマス・モアさんと、ラファエルを紹介してくれたピエールさんで聞いている、スタイル。

はじめの章は、イギリスの国家としての矛盾を指摘するラファエルさん、合意できない点について問われ、さらに論を深める。

金を盗んだら死刑になる制度を批判。

「人間には自殺する力も他人を殺す力もありません。」

人が窃盗をする環境設定を国家自体が作っていると指摘。つまり、貧者を生む仕組み。生きるために窃盗するしかなくなる状況。貨幣の流通が生む不平等。


「…平等ということは、すべての人が銘銘自分の私有財産を持っている限り、決して行われるべくもないと私は考えています。」(本文より)

そこからユートピア国の制度や暮らしをどんどん深堀していく。

・・・
当時から貨幣経済の弊害は強く感じられていたのだなーと思う。

でも私たちはさらにその後、資本主義経済を深めていく。

共産主義のいわゆる失敗も経て、経済資本に基づく利益の支配する社会は強固なものになった。

地球環境をぎりぎりまで脅かすまでにもなっている資本制度は、さらに限られた地球資源までも経済価値に置き換えようとする動きが進んでいる。

ユートピア国のしくみでは、偏重した金至上主義みたいなものを克服するために、金を便器などに使っている。

「金なら金、銀なら銀というものの本性にふさわしいように、 本来の価値以上に評価しないで用いているだけの話」とのこと。

労働は6時間。一方で、みんなが同じ服だったり、仕事も割り当てられたり、皆を同じぐらい載せ勝レベルにしようとすると、面白みに欠ける部分もあるのかもしれない。思考実験なので本当のところは分からない。

『#人新世の資本論』でも論じられていたような、コモンズ的なしくみと重なる部分が多々あり、興味深かった。

近代国家が確立していくという時代に、この本はどのように受け止められていたのかな... すでに「理想」であったのか。でもこのような思想を基に、その後、共産主義の思想が発展したし、いったん消えかけたけれども今にもたぶんつながっているのだろうと思う。


ギリシャ哲学なども引用されつつ、

ストア派よりも快楽主義派だとされるユートピア国。

ユートピア国が最も尊重するのは心の快楽は、主として「徳を行うこととよき生活の自覚から生ずる」とのこと。

徳を高める、という点では共通している。

人はどのように生きるべきか、何をもって良い人生と言われるのか、

その視点は、どのように社会を運営するか、という議論には欠かせない。

国家制度や貨幣制度が暴走し始める中で、その国家の在り方を不正な、不人情な国家とし、

本来追求すべきは人間一人ひとりの幸せであったり、人生の質である、と釘を指すよう、手段が目的化していることに警鐘を鳴らす。500年も前の本だけれども現代的にも通づる、考えさせられる本だった。

0
2024年05月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

500年も昔でも現代と変わらぬような疑問を世の中に持ったトマス・モアが作り出した架空の理想郷ユートピア。簡単に言えば共産主義国の完成系のような感じかな。ある点ではすごくシンプルで住みやすいだろうし、快適に暮らすという意味でも素晴らしいかもしれない。しかし、私自身としてはものすごく退屈な国なんじゃないかと感じた。
「ユートピア」=「どこにも無い」というのはまさにですね。

0
2011年07月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本書内の「ユートピア」は、理想的な共産主義社会のように思えるが、本書の趣旨は、共産主義の礼賛ではなく、16世紀の絶対王政・宗教弾圧に対抗する社会を描くことにある。

「共産主義社会では真面目に労働しなくなる人が増え生産性が落ちるのではないか」との批判が既に述べられていることが興味深い。

なお、後にトマス・モアは、正に宗教問題によって処刑されることになる。

ちなみに、「ユートピア」国には、「アモーロート」市や「アナイダ河」などFF14(漆黒のヴィランズ)が借用したと思われる言葉が使われている。

0
2020年04月18日

「小説」ランキング