あらすじ
精神科医の榊は美貌の十七歳の少女・亜左美を患者として持つことになった。亜左美は敏感に周囲の人間関係を読み取り、治療スタッフの心理をズタズタに振りまわす。榊は「境界例」との疑いを強め、厳しい姿勢で対処しようと決めた。しかし、女性臨床心理士である広瀬は「解離性同一性障害(DID)」の可能性を指摘し、榊と対立する。正常と異常の境界とは、〈治す〉ということとはどういうことなのか? 七年の歳月をかけて、かつてない繊細さで描き出す、魂たちのささやき。
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Posted by ブクログ
由起の多重人格の描き方が手に汗握るものがあった
本当の精神病院の一幕を切り取ったような、そんなリアルさのある小説だった
そして、それは膨大な参考文献によるものなのだと巻末の参考資料を見てわかった
都博の美術品が果たして贋作なのか、亜佐美は治るのか、気になるところはあるが、読後の満足感のある作品だった
Posted by ブクログ
昔読んだ、五番目のサリーを思い出す。
ディティールが似ている。
症例Aを治療すると見せかけて、最後に治そうとするのは…。
心理描写が細やかで引き込まれる話だった。
Posted by ブクログ
4 精神病診断の難しさに向き合う精神科医榊を中心とした精神医療と博物館の真贋を巡る謎が交互に展開される小説。統合失調症、境界例、多重人格の違い、見極めの難しさ、各々の療法などが理解できる。物語としても面白く、榊と臨床心理士である広瀬由起による、診断の難しい患者亜佐美に対する対処のせめぎ合いなど。実際の現場の微妙な権威構造を如実に表しているらしい。精神医療に対して困難な局面に立ちながらも真面目に真摯に取り組んでいるあたりが面白い。博物館の謎は、精神病一本でもよさげではある。
Posted by ブクログ
精神科と厄介な患者の話と、平行して博物館に保存されている物品の真贋の話。以下どう書いてもネタバレなので、その辺はご了承ください。
精神科の患者が異性であり、さらにパット見は自分について外から見ているような冷静さを持っているという、だれがどう見ても厄介な症例と、過去に似たような患者での失敗。手詰まりな状況はほぼホラーと言えそうな状況。
一方で、博物館の所蔵品に偽物があるという古い手紙。
巻末の膨大な参考文献からも分かる通り、主題は前者のストーリだし、博物館関係者も精神病を病んでいるわけで、この本、出てくる人の90%はビョーキなのだ。
ブレイクスルーになる、多重人格については、ちょうどシュライバー医師あたりの話が流行ってたんでしょうか。ちょっと取ってつけたような話ではあるものの、よく調べられているだけあって、真に迫っている。
中盤以降、繰り返し同じようなフレーズを自己引用する文章が多いため、ややくどいと感じるものの、全体を通すと力強いストーリーはなかなかの力作だ。
Posted by ブクログ
読んでいてノンフィクションではないか?と思うぐらいリアルに感じる小説でした。
多少精神の知識を持っている自分からしたらほんとにリアルで、コミュニケーションをとる時にも何処か別の世界にいてさらに電話越しに話しているそんな感じをとても詳細に書いていてどんどんのめり込んでいきました。
この小説を読んで改めて精神を型にはめるのはどうなのかとも思いました。確かに治療という行為を行う上で伝えるときや定義等はしっかりするメリットはあると思うが、それを決める事で先入観や思い込みというデメリットも生じてしまう。
この小説を通じさらに自分の精神の特徴を知りたいと思えるようになりました。
Posted by ブクログ
途中までとても面白かっただけに終盤が残念。
あさみの症例がわかったのなら、診断を受けている過程の描写を読みたかったなと。
多重人格について全く知らなかったので勉強になった。
精神世界の知識がないので知りたいと思ってしまった。
Posted by ブクログ
精神科医の榊による美貌の17歳の少女,亜左美の治療のパートと,博物館の職員である江馬遥子が中心となり調査をする美術品疎開についてのパートからなる,独特の雰囲気のミステリ。「解説」にもあるが,精神医療のパートについて,精神科医と臨床心理士との関係などの精神医療の現場の様子がリアルに描かれており,読み応えがある。多数のエピソードが多層的に描かれている作品であり,それぞれのエピソードが重いのだが,かなり印象に残る。
まず,榊と苗村加奈とのエピソード。苗村加奈を境界性人格障害と診断し,治療を試みるが,疲弊し,最後は苗村加奈の自殺と榊の離婚という形で終わったという部分は,重い。また,苗村加奈の本当の症状が解離性同一性障害であった可能性=すなわち,榊が診察・治療を誤ったと思わせる描写まである。
また,臨床心理士である広瀬由紀自身が解離性人格障害であるという告白と,広瀬由起の半生についてのエピソード。恩師である城戸医師が,末期癌で死亡するという点も含め,非常に重い。
これらに加え,メインとなる亜左美の治療。最後に,亜左美が解離性人格障害であったことが分かる。物語全体を通じ,亜左美が解離性人格障害であったと思わせる伏線がちりばめられてある。
博物館パートの美術品疎開については,ミステリとしての完成度を高める役割はあるとも思うのだが,やや蛇足という感じがしないでもない。しかし,最後に,五十嵐という人物の存在も含め,一つに収束していく様子はエンターテイメントとしてのミステリ作品らしい,見事な展開といえる。
しかし,一番最後は,榊が広瀬由起の治療を続ける覚悟をしたことを伝えるシーンで終わっており,ミステリとしての印象を薄くしている。亜左美が解離政治なく障害であることが分かる部分で終えるか,美術品疎開と病院との関係が分かった部分で終えた方が,ミステリとしての印象を残して追われたように思う。ミステリとしての完成度が下がってしまってでも,広瀬と榊の治療というシーンで終わらせたところに,作者がこの作品で真に書きたかったことが,精神病の治療であったことが分かる。
乖離性人格障害を描いた作品でありながら,その治療という面を最もクローズアップさせた作品という特殊な切り口に感心させられる作品である。ただし,その分ミステリとしての完成度は下がってしまっている。痛しかゆしといったところ。★4で。