あらすじ
郊外の書店で働く「僕」といっしょに住む静雄、そして佐知子の悲しい痛みにみちた夏の終わり…世界に押しつぶされないために真摯に生きる若者たちを描く青春小説の名作。読者の支持によって復活した作家・佐藤泰志の本格的な文壇デビュー作であり、芥川賞の候補となった初期の代表作。珠玉の名品「草の響き」併録。
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Posted by ブクログ
自らのための備忘録
2024年令和6年の今より、1980年前後の時代の方が好き!と思わず感じた小説でした。
ここからネタバレします。
表題の「きみの鳥はうたえる」の最後のところを読んで、なぜ、この結末を想像できなかったのかと自分がイヤになりました。もう最初から、伏線はこれでもかっていうほど張られていて、それに気づかない読者なんて、この本を読む資格はないんじゃないかと思ったほど。
文庫本の解説のタイトルにもなっている「三人傘のゆくえ」は何より印象に残りました。
《そのうち、佐知子のむこうに、彼女を通して新しく静雄を感じるだろう》のあと、《そのうち僕は佐知子をとおして新しく静雄を感じるだろう、と思ったことは本当だった(略)今度は僕は、あいつをとおしてもっと新しく佐知子を感じることができるかもしれない》
この解説は、遅れてやってきた佐藤泰志ファンには有難いものでした。「草の響き」の印刷所での主人公の描写のリアリティは本人のものだったのかとわかりました。
《そうやって日を送っているうちに、彼は活字の埋め込み作業をしょっちゅう間違うようになった。単純すぎるほど単純な労働だった。それなのにしまいには、今までたった三本の指で、何十本もの活字をいっぺんに摑むことができたのに、それも不可能になった。活字は指からこぼれて、足元の床板に音をたてて落ちた。彼は仕事ができなくなっている自分を発見した。屈んでこぼした活字を拾いながら、急に眼が涙でふくらんで子供のように泣きだす自分をこらえることができなかった。床に屈んだままの姿勢で、彼はあたり構わず嗚咽する始末だった。そこからやっとのことで立ち上がると字詰めの主任のところまで行って、皆んなは僕を役立たずといっている、党員でもないし、党員になろうともしない僕をくずだといっている、とほとんど喚き声でいった。皆んな? と主任は穏やかな声でいった。確かに中にはそんなことを考えている奴もいるだろう。だがそんなことを現実に誰がお前に話したんだ? 彼は混乱した。みんなが陰でこそこそ話しているように僕が感じている、と彼は訂正して訴えた。馬鹿なことをいうな、と主任はメタルフレームのどの強いメガネを指で押し上げながら、かん高い鳥のような声でいった》
そう。この小説は2024年には書かれることのない時代が書かれていて、それが堪らなく心地よかった。それはケータイのない時代とかそういうことではなくて、友だちが身近にいて、「友情」とかそういう面倒なものではなく、共にいることが生活っていうのがとても心地よかった。
そして、友だちがいるからと言って「孤独」でないわけではなく、友だちがいようといまいとそんなことに関わりなく、人というものは孤独であり、生と死は常に紙一重のところにあるのだという当たり前のことがしっかり書き込まれていて、心からこの作家が好きだと思いました。
Posted by ブクログ
草の響きの映画をみるかDVDを買うか迷って、まずは原作から入った。きみの鳥は〜は、正直、よくわからない。若いとはいえ、古い時代とはいえ、ずいぶんいい加減で行き当たりばったりの男女だなと思っていたら、予想外の展開。そこを突き詰めればテーマは重いものになるのだろうけど、突き詰めることもなく。不思議。映画見てもよくわからなかった。
草の響きは逆にわかった。もちろんノッポの自殺の理由も明確にはわからないけど、主人公の感じる心の動きは理解できた。
Posted by ブクログ
『きみの鳥はうたえる』と『草の響き』という話が入っていた。
きみの鳥はうたえるの作中に流れている雰囲気は好き。限りなく透明に近いブルーかな、雰囲気が近いと思ったのは。たぶんいい場面なんだろうなという場面がおおかった。(傘を差して三人くっつき合って歩くところなど)だがそれをじっくり感じる間もなく次に流れていったところが少なからずあった。
もう一編の草の響きがとにかく好きだった。これはまた誰かに薦めたいほど。文章もひたすら体のうちに入ってきたし、主人公の思いの馳せかたが好きだ。墓地にいる暴走族とのかかわりが優しく、そして愛おしい。
それでもなんでこの本の題名がきみの鳥はうたえるなのか読み終わってから考えた。小説として評価されているのが草の響きではないとしたらその理由はなんだろう、と。話の規模の小ささ、大きさみたいなものなのかな。ちょっとこれ以上の説明はできないけれど。