あらすじ
怖いものとは何だろう。本当に怖いものを知るため、とある屋敷を訪れた男は、通された座敷で思案する。完全な暗闇の世界、思いもよらない異形のモノ、殺意を持った猛獣や殺人鬼、己が死ぬこと、幽霊――。不安でも嫌悪でも驚きでも不思議でもなく、純粋な怖いものを。恐怖に似たものではい、真実の“こわいもの”を知るという屋敷の老人が、男にさし示したものとは。「こわいもの」ほか、妖しく美しい、幽(かそけ)き8つの物語を収録。
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Posted by ブクログ
「手首を拾う」
「ともだち」
「下の人」
「成人」
「逃げよう」
「十万年」
「知らないこと」
「こわいもの」
の8編。
このうち「成人」は東雅夫・編「平成怪奇小説傑作集〈3〉」で既読。
初めて読む、非・京極堂の一冊。
怪奇シーンド真ん中のリアリストが、実話怪談ブームに対してとった態度……実作でそれを表明しているあたりが、やはり一歩抜きんでている。
黒沢清がどれだけホラーを撮っても、おそらく幽霊など毛ほども信じていないのと同じく。
本作で幻想へ踏み込むのは、実際に幽霊が存在しているからではなく、文体芸。
ある筋とある文体が両立すれば、向こう側への回路がキリキリっと開いて、いてはならぬ・見てはならぬものが存在し始めてもう後戻りできない……その気配を変奏した短編集。
茫漠とした思弁が、カキっと異界チャンネルに合う、というか。(どうにも擬態語が多いね)
でも上に書いたことって、上質な小説すべてにあてはまることなのかもしれない。
要素の少ない「手首を拾う」「ともだち」「下の人」もいいし、一番具体的な「成人」もいいが、「逃げよう」のスラップスティック一歩手前なわちゃわちゃ具合も面白い。
Posted by ブクログ
幽談
京極先生のショートミステリーを期待したのですが、いずれの短編も存在の不確かさを主題とした不思議な話集でした。手首を拾う、ともだち、下の人、成人、逃げよう、十万年、知らないこと、こわいものの全8編の短編集です。ベッドの下に”いる”「下の人」や生きた手首を拾う「手首を拾う」など、奇想を元にしたものや、アイデンティティの崩壊の様子を淡々と綴った「知らないこと」や「ともだち」、禅問答を思わせる「こわいもの」などいろいろなアプローチで壊れてしまうことを追求しています。
一風変わった怖い話を味わいたい方にはお勧めしますが、京極堂や又市シリーズのような爽快感はありませんので、ご注意下さい。
竹蔵
Posted by ブクログ
ホラー映画のような直球な怖さではなく、ジメッとした気持ち悪さが残る作品。
各短編の主人公たちは怪異に出くわしても、恐怖に慄くことなく淡々としてるのが印象的だった。
どの話も基本的に全く解決に至らないまま終了するため、ちょっとモヤっとしたけど、そういう「よくわからないもの」を楽しむ作品なのではないかと思った。
純文学のような趣がある「手首を拾う」「十万年」
強烈な気持ち悪さが残る「成人」「逃げよう」
哲学的な「こわいもの」
不条理な雰囲気が漂う「ともだち」「知らないこと」
一番直球なホラーだけど、なんかシュールでちょっと笑ってしまった「下の人」