あらすじ
京都を舞台に忘れえぬ時を描く直木賞受賞作
万城目学、ホルモー・シリーズ以来の青春京都小説にして、
第170回直木賞受賞作!!
八月の京都の暑さに勝てる者などいない。
すべての者は平等に、ただ敗者となるのみ――。
四回生の夏休み。
彼女にフラれて京都に取り残された大学生がひとり。
京都の暑い暑い夏。絶望的なほどに粘っこい空気のなか、朽木が自転車を漕いでいるのは、五回生の友人・多聞に焼き肉を奢ってもらうためだ。
ようやくありついた焼肉。
しかし多聞は、なぜかおもむろに野球の話をはじめる。
話が妙なほうへ転がり出したのを感じていると、
多聞は、朽木に貸した三万円のことを持ち出した。
「タダより高いものはないのだよ、朽木君」
送り火の季節、こうして謎の草野球大会「たまひで杯」に巻き込まれることになり……。
(「八月の御所グラウンド」)
十二月に開催される全国高校女子駅伝。
今回は走ることはないと思っていた一年生の坂東だったが、先輩の体調不良で急遽アンカーを走ることに。
しかし、坂東は絶望的なまでの方向音痴なのだった。
(「十二月の都大路上下(カケ)ル」)
京都で起きた幻のような出会いは、じんわり優しく、少し切ない。
心の奥底に火をともす、奇跡のような二編の青春小説。
単行本 2023年8月 文藝春秋刊
文庫版 2026年8月 文春文庫刊
この電子書籍は文春文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
文庫になったら読みたいなと思っていた作品。
二作の短編からなる構成。どちらも駅伝と野球というスポーツが題材になっていて、京都に因んでか、新撰組が登場したり、沢村栄治がピッチングしたりエブリデイマジックの物語。不思議な感じがするが、京都の街角では得も言われない気配を感じることもあるので、納得の舞台設定だった。
二作とも素敵なストリーだが、『十二月の都大路上下ル』が個人的には気に入った。「走る」ではなく、「上下ル」なのが洒落ている。
補欠だった高校1年生女子がセンパイの故障から抜擢され、都大路をアンカーで走ることに。
戸惑いと緊張、闘争心と心情描写が巧みで女子高生の気持ちがリアルに伝わってきた。駅伝選手なのに超絶方向音痴とは?ハラハラしながら疾走を見守り、心の中で「頑張れ〜」と応援してしまった。
後書きが、日本を代表するアスリートの田中希実さんだったのはびっくりした。
高校女子駅伝ということと田中さんが同志社大卒だからか、「京都だから」という設定のエブリデイマジックに当てはまったのだろう。
田中さんらしい真面目で、走ることを極めようとしている真摯な姿勢が伝わる文章でとても良かった。
Posted by ブクログ
どちらも不思議なストーリー
でも、読後 何とも言えない暖かな気持ち
私にはこのような経験はないけれど、どこかにはあるんじゃないかと思うような…
あればいいのにと思うような、そんなストーリー
来年は京都の送り火を見に行ってみようかと、そんなことまで思った
Posted by ブクログ
今回はスポーツを扱った短編2編からなる。特に表題の野球を扱った短編はフィールドオブドリームスを彷彿させるものだが、やや抑え気味の万城目ワールドが展開される。抑え気味なので、審査員の心証がよくなり、受賞につながったか?それでも十分万城目ワールドを堪能できたが、欲を言えば結論をもう少し掘り下げてほしかった。
Posted by ブクログ
中学生の時に鴨川ホルモーを読んで以来、久しぶりに万城目先生の本を読みました。鴨川ホルモー大好きですが、文章が個性的で読みづらい印象が残っています。今回は、自分が大人になったのか読みやすかったです。
戦争について考える内容でしたが、ユーモアがありしんみりし過ぎず読めるところがいいです。主人公たちが一緒に野球をした仲間たちと比較して自分は幸せだと考えるのではなく、ただ今を一生懸命に生きようと考えたところが素敵だと思いました。
Posted by ブクログ
第170回直木賞受賞作
京都で起こる不思議な出会いを描く青春小説。
表題の『八月の御所グラウンド』に『十二月の都大路上下ル』が加わっている。前者はお盆の時期の野球の話、後者は十二月の駅伝の話と関連はない。連作短編のような形式ではないけど、駅伝の試合中に新選組の影を見せられて、表題作で起こる不思議な出会いを予感させるような繋がり方だったなと思った。
「あなたには、火がないから」と言われて彼女に振られて、八月の敗者になってしまった主人公。そこに友人の多聞から、京都で三十年以上続く伝統の野球大会"たまひで杯"に参加するようお願いされる。人数が足らなくても不思議と人が集まると言われるその大会で、不思議な出会いが描かれる。
最初は研究室のメンツや夜職の同僚などでメンツが揃ったものの、揃わなくなってくる。その中で、留学生のシャオさん、そして日本が誇る大投手 えーちゃんこと沢村栄治らがチームに加わる。この展開は『十二月の都大路上下ル』から続く故人との邂逅。お盆という季節ともマッチする出会いだと思ったけど、沢村栄治が徴兵によって若くして亡くなったということを知り、こんなにもすごい投手が、もっと野球をしたかっただろうにできなかったのに、今の自分は…ということを考える。「俺たち、ちゃんと生きてるか?」という多聞の問いかけが刺さる。最後、火がないと言われた心に送り火からの炎を受け取るという結末だったけど、蝉が鳴き始めるというのも、八月の敗者が立ち上がり、物語が始まるということを演出しているようで良かった。
終戦から80年が経ち、ウクライナやイランで戦争が起こってはいるけど、どこか遠いものに感じている。でも僕たちが住んでいる土地・街は先人たちの積み重ねの上に成り立っていて、その人たちの想いも背負いながら生きていく。そんな必要はないとも思うけど、その方が前を向いて生きていけそうな気がしてきた。