あらすじ
明治後期、北海道の山中で一匹の犬を相棒に狩猟に生きる男・熊爪。人里に馴染めず山を縄張りとする彼は、冬眠を逃し徘徊する凶暴な熊「穴持たず」に対峙する。穴待たずとの死闘、そして盲目の少女・陽子との運命的な出会い。獣と人間との境界を超えた理屈のない命の応酬の果て、熊爪が見たものとは。「生きる」とは何か、という問いに真っ向から挑んだ、圧巻の直木賞受賞作。(解説・角幡唯介)
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Posted by ブクログ
面白かった。
知らない世界について想像力を掻き立てられた後の満足感はやっぱりいいね。
さて、『ともぐい』は熊小説ではあるけど、歴史を扱った小説でもある。時代は明治時代で、日露戦争に突入する以前の北海道におけるある地域で生きる主人公を描いた物語。
日露戦争といえば、日本がそれに勝利し、本格的に西欧列強の仲間入りを果たした画期となった戦争として有名で、それ以前には日清戦争に勝利を果たしている。ただ、この戦争で勝利してしまったがゆえに、日本は西欧的な帝国主義へと本格的に歩を進めてしまう。
日露戦争以前の日本は、ロシアとの戦うかどうかに関する様々な論戦が活発に行われたり、日英同盟を結んだり、対ロシアを想定した準備がなされたりする時期にあたる。そんな時代状況の中で、小説の前半ではその波がまだ押し寄せてきていないが、後半になるとついに波及することになる。
実は、それと並行するように、熊爪の人生も変容を余儀なくされる。熊爪のアイデンティティに揺らぎが生じた第一の出来事は余所者熊との死闘による重症であるが、第二の出来事は商い先である屋敷の変化(衰退)と言える。屋敷は熊爪にとって人間が多くいる煩わしい場所である一方で、食糧や鉄砲の玉など、必需品を購入するのに必要な金を得る唯一の場所でもあった。したがって、屋敷は熊爪の生活にとって必要不可欠な場所であった。
屋敷の人々はどれも気味が悪く、理解不能で、苦手な部類に入る人もいたが、それでも生活になくてはならないため通い続けた。極めて合理的な判断と言える。
だが、日露戦争が現実味を帯び始めると、屋敷の商売も立ち行かなくなり、戦争を支えるための炭鉱に手を出すようになる。熊爪はそれに誘われるも、半端者であるが故に決めきれずにいる。
そして、この時点で、熊爪は屋敷の変化を既に感じ取っており、以前から思慕を抱いていた片目盲目の娘を連れ去ることを決意する。そして、屋敷から離れて、と同時に事実上猟師を引退し、山で再び生活し、死を迎える。
最初、なぜ明治という特定の時代を設定したのか分からなかったが、振り返ってみると、熊爪自身が気付かぬうちに時代の流れに巻き込まれていることを示すためで、またそれに抗うことは不可能であることを示すためだと思う。熊爪は作中で何度も、「俺には関係ない」と言っているが、残念ながら時代の流れは確実に熊爪の生活に影響していた。
『ともぐい』は自然界の論理を反映した小説であるとともに、近代化の途上である明治日本における人間社会と自然界との接触により生じたある個人の人生の過程を描いた小説でもあると思う。
Posted by ブクログ
読みながら頭の中に情景が浮かび続ける。かなり生々しい描写も多く、こんなにリアルに読者に想像させるのはすごいと思った。熊と人の対峙がテーマだと思っていたが実際はそれだけではなく、人間の内面や生き方について考えさせる小説。ラストは全く想像していなかった展開で、なぜそうなったのかとずっと考えている…。
熊爪は自身が熊になりきれない事を悟った。
人間になろうとしたがそれもなりきれなかった。
『殺されなきゃ死ねないんだし、あんたは』という陽子の言葉は、熊など野生の生き物にも当てはまる言葉。陽子は熊爪を熊と認識したんだろう。
熊爪が兎を殺す所を見ていたのも殺す決意を固める伏線だったのか。
熊同士。人同士が殺し合った。
そういう意味でこの『ともぐい』というタイトルなのかなと。
Posted by ブクログ
人里離れた山中の小屋で狩猟して独りで生活している猟師の生涯。小屋のそばに来たクマや、もう一頭若いオスとたびたび戦うが、大けがをおってしまう。その戦いの様子の描写は武骨で、荒々しく、引き込まれる。
狩猟した獲物を持ち込んでいた商店から女を奪って小屋で暮らし始めるが、いずれこの女に殺されてしまう。この女は小屋に来た時にすでに商店主人の子供を懐妊していた。熊の行動に例えて、この猟師は子供を殺してしまうのではないかとの描写がされたが、逆にこの猟師の子供を妊娠した女が子供を守るためか、猟師に毒を盛り、さらに小刀で殺害し、小屋を脱出する。この辺の動機が今一つ理解できなかったが、その後の猟師、女などの行く末のまとめ方はさすがであった。