あらすじ
壮絶な憎悪や執着を支えに生きる人々がいる。彼らとのコミュニケーションには大きな摩擦や混乱をきたしやすい。彼らの精神構造を分解してみると……。
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Posted by ブクログ
「しつこさ」に目がいって通読。
著者の読みやすい文章にのっていってスラスラ読めた。
テーマは「恨み」。
いやいや、別に誰も恨んではございません。
ただ、「恨み」という感情は誰にだってある。
僕にもある。
この「恨み」との付き合い方が知りたくてね。
主に文学作品『恩讐の彼方に』などのテキストや実際に精神科医としてかかわった人たちとのエピソードから、「恨み」に関して分析。キーワードは「不条理」と「被害者意識」。つまり、不条理な事柄に遭遇してしまった人は、芽吹いた「被害者意識」にせっせと肥やしとやって、やがて「復讐」へと感情を募らせていく。
この「復讐」。ドラマのように、いやドラマであっても、カタルシスを味わえるものではない。むしろ、虚無感に苛まされるだけ。では、どうすればいい??
著者は、「苦笑」を提唱する。そういう恨みに出遭いそうな出来事があった時は、「苦笑い」。もしくは、自分が尊敬する人を想像して、「この人ならばどう思うかな」と思い、きっと「受け止める」と思い、自分の気持ちを落ち着かせる、という薦め。もし、尊敬する人が「恨めー恨めー」としきりに言うのならどうする?「苦笑」した唇の上がり具合が半端ない時はどうする?と、解決策には??がつくが、総論としてはおもしろい。ただ、文章がスラスラとしていて、サスペンスのようなネタも入っているので、読みふけて精神の世界に迷い込まないように注意は必要。
Posted by ブクログ
副題に"江戸の仇をアラスカでうつ人"とあります。仇討ちに代表されるような恨みつらみを晴らす行為はしつこさという、ともすれば病気の範疇に入りかねない危うさをはらんでいます。
春日先生は臨床で見られる光景や報道された事件を引き合いに出しながら、登場する人物像を解説します。
また豊富な読書量からあらすじを述べて場面を引用することも多いので、読んだことのない本を知る機会にもなります。実在の人物から架空の人物まで人間ウォッチングが詰まった内容になっています。
その中で臨床経験から述べている次の一説が興味を惹きました。
…精神科医の臨床経験から述べると、自縄自縛で自分を不幸にしていくタイプの人がいる。彼らには「自分は間違っていない」という信念がある。論理的で理屈っぽく、何事も収支決算の帳尻が合うことに固執する。被害的で自分は損ばかりしているといった感情のもとに思考を進めがちで、また自尊心が高い。…自分は間違ってないモードへ常に気持ちを設定しているので、すぐに「許せない!」と苛立つ。あんなことをするなんて信じられない、と憤る。
…ストレスを溜め込む。ときには当てつけに近いことをあれこれと試み,しかし大概独り相撲に終わってなおさら苛立つ。自分は誰からも理解されないと「拗ねる」つまるところ、常に自己愛が傷ついている。…との下り。
思い当たる節に気づきます。自分も少なからず‥周りにも‥!
そして、強迫神経症(何度も手を洗わないと気がすまない等)を呈する人は一見穏やかソフトな物腰であるが、実は怒りや攻撃性を胸に押し隠しているといったタイプが多いとも述べています。あくまで我慢しているので鬱屈したエネルギーを安全な形で(無意識に)鎮めたいと考え、強迫症状という無意味な馬鹿げた「儀式」に拘る。との説明もありました。
世の中、恨みつらみで仇討ちをするまでに至らなくても、こういう精神性を持ち合わせている人や場面を味わうことは、当たり前というくらい多いような気がします。その時に先生がいうように自分を客観視して"苦笑"出来るような余裕が持てれば違うのでしょう。
Posted by ブクログ
しつこい人と出会ってしまったら、自分自身の人を恨む気持ちに折り合いがつかなくなってしまったら――――。
春日武彦先生が提示するのは「苦笑」というソリューションである。
「自分が恨みを深く抱いたり復讐を誓いたくなるような状況に陥った際、わたしは何人かの人びとのことを思い浮かべてみるのである。その人たちは有能で心が広く魅力的で、腹が据わり、少なくともわたしの目から見ればどんな苦境にもスマートに対処していける。そんな知人や、かつて出会ったことのあるそのような人物を想起してみる。そして彼らだったらこの不快な状況をどんな具合に扱うかと考えてみるのである。
おそらく彼らは表面的には淡々としていることだろう。そこでわたしは彼らに直接尋ねてみる、「大変ですねえ。ムカつくでしょう?」と。すると彼らは、おそらく苦笑してみせるのではないか。「いやあ・・・」と、懐の深さを実感させてくれるような「素敵な苦笑」を浮かべてみせるに違いないのである。」(本書p.175-5)
処女作『ためらいの倫理学』で内田樹さんが提示した「ためらい」にも似た、見事に成熟した知見だと思う。ぎこちない、でも素敵な苦笑のできる大人になりたいと思った。
Posted by ブクログ
最終章の苦笑の効用が拾い物。ついつい人を恨んだり、憎んだり、問題点を周囲のせいにしてしまう。するとそのうちに自分が不幸になっていくことは経験上感じる。人を呪わば穴二つということです。
そうした気持ちに陥りそうになったとき、”釈然としない気持ちと引換に自分の脆さや厄介さを「苦笑を交えつつ」眺めるための「練習をしている」と心得ること。”、憎しみや恨みを苦笑という形に変換することで、自分の気持ちを客観的に眺め、昇華させるということかなと。
敵討ちを通じた心の変遷を描いた「恩讐の彼方に」や、古今東西の人の恨みや憎しみを扱った作品の引用がたくさんありました。
Posted by ブクログ
精神科医である著者が人間のうらみや復讐心理について、自身の体験、小説、ワイドショーなどから例を引き解説している。
客観的に見ればうらみ心とか復讐心は、身勝手な自惚れ・自分は間違っていないモード・自己愛などの価値観から発せられるもので、自分自身を観察しそれを「苦笑」してしまうことが解決の一歩だとしている。