あらすじ
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小泉政権の下で進められた派遣労働の規制緩和が、いわゆる「ワーキングプア」を生み出した元凶として強く批判されている。民主党政権では、派遣労働の規制強化などの改革逆行が進められようとしている。筆者の八代氏は、派遣労働を含めた非正社員数の増加は、小泉改革以前の1990年代初めから続いている長期的な傾向であり、小泉改革によって非正社員が急増したわけではないと指摘する。問題はむしろ、正社員が過剰に保護されているために、非正社員がそのシワ寄せを被っていることにある。正社員・非正社員の格差解消のために、1800万人の非正社員をすべて正社員化しようというのは、まったく実現性に乏しい話である。そうではなく、非正社員という働き方を社会的に認知し、「同一労働・同一賃金」をはじめとした制度改革を進めて、賃金や労働条件を改善することが必要である。本書では、正社員と非正社員の格差だけではなく、男女間、世代間の労働格差を解消するためには何が必要かを、安倍政権下の経済財政諮問会議委員であり、改革派として知られる八代尚宏氏が総合的に論じている。
【主な内容】
序 章 労・労対立
第1章 なぜ今、労働市場の改革が必要なのか
第2章 非正社員問題とは何か
第3章 派遣労働禁止では誰も救われない
第4章 日本的雇用慣行の光と影
第5章 こうすれば少子化は止められる
第6章 男女共同参画とワーク・ライフ・バランス
第7章 エイジフリー社会実現に向けて
第8章 非正社員重視のセーフティ・ネット改革
第9章 公共職業安定所と労働行政の改革
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Posted by ブクログ
新聞等でもよくコメントが出る著者の考え方には、筋が通っており、納得する部分が多い。労働問題に限ったことではないが、これほど問題点が明らかになっているなら、政府は、労働市場のあるべき姿を示し、その実現に向けて課題解決を行うべきだろう。
Posted by ブクログ
【問題認識】
日本的雇用慣行(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)が機能不全を起こしている。
【原因・背景】
そもそも、日本的雇用慣行は、
①高い経済成長の持続
②豊富な若年層と相対的に少ない高齢層という年齢構成
③一時的な不況期の緩衝材としての非正規社員の存在
という前提に基づいて成立し、高い経済成長の時代に、慢性的な労働力不足に対する策として熟練労働者を企業内へ閉じ込める効果(entrapment effect)を狙ったもの。
日本の成長率が長期的に停滞する状況では、日本的雇用慣行の前提条件は崩れ、様々な弊害が生じる。
労働法ではなく司法判断に委ねられ、「予見可能性」が低い解雇規制等、日本的雇用慣行を保護する判例法や規制が改善されない行政の不作為も大きな問題。
高い経済成長を所与として成功した過去の成功モデルである日本的雇用慣行を、時代に適した形に改める必要がある。
【日本的雇用慣行の悪影響】
・非正規社員の増加
↓与党による規制
①派遣以外の非正規労働へのシフト
②海外へのシフト(正社員の雇用機会の縮小)
・正社員の慢性的な長時間労働
・格差の増大(労労間格差、世代間格差)
・少子化
女性の高学歴化
→就業率の上昇
→未婚率の上昇(結婚(≒子供)か仕事かの二者択一)
→出生率の下落
・男女参画社会、エイジフリー社会促進の障害
Posted by ブクログ
日本の労働慣行の問題点について様々な視点から論じた本。本書の中で重要と思われることを一部抜粋する。
・バブル崩壊後でも正社員の雇用は増えていた。それは、一時的な不況と考えられていたからである(現在はこの逆)
・日本の海外直接投資の流出が流入を大きく上回っていることは、労働市場へ悪影響を及ぼす
・日本の「解雇規制」の問題は、規制が厳しいことではなく、予見可能性が低いことである
・派遣労働者が正社員の雇用機会を代替することを防ぐために、派遣には期間制限がある
・派遣規制をすると、製造業で海外移転が発生し、正社員の雇用機会も縮小する危険性がある
・失業なき労働移転が可能であった特殊な時代は終わった
・バブル期でも出生率は低下していた
・男女間で結婚相手の学歴に関する非対称性が存在する
・平均的労働時間は減ったが、正社員の労働時間は一定のまま
・定年制の意味は、労働生産性よりも賃金が高いというギャップを清算すること
・公共職業安定所の事業を民間に委託・開放することが必要
Posted by ブクログ
労働市場改革への提言書。日本における現状の正規労働者を企業に対する出資者と定義し、労・労の克服に向けた雇用ルールの明確化、派遣労働禁止から保護法への転換等を提案している。城氏や池田氏と同一論調。日本の高度成長の持続(~1990年以前まで)、ピラミッド構造と労働力不足という条件でのみ成立し得た、日本的雇用慣行(新卒一括採用、終身雇用、年功序列)を固定、維持し続けることによる弊害が非常によく分かる。現行の介護保険の様に、育児保険の構想は個人のワークライフバランスの為にも求められると思う。
Posted by ブクログ
「終身雇用」「年功賃金」「企業内組合」が日本的雇用システムの特徴と言われているが、それらはかつてはうまく機能し、日本の高度成長を支えるシステムであった。そのあたりのことを、筆者は下記の通り記している。
【引用】
過去の高い経済成長の時期には、長期雇用・年功賃金の固定的な雇用慣行が、個々の企業内だけでなく、経済全体でも効率的に機能していた。経済成長とともに企業組織も持続的に拡大し、企業は熟練労働者を確保するために、雇用保障や勤続年数に比例した賃金体系が自発的に確立してきた。また長い好況期が期待できる状況下では、短い不況期に一時的に過剰な労働者を抱え込むことは、企業にとって必要な投資でもあった。
労働者にとっても、みずから働いている企業の利益が、そのまま将来の賃金や退職金の増加の形で配分されることを前提に円満な労使関係は保障されていた。企業内での頻繁な配置転換を通じて形成される熟練労働者を最大限に活用するためには、慢性的な長時間労働や転勤は不可避となったが、他方で、いわば家族ぐるみで雇用するための生活給が保障されていた。家事や子育てに専念する専業主婦と一体的に見た家族単位では、仕事と家庭生活との両立は十分に可能であった。
【引用おわり】
これらが続いたのは1990年代前半、平成の最初の頃までと言われているので、主には「昭和の仕組み」でもある。その仕組みを上記はうまく説明しているのではないかと思う。
しかし、と筆者は言う。しかし、環境が変わった。グローバル化、IT技術の進化等により、それまでの製造現場の強さが競争のポイントだった環境が、グローバルに事業を展開する力とか、あるいは、IT技術を使ったビジネスモデル競争等に競争のポイントが変わっていった。上の「日本的雇用システム」は、製造現場の強さを支える仕組みであったが、製造現場の強さが競争上、あまり意味をもたなくなっていき、日本的雇用システムの強みも失われてしまった。
だから、雇用システム、および、雇用システムを支えていた社会システム等も変革していかなければならないということが、筆者が本書で訴えたかったことである。
確かにそうだよね、と思う。
ただ、本書の発行年は2009年であり、今から15年前のこと。そこから更に環境も変われば、政策や法律も変わっている。今の環境、政策、法律を前提に筆者に、もう一度書いて欲しいなと思う。
Posted by ブクログ
94労働市場改革の経済学 八代尚弘
・労使対立ではなく、正社員と非正規社員との間の労労対立について考察した本
・欧米諸国:職種別の労働市場が前提→労使間対立
・日本:長期雇用保障を前提→労使間での利益の一致→だが、雇用保障されている正社員と非正規社員の間の労労対立
@cpa_1992
労働分配率
・米国:一定←不況期には人員削減。好況期には増加して調整
・日本:不況期に上昇、好況期低下。人員数調整による対応はしづらい