あらすじ
武器は天与の美貌、爽やかな弁舌、鮮やかな模倣の才。貧しい青年クルルは子供の頃のずる休みと同様、仮病をつかって徴兵検査をくぐり抜け、憧れのパリで高級ホテルのエレベーターボーイとして雇われる。そして宿泊客の美しい女性作家に誘惑され、彼女の寝室に忍びこむと……。冴えわたる筆で繰り広げられる厖大な語りと騙り、これぞマンの真骨頂。『魔の山』と好一対の傑作ピカレスク・ロマン。この圧倒的な面白さ!
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Posted by ブクログ
幼少時から生来の美貌と感受性で人に取り入り、とある貴族の子息に成りすまして世界中を漫遊した詐欺師クルルの半生…のはずなのだが、しかし、小説はクルルが出発地であるリスボンをようやく出発しようかというところで未完に終わる。もっとも、マンがこの小説を書き始めたのが35歳、その後、中断と再開を繰り返しながら、この第一部を完成させたのが79歳だと言うのだから、物語が完結する見込みは全くなかった。マン自身も、第2部以降を書くつもりはなかったようだ。
しかし、未完であることはこの小説の魅力を増しこそすれ、損なうことは全くない。むしろこの濃密さで世界中を旅されたら、とんでもない長編小説になってしまって、大変だ。第一部だけでもボリュームは十分だし、今後のクルルの人生を想像力豊かに楽しめるというものだ。
マンといえば、いかにもドイツ語の本領発揮と言わんばかりのうざい複文で、これを光文社古典新訳のウリである「いま、息をしている言葉」に訳すのはさぞ大変だったかと思われるが、訳は自然で読みやすい。