あらすじ
〈野間文芸新人賞作家が贈る数理的恋愛小説集〉これは多分、「僕たちの初恋の物語」。それともやはり、「初恋の不可能性を巡る物語」──恋愛小説の最先端を駆ける全4篇を収録
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初めて手に取った日から無限に読み直し続けている大好きな短編集だけど、正直理解しているかというと全然そんなことはないしそもそも表題作ばっかり読んでいて全然真剣に向き合ってないな、と思い立って現在の自分にできる最大限の解釈を試みた。
まず、メインの4編はゆるく繋がりあっていること、春夏秋冬が割り当てられていることがわかった。今更。春に芽吹いた定理が夏に枝葉を伸ばして、秋に色を深めて冬に散る。そしてそれら全ては同時に起こっていて、繋がりはなくて、繋がっている。この混み合っているくせにその実シンプルな構造が全編に入れ子となっていて、まあ読んでいて楽しい。
脳が疲れ果ててしまうことは難点なのだけど。
数理的恋愛小説集とか銘打たれているのでその文脈で読もうと頑張ってみるものの、上手くいっているかわからないお話もあった。とはいえ、全ての話に共通してあるのは相互間の断絶と果たしてそれを超えることはできるのか?という命題であって、それって限りなく恋愛なのかも、と思ったりもする。
⚪︎Boy's Surface
春。始まりであり終わりでもある春。青い証明。とにかく大大大大大大好きな表題作。不可能であることを前提にしておきながら、無限の果てに証明が可能であるとしたレフラーのこじれ具合が愛おしくてたまらない。同じものを見ても、個々の認知には差があるのだから受け取った感覚が同じとは限らない。あなたの見ている青と私の見ている青は同じとはいえない。それを数学的に一致すると証明できると言い張ったレフラーが盲視者で、証明のための定理を『目撃した』のがフランシーヌと初めて出会った時で、それってつまりレフラーの一目惚れの証明じゃないですか?僕らの初恋の数学的可能性を巡る物語は、幻視される透明な球体の青い反射が続く限りそれ自体が可能であることの証明になっているんじゃないかな。
⚪︎Gold berg Invariant
夏。初夏の草原のような。地平を壊して新しい世界へと領域を広げる、創世と破壊の物語。どんな計算でもできる計算機を作ってみて、活用できる知能が人間にはありませんでした。そんな経緯がある計算機にGRAPEと名付ける皮肉さが最高すぎる。酸っぱい葡萄じゃん。ところで、このお話は実際に葡萄に手が届いてしまった機構が、曖昧な地平で自己を認識することで創世の破壊を押し留めて、スサノオノミコトが戻ることを待ち続けるという愛憎の物語でもあるわけです。キャサリンであることを保留することでアンカーを打ち込んだわけだ。なるほど愛だ。
⚪︎Your Head Only
あるいは秋。小説という形式を取った機械知性の思索。愛とはなんたるか?対象となるのはあなたと私であり、僕と彼女であり、科学と文学であり、AIと人類である。相互不理解をそのままに、あなたを愛せるでしょうか。分からないままでも、私を笑ってくれますか。
私はこういった類の断絶が本当に大好きで、答えは出ないとわかっていても思考をやめない姿勢が好きで、訳のわからんアプローチから生み出される捻くれた愛の文章を愛しています。全部の話に当てはまるけど、これはかなり直接的だなと感じる。
本編には関係ないが、僕から彼女への描写って円城塔から田辺青蛙への印象だったりするのかな。以前田辺青蛙のエッセイか何かを読んだ際に、円城塔との馴れ初めのようなものが語られていて、相手への印象がこの話の僕から彼女への表現とかなり近い印象があったな、と思い出した。似たもの同士なのか、もしかして。
⚪︎Gernsback Intersection
全てが終わる冬。あり得たかもしれない、けれど訪れることのなかった未来との交点。そこで少女は少女と出会う。始まりはなくて、全ては中途で、続き続ける。百合じゃないですか。めちゃくちゃ濃厚な。4つの短編の執着点であり、出発点でもあるのかもしれない。彼女らの子供たち。
言っていることがよく分からないのは変わらないけれど、アクション性が高くてワクワクする感じがある。想像と現実が交点を持って子を成し、花嫁が襲い、時間は崩壊する。
でもミニマムな視点にすると少女の奮闘なんですよね、想像力が試されてるな。
⚪︎What is the Name of This Rose?
解説する気がまるでない解説のようなメタ小説でありながら限りなく親切な解説。
膨大な引用とパロディと数式があって、私には全然理解が及ばないことがよくわかった。親切だ。
でも文学を楽しむのに必ずしも元ネタを知っている必要も数式を理解する必要もないんだよね。数式の意味なんて分からなくても十分すぎるほどに文学だしね、この本は。
読者の理解と作者の意図が一致しているかどうかは、この空間上では確かめることができない。なので勝手に楽しむことにする。
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安定して円城塔さんの作品は理解が難しいけど、個人的にはその難しさが好き。
知ったかぶりの落とし所というのか、なんとなく腑に落ちるところを探せるまで繰り返し読んでしまう。
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今回の芥川賞にはもうがっかりするのもあれなほどがっかりだったのですが、自分は高学歴フェチなので(笑)好きです、円城さん。やっぱり池澤さんが選評で言っていたみたいに、こういう作品を書く作家がいわゆる純文学系の賞にノミネートされたことが意義があるのだなぁーと思いながら読みました。
もう村上春樹みたいに賞には関係なく書きたいものをずんずんいってほしい作家です。うまく言えないが私はこいう作品はだいすきなのだー。文学ゲィムだとしてもね(笑)。
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日本語で書かれた小説を読んで、何が書かれているかわからないなんてことがあるのか⁉ほとんど何が書かれているか全く理解出来ない。だけど読んでしまうのはこの小説が〈理解出来ない=つまんない〉ではないから。表題作「Boy's Surface」は恋愛(他者との関係)における〈認識と真理〉について書かれていると思って読んだが、この小説はそんな一言二言で要約できるようなものでもない。書いてあることそれ以下でも以上でもない。こういうことだ!と言えないから小説にしているのだ。様々な誤読を取り込んで「はははぁ〜、そうかもねぇ〜」と走り去って行く、そんな小説だ。
私にとっては片想い。たぶん一生理解出来ないだろうけれど、数十年前では書かれ得なかった小説と同時代を生きている幸せに感謝。
巻末の「What's the Name of This Rose?」は解説として役だった。
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リズムや響きが心地よくて、美しくて、でもさっぱり分からない。でもハマる。これは数式なのかな、詩なのかな、と。時々わかる言語がはさまってるかんじ。
恋愛小説だったのか〜
確かにボーイミーツガールしてる。
また読もう…
Posted by ブクログ
「Boy's Surface」★★★★★
「Goldberg Invariant」★★★
「Your Heads Only」★★★★
「Gernsback Intersection」★★★
「What is the Name of This Rose?」★★★
Posted by ブクログ
「Boy's Surface」
盲目の数学者レフラーの恋の物語。しかし、レフラー球なる物体によって変換が何重にも施されているため、何が本当のことなのか分からない。
「Goldberg Invariant」
数学的SFとでもいうような物々しい作品。しかし、これを恋愛小説だと理解するのは相当難しい。
「Your Heads Only」
「僕」と「彼女」が数年に一回再開する話。本文中にもある通り、「恋愛小説の書き換え」なのだろう。
「Gernsback Intersection」
最もSF色が強い作品。しかし、これは誰の恋の物語なのか分からなかった。
「What is the Name of This Rose?」
円城塔にしては珍しく、解説らしい解説。
Posted by ブクログ
表題作「Boy's Surface」を含む数理的恋愛小説と銘打たれた短編集。
足りない頭を総動員して読んだものの、一読しただけでは文字通り作品の上っ面しかまだ理解できていないように感じる。解説でもある5本目の「What is the Name of This Rose?」を読んだ後には、再度じっくりと頭を使い読み込んでみたいと感じさせられた。「Your Heads Only」が中でも特に印象的で、僕と彼女のやり取りや関係性、生物ネタがお気に入り。
Posted by ブクログ
読むメビウスの輪、かな。
完全に揺さぶられました。著者の素敵な罠にはまっていることに気づくのに、意外と時間を要したかな。いや罠なんかじゃなくて、別の何かなのかもしれない。
見たことのない立体図形。四次元図形が浮かぶ。
言葉なのだが言葉ではない?これは文章なのか。いやそういう問いがナンセンスなのかな。普段の私のしている読み方では太刀打ちできない類の代物。
そう言えば、「文学には新しさが必要」って友人が言っていました。“文学が、円城塔に追いついた。”と本書の帯に書かれていますね。
Posted by ブクログ
小説というよりは文脈を用いたプログラムのようで難解な感じ。なかなか理解できず、何度も戻って読み返すのだけど、それも意図されたアルゴリズムのような、不思議な本。
Posted by ブクログ
数理恋愛小説がテーマの5編から成る短編集。
概念や理論を擬人化させ、恋愛を数理的に解釈するというイメージ。
前作はそれなりに読みやすいと思っていたが、これに手を出して改めて円城塔の難解さを目の当たりにする。
数学的構造物レフラー球を発見した数学者、レフラーとフランシーヌの恋を描いた表題作「Boy’s Surface」は前回の流れで読み進められたが、それ以降は確かに難しかった。
作品の雰囲気や流れるような文章で、面白く読めたことは確かなのだが、厳密に理解できたかと問われれば否。
が他の皆さんも語られている通り、「わからない」は文脈と作者の意図の話で、目の前に展開する異様な光景は、ただそれはそれとして受け入れるだけでも面白いのは確かなので、不思議とこの人の作品には引き付けられてしまう。
Posted by ブクログ
もちろん癖はありますが、数学も物理学も難しいことはおそらく本当には必要ありません。“白紙地帯”を許せること、それをそのままに置き去りにし、そこに世界の拡がりを感じられること、それさえ出来れば円城先生の世界の出来方を充分に楽しめます。理論で遊んでいるようで、あらゆる理をバットで打ち返す、勢いのある凝ったジョークといった印象です。それも古式ゆかしいインテリが好むエスプリに、今日的な雑味をわざと混ぜたようで、なんとも変な味。それはそれで、好きです。
Posted by ブクログ
-わたくしという現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い証明です-
『春と修羅』より
この作品の冒頭部分。
1ページ目にある言葉。
宮沢賢治が生前唯一刊行した心象スケッチの一部なのですが、
私が持っている『春と修羅』では
-ひとつの青い《照明》-
とあります。
証明と照明。
だいぶ、印象が変わると思いませんか?
円城さん、あえてでしょうか?
それとも、ただの誤植でしょうか?
話の本筋より、
そちらが気になって仕方ありません。
Posted by ブクログ
凄い歯ごたえのある小説。
何度もページを行きつ戻りつしつつ、この小説の本当の姿を見極めようと夢中になっていた。
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久しぶりに読み返したら、より好きになった。楽園に関するくだりが、震えるくらい好きだ。
Posted by ブクログ
前作「Self-Reference ENGINE」から、さらに数理の側に舞台を振った中篇小説集。言葉が言葉を駆動して物語が展開していく、このドライブ感がいいです。言語の生成アルゴリズム自身による探索の物語「Goldberg Invariant」と、二つの異なる数理空間が直行する時空で出会った二人の恋愛小説「Gernsback Intersection」が私的には好みです。
Posted by ブクログ
4つもしくは5つから成る短編集。あちこちにトリックがあるように見えてただのブラフだったり、ネタバレされても難しい伏線だったりと、情報量が多い。
円城塔作品を読んでいると、創造された世界の傍観者として読み始めるのに、いつの間にか読者も作中に取り込まれてしまい、「本」の領域にすっかり包まれてしまったようになる。
ゴタク文学としての面白さがまずあるが、この「傍観者を取り込もうとする作品世界」が妙に癖になる。
Posted by ブクログ
どうにも良く分からないことを知的な口調でこねくり回してる恋愛?小説。
SREの上を行く意味わからなさ。
円城氏の手の中でまたもや踊らされた。
分からないなりに面白いんだけど、理解出来そう…と思った瞬間に笑いながら手をすり抜けて走り去ってしまわれて悔しい。
収録の短編ではYour Heads OnlyとGernsback Intersectionが多少理解出来たようなそうでないような。
★つけるなら3.5、というところだけど0.5がないので四捨五入。
あと、文庫のカバーが可愛い。“I Love you”にニヤリとした。
Posted by ブクログ
それぞれが数学的図形や定理に基づいてその哲学的原理の想像を飛躍させた先に恋愛小説として描かれている。一読した時は意味不明な定理の羅列に見え、また各章間の論理的つながりも全く不明に思えた。それに耐えて、最後まで読み切り、また解説も加えればある程度理解できた気がする。(といっても解説も一癖ある。)数学、情報科学、科学史、文学の引用が多いので、それらの基礎知識を有した上に、SF耐性が付いてる人であればすぐにこの面白さを完全に理解できるのだろう。
Posted by ブクログ
残念ながら僕には読み解ける脳味噌も、感じ入る感性も、意味がないオチしかないと思った時点で読み続ける甲斐性もなかったみたい。
コードを共有してない言葉をただ発しつづけるのはただの自意識過剰というのだな。こっちからすればただのナンセンス小説。文章自動生成アルゴリズムを模した作品だからそれでもいいのだろう。それだけに滲み出る自意識が鬱陶しい。
人間はプログラムになりきれない。プログラムは人間になりきろうとしてるのにね。
Posted by ブクログ
ふむん。神林っぽいんだがなんか違う。面白くないわけじゃないけどなんだかなぁ。なんかすごく読みにくい。題材次第で買うはずだろうけども。なかなか現場が想像できないので小説として読んでいて難解なのである。
Posted by ブクログ
小説でこんなに難しいと感じた本は
今まで読んだことがない
伊藤計劃好きなら気になる円城塔の短編集
「難しいだろうな」と思っていた予想をはるかに上回る難解さでした
全編通して「本」や「言葉」や「文章」について・・・
なのかなとオモウ
短編集なんだけど、全編に通じる何かがある・・・
とオモウ
数学と言語の絡み合いとでもいうのか
とにかく算数の時代から苦手な自分には
創作なのか本当にあるものなのかわからないことがたくさんあって
休憩がてらググッてみたりして
初めて「あ・・・創作なのか・・・」と気づいたり
感想として述べたいことは山のようにあるけど
「違うのも読んでみよう」と思えたし
発想力とか視点をスゴイと思ったので
星3つ
本当に難しかった
アタマいー人ならすらすら読めるのかも
Posted by ブクログ
冒頭で諦めかけて、半分くらい読んだところでわかりかけたのに、わかりかけたところで物語は終わる。なにかヒントは無いものかと謎の図を眺めたり解説(?)を読み始めるうちにまたわかったような気がしてくるが、すべて読み終えてみるとやっぱり、わからない。裏表紙の内容紹介が一番現状を把握しやすいので、頭の中が迷宮入りしたときは見直すのオススメ。「実験的」っていうのが前衛的、じゃなくて、手続き的とか実践的という感覚だからわからなくても読んでしまうのかも。実験台。表題作もいいけどGernsbackが厨二でよかった。
Posted by ブクログ
何度読んでも分からない理論と同じで、この本も行きつ戻りつ、で、誰が主人公?ってな感じで、印象としては哲学に近い。存在しない理論や数式、あえて言い換えた箴言、等々細部にこだわって面白く、俯瞰しても茫洋としているが面白い。そして、結局何物も攫めない。
Posted by ブクログ
デビュー作よりさらに難解さに磨きがかかって世界観にのめり込むのに気力がいる。
言葉とか概念とか学説とか、そういったものを玩具にしてこねくり回しまくってるので何回か読み直さないと、完全に置いてきぼりにされる。
ただ、ふっきれてしまえば完全に別次元へ逃避行できる感じはすごく好き。
小説に対する感じ方って人それぞれで正解がないっていうけど、作者の意図する捉えられ方がまったく推測できないです。
Posted by ブクログ
4つの短編収録
数学も映画も本の知識も乏しいから、そこここに散りばめられた冗談や示唆に、気付けなくて悔しいなとは思う
けれど、面白かった
知識は使われてこそ、輝く。言葉遊びも含めて。
1日1冊を目標にしてたけど、この作品で目標を捨てた
じっくり、読むのが楽しかった
注意深く、見ていきたい作家さん
Posted by ブクログ
数学的な図形を、物語の構造として応用しているのだろうか
実験ということなのかもしれないが、無駄に疲れるだけではないか
しかもやたらと衒学的で、ネット検索無しには意味のわからない比喩表現とか多すぎ
読み解く楽しみは、確かにあるのだけど・・・
「Boy’s Surface」
架空の問題「レフラー予想」の証明が、愛の証明でもあるという少女趣味
「Goldberg Invariant」
愛のない人間に向けられたコンピュータープログラムからの愛憎
「ターミネーター」のパロディかもしれない(空網…)
「Your Heads Only」
読者とテキストが愛し合った結果、「メタ的な何か」が生まれる
恋愛小説の主人公である「僕」は、
彼女の背後にある「メタ的な何か」ばかり気にしてる
それらはすベて、読者である僕の頭脳が精製した物語だけど
「メタ的な何か」はセル・オートマトンの波紋として実体化している
「Gernsback Intersection」
通常タイムパラドックスと言えば現在から過去を改変して起こるものだが
ここでは現在から未来を改変しようとしてしまう
それって普通じゃね?と思うんだが
どうもこの小説の世界では、大変なことが起こりすぎてて
大人たちはみんな頭がテンパっているらしい
Posted by ブクログ
数学的な論理を折り混ぜて、独特の世界を構築した数学SFであり恋愛(?)小説。正直に言って一貫性があるのかないのかも分からず、どんな世界か理解し切るなんてまず無理ですが、なんとなく朧気なイメージだけが残り、この意味の分からなさを堪能する為に読んでいる感じです。そして唐突に出てくるしょうもない小ネタが出てくるとつい笑ってしまいました。気持ちに余裕のあるときに読むのをお勧めします。