あらすじ
「お金がない人を助けるとき、どうやって助けるのですか?」小学5年生からの問いかけに、経済学者ならどう答えるだろうか。女性が背の高い男性を好む理由からオリンピックのメダル獲得数まで、身のまわりには運や努力、能力の違いによって生じるさまざまな格差や不平等がある。本書は、それらを本質的に解消する方法を考えることによって、経済学的に考えるとはどういうことかをわかりやすく紹介する。
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Posted by ブクログ
優れた経済学についての一般の入門書は、次の点を踏まえたものであると私は考える。
1、金稼ぎを研究する学問=経済学というよくある誤解を解消する
2、数式を使わない
3、扱われているトピックが身近なものである
4、これから主体的に経済学的思考で物事を捉えることを手助けする
このように考えるならば、この本はすべての点をバランスよく取り入れている優れた入門書である。事実、著者の阪大教授である大竹文雄氏は実証的な研究のみならず様々な賞を頂くほど、一般書の執筆でも評判が高い。
本書の内容については、20ページほどにまとめられたコラムを集めたもので、人々の関心事ともいえる「美男美女は本当に得か」についてや、3.11のケースにも関係している「自然災害に備えるためには」、自虐的テーマともいえる「大学教授を働かせるためには」、バブル後から話題となっている「日本的雇用慣行は崩壊したのか」、近年の小泉改革後に焦点となった平等に関する「見かけの不平等と真の不平等」などといったテーマについてデータと経済理論とともに経済学者がどのような枠組みで考え、考察しているのかを分かりやすく説明している。例えば、「見かけの不平等と真の不平等」いおいては、著者は未来に成功する可能性がある中での所得格差と成功する可能性がない中での所得格差を区別し、後者を問題として捉える。
特に本書は、計量経済学(経済データを扱う統計学)の基本的な考え方を数式を使わず、言葉によって直観的に説明し、また行動経済学の成果を導入するだけでなく、その研究成果の政策的意義を明らかにし、あるいは個人的知見を深めることにも配慮している。結婚の有無によって、賃金の格差が発生するのかを分析するために、結婚している方と結婚していない方を含む双子の賃金を使っていることは、計量経済学の一つの重要な考え方を示唆している。
もちろん、新書という形をとっているために、複雑な現実を単純化するために、正確に事実を捉えていない記述や結論が出ていない箇所も見受けられる。例えば、「人は節税のために生きるのか」においては、人は相続税を節約するために、死亡時期を意図的に遅らせているという研究を示しているが、それが例えば日本人に対して、どこまで当て早まるのかや実際の制度設計にどこまで役立つかに関してまでは、これからの課題としつつも、明確に言及していない。しかし、この点に関しては、どの学問にも当てはまる点であり、また様々な嗜好を持った個人の行動をミクロの視点で考察するミクロ経済学や現実に存在する経済データのみしか扱えない計量経済学の限界ともいえ、積極的に受け止めなければならない必要があり、むしろ経済学では捉えきれない点を明確に述べるという著者の謙虚な姿勢を評価したい。
この本を読むことによって、著者が述べるよう、「経済学的思考のセンス」が身に付き、「経済学中毒」になっているかもしれない。
Posted by ブクログ
NHKの「オイコノミア」を見て大竹先生の本を読みたいと思い、初めて読みました。番組内でしていた話の内容もありました。先生の顔や話し方を知っているので読みやすい面もあったのかも。内容は難しい面もありましたが、最近は情報量のやたら少ない新書も多い中で、久々に濃い内容で満足しました。オリンピックのメダルの話とか、ちょうどロンドンオリンピックの時期なので興味深かったです。いろんなことを経済学で考えられるんですね。
Posted by ブクログ
中学生の時、「今経済に関心があります」と教頭先生と本について話したら紹介してくださった本です。中学生のときはとても難しかったのですが、いまなら読めました。身長や双子などの勝ち組と負け組について書かれたいたところがとくに興味深くて面白かったです。
Posted by ブクログ
「お金がない人を助けるには、どうしたらいいですか?」
という小学5年生からの問いに、経済学ならばどう答えるか。
そこのところがこの本の書かれた発端になっている。
行動をうながすためのインセンティブを見ていったり設計したり、
また、統計データから相関しているものをどう読み解くか、
その因果関係への着眼点の持ち方、
それらが、本書のタイトルになりテーマとなっている
「経済学的思考のセンス」になる。
本書は2005年刊行の本ですが、
すでに行動経済学の考え方が取り入れられていたり、
格差や不平等に関する着眼点や論考にも先見の明があり、
現在でも通用する内容になっています。
最初は、イイ男ははやく結婚しているものなのか、
それとも、はやく結婚して守るものができたため、
あるいは妻に育てられたため、などによってイイ男になったのか、
といったおもしろトピックをとりあげて、
経済学的な視点といったものに慣れていく感覚ですすんでいきます。
それは、プロ野球監督の能力とはなにか、だとか、
オリンピックの国別メダル獲得予測に関するものだとか、
週刊誌の見出し的なトピックのものが多い。
中盤から最後までは
年金問題や格差問題を正面から扱い、
不平等というものにドスンとぶつかっていく硬めの論考になっていきます。
それは大まかに見ていくというのとは逆で、
ミクロな部分を仕分けしていくように、
そして、本書の前半部分で親しんできた
経済学的な着眼点と思考を用いての分析になっていきます。
低所得者は怠惰であるからそうなった、
つまり努力が足りないからだ、と考える日本人は多いそうで、
さらにはアメリカ人的な考え方でもあるようです。
ヨーロッパのほうでは、幸運や持って生まれた才能に大きく左右されるものだと
考える向きが強いそう。
これは、努力も幸運も才能も、どれもが低所得や高所得に影響するもので、
どれか一つというわけでもなければ、
どれが一番というものでもないのかもしれない。
また、努力が足りないから低所得なのだ、と考える向きの強いアメリカでは、
「今は低所得だけど、転職によって高所得を得られる可能性はずっとある」
というように、所得階層間での移動率が高い。
幸運や持って生まれた才能が大きく関係すると考えるヨーロッパでは、
所得階層は固定的。
日本はどちらなのかといえば、所得階層間の移動率は低いのに、
考え方は努力が足りなからだ、というもので、
なんだか組み合わせが悪いものになっている。
努力しても所得階層間の移動率が低いので、
努力が報われない可能性が比較的高いのに、
それでも努力が大事な要素であって、
運・不運や持って生まれた才能は努力よりも影響は小さいと考える。
よく日本人は「自己責任」という考え方をするので、
そういった場面での冷たさが指摘されることがあります。
こういう、社会の構造と心理のアンバランスさが
そういった日本人の意識を醸成しているのだろうなあと思いました。
アメリカ人のいう自己責任と日本人のいう自己責任ははっきり違ってきますからね。
努力すれば報われるアメリカンドリームの世界を前提とした自己責任と、
せいぜい大学入学までの努力が比較的報われて、
それ以降の努力は報われない世界を前提にした自己責任と、
まったく違いますよね。