あらすじ
小説執筆のためパリのホテルに滞在していた作家・植村は、なかなか筆の進まない作品を前にはがゆい日々を送っていた。しかし、そこに突然訪れた奇跡が彼の感情を昂ぶらせる。透き通るような青空の下で、恋が動き出そうとしていた。ポケットに忍ばせたロックンロールという小さな石ころのように、ただ転がり続ければいい。作家は突き動かされるように作品に没頭していく――。欧州の地で展開される切なくも清々しい恋の物語。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
大崎善生さんの書くものが好きだ。
読むのは12冊目になる。
熱帯魚、出版業、環状線をぐるぐると回る、ヨーロッパ、音楽…
そういう繰り返されるモチーフの中に、はっとする言葉がある。
キャラクターとか関係性とか心情とかそういう物語の在り様ではなくて、
言葉拾いをしながら読むような感じ。
安定して流れる物語の中で、安心して自分のための言葉を探せる。
小説の中で扱われたような意味合いでは見たことの無い言葉。
今回は「くもの巣の修繕」、「窓」、「掘削機」がわたしに差し出された。
「鍋」や「ノシイカ」、「ロバ」、「小石」、「中指」、それだって良かった。
読みながら、沢山の知人を想起したこともおもしろかった。
それから、イッセー尾形さんの解説もぴたり。
これでまた、大丈夫になった。
きっと、次読むときに見つかるのは別の言葉だろうっていう予感。
Posted by ブクログ
大崎善生さんの『ロックンロール』
主人公の作家の植村は、第2作目の小説執筆のため、パリ近郊のポートオルレアンのホテルに滞在しています。そもそも彼は、熱帯魚の雑誌の編集長をしていたが、高井という編集者が彼を訪れ、口説き落とし、小説家にしたのだ。植村のデビュー作は評価が高かったが、2作目の筆が遅い。そのため、ヨーロッパに来訪し、小説を書くことにしていた。しかし、それでも筆が進まず、焦燥感に苛まれる日々を送っている。
植村は、彼宛に送られてきたCDをふと思いだす。ジョージハリスンの『All things must pass』。送り主の名前に心当たりはない。
ではあるが、20歳の頃、ジョンレノンが亡くなった夜、ロック喫茶で出会って一夜を共にした女性、そしてその女性とのセックスを思い出していた。
そんな中、突然、ある女性がポートオルレアンの彼の部屋のドアをノックする。名前は石井久美子。彼女の登場により、植村生活に変化が訪れる…。
物語は、レッド・ツェッペリンの名曲を背景に、パリで繰り広げられる恋模様を描いていきます。
と言ってもなんだか美しい恋愛小説というわけではなく。
笑ってしまうような縺れた人間関係。
久美子は高井の3人いる彼女の1人ではあるし、久美子は元彼の鏑木との仲も煮え切らない。植村の態度もはっきりしない。
響いてくるのは植村の好きなロックンロールのメッセージ。ロックンロールの小さな石を握りしめて、歩いていこう。どんな哀しみにも対抗できる魔法の歌。
相変わらず、大崎善生さんの文章は表現が美しく、流れるようでとても読みやすいです。
Posted by ブクログ
作者の自伝とまではいかないまでも、私小説的な作品だと思います。
パリで執筆中の駆け出しの作家が主人公。
上質な日記を読んでいる感覚に近いです。
この作家が後半、酔って「小説とは」を語りだすのですが、これが個人的にあまり共感できませんでした。
「適切な言葉を使って表現する、その枝葉の積み重ねの先にある樹が小説」……「一つ一つの場面を書き連ね、その先に結果的にストーリーや感情がある」……
この書き方では、主人公の望むような大作は書けないと思わずにはいられません。
この小説は、まさにこの主人公が語った手法そのまんまの書き方をしたんでしょう。その場その場でカッコいいフレーズは出てきて読み心地もいいのですが、全体として完成された作品であるのかといわれると、そこには疑問符を付けずにはいられません。
また、狙ってやっているのか「ウンコたれ野郎」「ジャパネットたかた」「この陰毛が~」は、正直自分的にはキツイです。
あとは、村上春樹先生の影響が強い作家さんだと感じました。