【感想・ネタバレ】時砂の王のレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年05月31日

自分を自分たらしめるものは何か?十万年の戦争に耐え抜き、任務を達成させるような強いものとは何か?オーヴィルにとっては愛であるーーサヤカとの儚い夢のような。あらゆるものが時の風に吹かれ、時の砂に埋もれ、遥か遠くの時間枝に別れてしまっても、胸に残る愛の残像。これらが本作の根底に流れており、知性体としての...続きを読むオーヴィルをぶれることなく描いている。
叙情的な描写の繊細さもさながら、時間遡行と歴史改変をテーマにしたSFとしても秀逸である。未来からの援軍が来ないので、この時間枝が滅びることが分かってしまう辛さ。カッティ・サークの冷徹なまでの理屈は分かるのだが、どうしても情緒の部分で受け容れることのできないもどかしさもあった。それらがオーヴィルの目を通して何度も繰り返されるのだ。一人一人の人生に触れ、共に戦う仲間であるのに殆どを救うことができない。オーヴィルだけではなく、滅びる時間枝の人間を描写することで、この戦争の虚しさが身に染みるのである。
そして卑弥呼が登場する。ちょっととんでもない展開だな、と思ったが、これが違ったのだ。日本史上、最古の統治者の一人である卑弥呼である必要性が大いにあった。また、その神がかり的な伝説にも必要性があった。人類存続の為に手段を選ばない時間軍に対し、今を生きる人間として、ただ生き抜こうとする強さが美しい。10万年の間誰もやらなかったことーーカッティ・サークに「疾く失せろ」と言い捨てることーーで新しい時間枝を生み出し、オーヴィルの心を繋ぐことができたのだ。全てが無情に消える筈だったオーヴィルを最後にただ一人救う存在だった。陳腐な言い方たが、オーヴィルに救済があって本当によかった。
また、敵の機械群・ETの動機がとても面白い。許し難いことだが理に適っているようにも思えるのだ。ET達の視点でこの話を読んでみたいと思うくらいに。

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Posted by ブクログ 2022年10月02日

敵が過去を遡ってまで人類を滅ぼそうとするので、未来の人間は同じように過去を遡る。結果的に人間が勝つんだけど、それまでどう勝っていくのか気になって一気に読みました。

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Posted by ブクログ 2021年06月10日

卑弥呼は出てくるけど知ってる卑弥呼とその時代ではないのが面白かった。
歴史改変SF。小川さんの小説は読みやすい。長編SFは設定や世界観を頭に入れるのがだるくなってきてので短編ばかり読んでたけど、また長編読もうかなと思った。小川さんの作品をもっと読みたい。

卑弥呼とオーヴィルが恋仲になるのはなんかな...続きを読むって思った。命の恩人だけど。そこはオーヴィルにはサヤカ一筋でいて欲しいような、しかし10万年かけて守ってきたしなあとも思う。体感だと何年位なんだろう?何百年くらい?

カッティ・サークの元ネタはあるのか調べたけどわからなかった。船の名前が出てきた。あとウィスキー。でもほんとの元ネタは詩?の出来事?
なぜそれを人類を救うための知性体の名前にしたんだろうな……。魔女か~~。
最終的にカッティ・サーク自身が死ぬ時間枝の計算が出来ない=可能性が残されるというのに賭けて自爆するのが良かったな。

またオーヴィルが死ぬことで卑弥呼が奮い立ち、歴史が変わってOがやってきて、さらにOが沙夜と出会う。めちゃくちゃ好きな流れ。

バトルは予想より多かったし、人間同士の駆け引きや、カッティ・サークという人工知能との駆け引きも良かった。また、ドイツでハルトマンに乗せてもらうのも良かった。史実の人間がちょっと変わって出てくるのが良いな。

あと最初にオーヴィルと卑弥呼が出会う時に、Oを王と聞きとって使令の王として扱うのも良かった。これオーヴィルじゃなかったらややこしいけど。

敵のETの正体や仕掛けてくる理由も良かった。生存を賭けての戦いだから引けない。機械が襲ってくるのももとは細菌だからかな。肉体という概念が乏しいゆえスーツの延長で襲ってきてるのかなあと想像した。

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Posted by ブクログ 2020年05月10日

西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼(彌与)とその従者の幹であったが、突如現れた「使いの王」オーヴィルと人語を発する剣カッティに命を救われる。

彼らは2600年後の未来から来た人工知性体で、太陽系奪回軍の参謀総長である知性体サンドロコットスのサブユニットとして創られた有体知...続きを読む性であるメッセンジャー・O(オリジナル、個体名はオーヴィルを選択)と、遡行軍統括の時間戦略知性体カッティ・サーク(女性の声で本体は別の場所にある)であり、彌与が襲われた物の怪は「ET」と呼ばれていた。

オーヴィルは西暦2598年に、人類の第一拠点である太陽系中枢府で生まれた。彼は人類が知識化したほとんどの情報をすでに保持していたが、人と関わることで、データでは得られない人間的な感性を育む期間が設けられていた。そこで出会ったのが補給廠の窓口で、受領者の頭にコーヒーをかけていたサヤカ・カヤニスキアであった。オーヴィルはいかにも人間的な行動を取るサヤカに興味を持ち、惹かれ合い、2人は付き合い始めた。彼女と関わることで愛を知り、そして別れを知った。
オーヴィルの根底にあるものは、メッセンジャーとして与えられた最優先命令としての「人間への忠誠」ではなく、救えなかったサヤカとの記憶、その彼女が望んでいた言葉。「人に忠実であれ…」

オーヴィルたちが創られた目的であり、サヤカと別れなければならなかった理由でもある、人類の敵ETとは、何者か(ETクリエーター)によって創り出された増殖型戦闘機械で、様々な形態のものが存在する。そしてその目的は人類の根絶であり、既に地球は壊滅させられていた。だが、その後の宇宙戦争において劣勢を悟ったETは、今よりはるかに弱小の過去の人類を掃討するため、時間遡行を行った。

一方、人類の存続を目的とするオーヴィルたち知性体も時間遡行を行うが、ETに先を越され、再遡行が必要になる。カッティは、ETが通過する時間枝を見捨て、一気に十万年前に遡行するという無機質な作戦を提示するが、人と触れ合い、感情を獲得しているオーヴィルたち一部の知性体はそれに反発した。結果的に、十万年前に定住してETを迎撃し続ける部隊と、時間枝の分岐点を守りながら遡行を繰り返して十万年前に向かう部隊とに分かれた。

後者のオーヴィルたちは、四百回以上の戦いの末にようやく本隊との合流を果たす。
そこでカッティから、クリエーターの正体が一億二千万年後、化学合成細菌から進化を遂げた生命体であることを知らされた。
クリエーターは時間遡行理論を手にして過去を調査し、地球人の無人観測基地の設置により、自分たちの先祖である細菌類とその母星が一度壊滅しかけていたことを突き止め、その復讐のためにETが送り込まれたという。

その途方もない事実と遡行戦の疲労により、オーヴィルは極東の小さな島(後の邪馬台国)で、ステーションを築いて凍結に入った。そして千二百三十年後、ETの出現により眠りから目覚め、邪馬台国の女王を助ける。
その時代は、十万年前から勝ち続けてきた人類側の遡行軍と、未来を喰い荒らしてきたETとの、時間戦略的な拮抗点であり、決戦の時であった。

彌与は「使いの王」に従い、ETとの戦いに身を投じた。その中で倭国(日本)を知り、世界を知り、「使いの王」の苦しみを知った。そして、彌与はオーヴィルを苦しみから救いたいと願った。たとえサヤカの身代わりだとしても。それから二人は閨を共にするようになった。
しかし戦況は圧倒的に不利となり、彌与は味方である高日子根の愚行により負傷、カッティは自爆、オーヴィルは深傷を負い死亡。人の軍は希望を失ったかに見えたが、彌与が立ち上がり、声を張り上げ宣言した「人類は負けない、海を渡ってでも生き残る」と。

その時、空に超巨大戦艦が現れ、オーヴィルによく似た男の姿があった。彼は二十一世紀時間軍パスファインダーのオメガと名乗った。彼の時間枝は、彌与の決意によりたった今産まれ、そして未来からの援軍はつまり、人類の勝利を意味していた。

オメガの時代に、オーヴィルたちメッセンジャーの戦いは、魏志倭人伝の御伽噺として伝えられていたが、オメガはオーヴィルの亡骸に触れて記憶を引き継ぎ、全てを理解した。メッセンジャー・Oであり、「使いの王」であったオーヴィルの意思は、同じ頭文字を持つオメガに引き継がれた。

オメガはETとの戦争を終結させた後、元いた時間枝で大勢の人々に歓迎されていた。その中で、不思議な格好をした沙夜という名の娘に出会い、胸の高鳴りを不思議に思いながら声をかける。あの日のオーヴィルのように。



270ページと少なめの長編小説だったが、上記の要約できていない要約以外にも、オーヴィルの同僚のアレクサンドルが恋人シュミナに向けて書いていた児童文学の話、高日子根の彌与に対する思惑や、オーヴィル亡き後、おそらく従者の幹と彌与が結ばれ、その子孫の沙夜と、Oの意思を受け継いだオメガが出会ったであろうことなど、魅力的な内容を含んでいる。また、1963年に優秀なパイロットとして少しだけ登場したハルトマンは、史上最多の撃墜記録を持つ、実在したパイロットのエーリヒ・ハルトマンであり、オーヴィルが史実を利用して人選するという話のつくりには、卑弥呼に関しても言えることだが、歴史的興味を掻き立てられた。
未来の知性体であるオーヴィル視点の記述では、本のことを「私製書籍ー脆くてハンドリングの悪い、恐ろしく低密度なデータベースだ。」というように
書かれていたことも印象的だった。
あえて苦言を呈するならば、カッティとオーヴィルの死後、彌与たち人の軍が海を渡り漢土に逃げ切ったとしても、それからETに滅ぼされずにどうやって生き延びたのかと言うこと。オメガのいる二十一世紀には超巨大戦艦が造られるほどに発展していることにも疑問が残る。
とはいえ、そこまで考えさせられた本作は、史実を基に時間遡行や宇宙戦争を絡めた壮大な物語であり、その広大なスケールを見事に書き上げた「時間SF小説」の傑作だった。

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Posted by ブクログ 2016年09月11日

地球を侵略するETに対抗するためメッセンジャー知性体を過去に送り対抗するという筋は某ハリウッド大作映画のよう。もちろん2番煎じではなく、時間枝やETの正体など魅力的なアイデアが物語を彩り、夢中になって読み進めた。しかし最後の最後でヒロインが人類の未来に対し決定的な役割を担うのは、やっぱり某ハリウッド...続きを読む大作と同じで、少し興冷め。個人的にはいろいろと惜しい作品。

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Posted by ブクログ 2023年03月08日

未知なるETの攻撃により地球は壊滅し、人類が海王星を拠点として抵抗を続けている未来。メッセンジャーと呼ばれる強化された人間の身体を持つ知性体達は、人類を救うため時間遡行して敵戦闘機械群を地球にて迎え撃つ。だがしかし、ETも更に時間を遡り執拗なまでに人類を追い詰める。人類の生存を賭けて過去へ過去へと後...続きを読む退していく戦線。ついに最終的な決戦の舞台は古代へ移り、メッセンジャーOと時間戦略知性体カッティは女王卑弥呼と出会う。

正体と目的が分からないETっていうのは、SF的に熱いね。それに「未来からの増援がない」=「人類に未来が無い」と言う残酷な事実に思わず息を詰めてストーリーを見守ってしまう。

多少のご都合主義を気にさせず、骨太のSFバックボーンをラノベっぽい切り口で魅せる、読みやすい作品だった。

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