あらすじ
棟梁に褒められ有頂天になる大工、盗賊としての過去を隠した扇職人、対人恐怖症で五千石を棒に振った旗本の次男坊、玉の輿に乗る娘など、この江戸下町の長屋にはさまざまな人たちが暮らす。そして彼らを助ける証源寺の住職忍専。ふりかかる事件にも自分たちの知恵で切り抜けていく。そんな長屋住人たちを闊達な筆で描きだす人情時代小説。第6回柴田錬三郎賞受賞作。
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Posted by ブクログ
これは多分歳をとってしまったからだと思うのだけど、今まで以上にベタな市井人情ものが好物になっている。ノアールを読みたいと思うこともないではないが、それ以上に下町の人情に触れたいと思うのである。鶏唐でがっつり生中呑み放題より、菜っ葉の炊いたんでほんのり上燗チビチビとみたいなもんである。
さて、俺の読書歴のなかで半村良と言えば、伝奇小説もしくは日本で(世界で?)2番目に長いSF小説ぐらいしかなかったのだけど、なかなか市井人情モノのいけるじゃないかと発見できたのが今作。とある貧乏長屋を舞台とし、そこに住む人々の日常とちょっとした事件を追いかけていく連作集。
連作と言っても1作1作は小説というより江戸市井を描いたエッセイみたいになっている、つなげていけば小説になるような書き方がこの小説の味わい。もう一つの味わいは主人公がいないこと。核となる登場人物は数名いるものの主人公と言うほどに書き込まれてはいない。それがまた群像劇の良い部分の効果を生みだし、読者を物語の世界に導いてくれる。
群像たる長屋の人々、長屋の住民を見守る僧侶や手練れの浪人なんかの生き様も良い。貧乏でも身ぎれいにしてまじめに働いて生きる彼らを見てると、俺ももっとしっかり生きなきゃなと思えてくる。勇気をもらえる小説である。
ラスト1行、実に絵になるシーンでそれも良い。ちょっと古めの小説も捨てたもんではないぞと思えた1作
Posted by ブクログ
ある種の空気を持つ時代劇が嫌いである。ほんのりとして、一定の空気、というより価値観を押しつけてくるような。それは、たとえば「人情」というようなぬるま湯っぽくって、そこに柚をいれるか山椒を入れるか、みたいな話で。
すごく、そういう話なんだけど、なんでこんなに引きつけられてしまったんだろう。
答えはたぶん最終章の、最後の1行にある。自然にあるんじゃなくて、みんなが頑張って維持するからこそ、すてきな世界は維持できるのだなと。
とってもチャーミングな人情時代劇。よかった。
Posted by ブクログ
最初、「かかし長屋」という題名を見た時は、よくある「貧乏長屋の人情噺」だと思った。まあ、大雑把に言えば、その通りではあるけれど、その中に、「人の本当の幸せとは、何か?」という、現代にも問い続けられているテーマの一つの答えが示されているようで、深いなぁ、と思った。