【感想・ネタバレ】幸福な遊戯のレビュー

あらすじ

ハルオと立人と私。恋人でもなく家族でもない三人が始めた共同生活。この生活の唯一の禁止事項は「同居人同士の不純異性行為」――本当の家族が壊れてしまった私にとって、ここでの生活は奇妙に温かくて幸せなものだった。いつまでも、この居心地いい空間に浸っていたかったのに……。表題作「幸福な遊戯」(「海燕」新人文学賞受賞作)の他、「無愁天使」「銭湯」の2編を収録。今もっとも注目を集める作家、角田光代の原点がここにある。記念碑的デビュー作!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

2014年の67冊目です。
3つの短編が収められています。
1つ目の「幸福な遊戯」は、女子大学生の主人公が、男性2人と、家賃の倹約の為シェアハウス生活を始めます。そこでのルールは「同居人同士の不純異性交遊」禁止です。自分自身の家族から得られなかった”居心地の良さ”を3人の生活の中に見出した主人公。でも、自分より”生きる目的”を未だに見出していないと思っていた、彼らが、追い求めることを見つけて家を出ていきます。取り残された寂しさや焦燥感にさいなまれながら、前に進むことができない若い女性の心情が描かれています。私の年齢では考えられない「不純異性交遊禁止」付の男女一緒のシェアハウス。でも、そこにしか、自分の居場所を見つけられなかったという設定が、主人公に対する不憫さを強くします。突き詰めると家族の情の薄さが、奇妙な生活を作り出しているような気がします。3人の間に、全く恋愛感情が発生しないのも少々奇妙の感じがしますが、この「不純異性交遊」禁止は、守られることはあるませんでした。
2つめの短編は、「無愁天使」です。
これも、母親との支配的関係がその死によって崩壊したのちの、私の刹那的な生き方が描かれている。たくさんあった母の保険金を憑かれたように物を買いまくり使い果たし、お金の為に風俗係の仕事をするに至るのだが、そこには、淡々とした心のうつろいのみがあり、後悔や後ろめたさは見られない。彼女の初老の客が、”死”をイメージして眠るという奇妙な癖を持つ。今生きていこの時間を、眠りにつくたび、洗い流し人生をリセットするかのように。何度も死に生まれ変わる儀式を繰り返すのだが、決して彼女がそれで救われることはないように思える。満たされないことは、出口のないことのようにさえ感じる。
3つめの短編は、「銭湯」です。主人公の彼女は、就職した今も、アパートにお風呂が無く、銭湯に通います。そこに、丹念に丹念に体を洗い磨く普通の容姿で普通のスタイルの女性客を見つけます。主人公は、都会で学校を卒業した後も、好きな演劇を続けていると母親に偽りの手紙を書きます。実際の彼女は演劇を諦め小さな食品会社で目的もなく、働きます。それは、母に書いた偽りの自分を確かなものに変えるためのようにも感じられます。でも、この手紙は、一度も母に差し出されることはありませんでした。どちらの人生にも意味のないことに、気がつくきっかけが、銭湯の中の些細な出来事からやってきます。人が自分の人生に、これでいいんだと気付くのにドラマはいらず、日々繰り返される些末な出来事だと思います。

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2014年12月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

家族団欒の中に身を置くことのできなかった喪失感。寂しさを怠惰で無気力な3人の生温い共同生活や愛のないセックスで埋め合わせざるを得ない哀しみ。必死に守っていた3人の共同生活さえも喪失してゆかなければならない哀しみ。寂しく悲しい作品であった。自分は家族団欒を手に入れることができた。形式的には。でも、もっともっと心の通い合う団欒を作ってゆきたい。そんな前向きな気持ちに誘われた。

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2012年07月14日

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