あらすじ
平成3年、神奈川県で発生した2児同時誘拐事件から30年。
当時警察担当だった新聞記者の門田は、旧知の刑事の死をきっかけに被害男児の「現在」を知る。
未解決のまま異様な展開をたどった事件の真実を追ってきた刑事たちの求めから、門田は再び30年前の事件と向き合うのだった。
そして取材を重ねていくなか、ある写実画家の存在が浮かび上がる――。
第9回渡辺淳一文学賞受賞、2024年度本屋大賞第3位、
「本の雑誌」が選ぶ2023年度ベスト10第1位!
質感なき時代に「実」を見つめる著者渾身の長編小説が遂に文庫化。2027年映画化決定!!
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Posted by ブクログ
自分は森博嗣をきっかけに本を読むようになったのもあり、こういった所謂社会派ミステリと呼ばれるジャンルは普段あまり読まないのだが、特徴的なタイトルと表紙、本屋大賞ノミネート作であることから気になってはいた。
文庫化されたことと、なにより仕事終わりにふらりと立ち寄った本屋さんでサイン本が並んでいたことから迷わず購入。
読み終えた第一感は「この作品に出会えてよかった」
久々に心からこう思える1冊に出会えたと共に、単行本の時点で購入しなかったことを若干後悔。
近頃の話題作、特にミステリというジャンルは「どんでん返し」で読者を驚かせることが最重要視されているような気がして、個人的には「確かにうまく騙されたけど、それで?」という感想になってしまう。
かといって作者のメッセージ性が全面に押し出されている作品を読むと、なんとなく作者の「俺、世間に刺さること言ってるやろ?」を如実に感じてしまい、これはこれで冷めてしまう。
読みはじめた頃は「騙された!」という感情が素直に面白さに繋がっていた気がするのだが、、、
ある程度読んでいくと、最初は面白いと思っていたものが、刺さらなくなってくる。
これはミステリ好き故の解決できない矛盾だと思っている。
自分で書いていても「めんどくさい読者だなぁ」とは思うのだが、その分この作品のようにぶっ刺さる作品に出会えた喜びはひとしおである。
これだから読書はやめられない。
二児同時誘拐事件を通して描かれる、家族(敢えて家族と書かせていただく)の愛情をはじめとした人が人を想う感情。そして「写実画を描く」とはどういうことか。なぜ写真ではなく「写実画」が求められるのか。
作者や写実画家さんが伝えたかったであろうそれを、読み進めていく上で自分なりに理解したとき、思わず涙してしまった。
読み終わった今、「存在のすべてを」というタイトルと、この本の表紙に込められたメッセージを想像するだけで胸が熱くなる。
読む前は「なんやろ、表紙の紐みたいなやつの写真」くらいに思っていたはずなのだが。
間違いなく人生を変えてくれる1冊になったと思う。
「読んでよかった」と心の底から感じられる本であった。