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Posted by ブクログ
これは多分歳をとってしまったからだと思うのだけど、今まで以上にベタな市井人情ものが好物になっている。ノアールを読みたいと思うこともないではないが、それ以上に下町の人情に触れたいと思うのである。鶏唐でがっつり生中呑み放題より、菜っ葉の炊いたんでほんのり上燗チビチビとみたいなもんである。
さて、俺の読書歴のなかで半村良と言えば、伝奇小説もしくは日本で(世界で?)2番目に長いSF小説ぐらいしかなかったのだけど、なかなか市井人情モノのいけるじゃないかと発見できたのが今作。とある貧乏長屋を舞台とし、そこに住む人々の日常とちょっとした事件を追いかけていく連作集。
連作と言っても1作1作は小説というより江戸市井を描いたエッセイみたいになっている、つなげていけば小説になるような書き方がこの小説の味わい。もう一つの味わいは主人公がいないこと。核となる登場人物は数名いるものの主人公と言うほどに書き込まれてはいない。それがまた群像劇の良い部分の効果を生みだし、読者を物語の世界に導いてくれる。
群像たる長屋の人々、長屋の住民を見守る僧侶や手練れの浪人なんかの生き様も良い。貧乏でも身ぎれいにしてまじめに働いて生きる彼らを見てると、俺ももっとしっかり生きなきゃなと思えてくる。勇気をもらえる小説である。
ラスト1行、実に絵になるシーンでそれも良い。ちょっと古めの小説も捨てたもんではないぞと思えた1作