あらすじ
おのれの悪を凝視し、絶望的体験の地底から恐るべき記憶と無類のユーモアを武器に、
日本人再生の希望を掘り起こす、迫真のライブトーク。
文学と考古学という各フィールドにおいて名声高き重鎮の二人。
しかし、彼らがこれまでの命がけで歩いてきた道のりを知れば、
人を「勝ち組」「負け組」などという言葉で片付けてしまうことが、いかに無意味なとこかがわかる。
「平和な時代に改めて戦争の話を持ち出しても野暮だと言われることを承知の上で」、
二人は重い記憶を掘り起こし、現代の私たちに問う。
年間3万人もの自殺者がいて、子殺し、親殺しが跋扈する。
戦争でもないのになぜ人の命はこんなにも軽くなってしまったのか。
人は誰もが本質的に弱い存在である。
だから自分も他人も大切にしよう、
一日一日を大事に生きようと一人一人が自覚して生きていく、
この自覚こそが「弱き者の生き方」なのだ。
弱き者の生き方【目次】
第1章 弱き者、汝の名は人間なり
人は弱し、されど強し
虎屋の羊羹、銀座のネオンで殴られる
ジェノサイド(集団殺戮)そのものの東京大空襲
生き地獄―戦友を蹴落として生き延びる
悪を抱えて生きること
語りえなかった引き揚げの真実
第2章 善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや
極限状態で交錯する善と悪
二度目の撃沈と敗戦
涙の漫才修行―人生に無駄はない
日本の植民地支配の爪あと
語られない引揚者の悲劇―残留孤児と不法妊娠
右へ左へ揺さぶられ続けるのが人生
第3章 心の貧しさと、ほんとうの豊かさ
肉親の死を身近に感じる大切さ
お金という魔物
学内闘争でつるし上げられる
わが青春の登呂遺跡発掘
人は泣きながら生まれ、時に優しさに出あう
経済的貧困と貧しさとの違い
金では買えない「誇り」を抱いて
第4章 人身受け難し、いますでに受く
人生の峠道でたたずむ
人間性と謙虚さ―前田青邨先生の教え
斜陽館での一夜―師匠と弟子の『人生劇場』
赤線とドジョウすくい
想像力の欠如と「心の教育」
人間として生まれた奇跡と幸運
なぜ人を殺してはいけないのか
第5章 人間は、ひとくきの葦である
「負け組」などいない
辛いことも直視する勇気をもちたい
時には黙ってただ寄り添うことも大事
潔癖すぎる現代社会
だれにでもある不安やコンプレックス
弱き者たちへ ―人は皆、それぞれの生を生きる
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
経験者の言葉ほど重いものはない。
私はどこの地に立っても、足元の土を感じながら、あの頃何があったのか、どれだけの人が命を落としたか、どんなに無念だったか、考えずにいられない。
その命と犠牲の柱の上に私たちは生きてるわけでしょ。
ならば、やっぱり今の時代をガンガン切り開いてアドレナリン出しながら生きていこうと思うんだよね。
P5 絶望におちるのではなく、希望にすがるのでもなく、微笑みながら夜をいく人、というのが私の感じたことだった。
P39 東京大空襲:日本人の、敵を恨むという感情をわりあい早く消し去る国民性というものは古代からあるんでしょうか。
P57 極寒のシベリアで夜中、虱が隣で寝ている人から自分のほうにうつってくることが嬉しかったというんです。
P66 無言でたちあがっていく。そういう女性が3人、4人とソ連兵にジープに乗せられていく。そして朝、ボロ雑巾のようになって帰ってくる。(中略)同じ女性でありながら、近づいたらだめよ、そういう人は性病をもっているから、と子供にいう。
P104 大英博物館のように、世界中の植民地から持ってきたものを堂々と陳列しているのをみると、いったいどういう制震構造をしているのかと思いますね。
P111 北朝鮮に残留孤児が何千人いると思います?
P162 人はすべて、この世という地獄に生まれてくるのではないか。その地獄のなかで、時として思いがけない歓びや友情、見知らない人との善意や奇跡のような愛にであることがありますよね。
P229 仏教では、人身受けがたし、という表現をする。人間として生まれるということは、稀有なラッキーなことであって、修羅・餓鬼道・畜生などといっぱいある世の中で、蚊にも生まれず、蠅にもうまれず、人としてこの世に生まれたということは、もうほんとに信じられないくらい奇跡で幸運なことである。だからその幸運な命を大切に、と言われているわけですね。
P232 かつて奈良時代に流行した言葉が、和魂漢才でした。
P239 ある時期は耐えること、涙をこぼしながらも耐えることが必要だなぁ、と思います。
P249 生きていくということは大変なことで、心が萎えてしまって生きる気力がなくなるときもある。(中略)引き上げてきた自分が無事に内地に戻ってこられた過程には、ずいぶんたくさんの人たちを押しやって、足で蹴飛ばしてきた、だからこの命はそういう人たちをのぶんまで生きてあげなきゃいけないんだ
P250 本当に明るく生きるためには、暗さを直進する勇気をもたなければいけない、ほんとうのよろこびというものを知る人間は、深く悲しむことを知っている人間なのではないかと思う。
P255 ちゃんとした死に方なんていうものなんてない。ちゃんとした生き方があるだけなんで。
P256 悲というのは、そばにいるだけで、何も言わない。黙って相手の手の上に手をのせえt、相手の顔を見つめている。
P279 自分のなかには、命というものは自分だけのものではなくて、帰ってこれなかった人たちから預かった命だという、そういう意識があった。
Posted by ブクログ
五木寛之と考古学者である大塚初重との対談本。戦中・戦後の悲惨な体験が、糧というよりは重荷となりながらも生きてきた二人の話は、やはり深い。考えさせられる一冊。2007/10/08