あらすじ
過去の辛い思い出に縛られた美希は、四十路の今日まで恋も人生も諦め、高知の山里で村人から「狗神筋」の一族と忌み嫌われながらも、静かに和紙を漉く日々を送ってきた。そんな時、一陣の風の様に美希の前に現れた青年・晃。互いの心の中に同じ孤独を見出し惹かれ合った二人が結ばれた時、「血」の悲劇が幕をあける! 不気味な胎動を始める狗神。村人を襲う漆黒の闇と悪夢。土佐の犬神伝承をもとに、人々の心の深淵に忍び込む恐怖を嫋やかな筆致で描き切った傑作伝奇小説。
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Posted by ブクログ
どこで買ったのか記憶にはないがそこそこ最近手に入れたはずの本。
昔は角川ホラー文庫をよく読んでいたものだが、最近はあまり読んでなかったので久しぶりのゾクゾク。
帯に『「血」の惨劇が幕をあけたーー』とあるので、村人全員滅びるとか狗神に食い散らかされるとか狗神の狂気が村人に伝染して殺戮の宴が…!
という展開を予想していたのだが、特にそんなことはなく、いや、死者はとんでもない人数になってはいるけど、津山三十人殺し的なことではなかった。紙漉きを生業にする女性が淡々と暮らしていく日々が描かれていき、あんまり血の惨劇感はないなぁ、と改めて見直したら… 『「血」の悲劇』だった。
「血」… そういうことか!狗神筋の血ということか… それだったらまあ、納得の血の悲劇だわ。
最初に男性が善光寺の胎内めぐりみたいなやつをしていると、なぜか出口がわからなくなり、同様に迷っている女性と途方に暮れている間に女性の話を聞き始めると… 女性の過去語りが始まる。
女性の村には、一見支配階級にありそうな大きな一族、坊之宮家がある。その一族の人でもあるが色々あってあまり一族には関わっていない、村で紙漉きを嗜む41歳の女性が主人公。
女性は過去、若いときに子供を死産していてそれ以降は結婚もせず、一人でずっと仕事をしている。村の人達は苦手だけど、村自体は好きというおとなしい女性。平和に暮らしていければいいんだけど、これってホラー小説なのよね。
静かに暮らそうとしていたのに、若いイケメンの中学校先生と激しい恋に落ちて子供までできてしまうが、その先生は実は女性の息子というそらもうインモラル。そもそも若いときの子供も、知らなかったこととは言え実の兄との子供だったわけで、血が濃くなりすぎている!
でもイケメンも言っていたように、お互い知らなきゃ関係ないっちゃあ、ない。なにかの力が働いてるのかってくらいサバサバしすぎな気もするが。
しかし、狗神様はせいぜい主人公の憎しみに呼応して相手を呪ったり、最悪殺したりしてしまうくらいだけど、村の人間は30人以上の坊之宮家の人々を一気に焼き殺すという、桁が違う残虐さを振りかざし、しかも物語の最後で別に罪を償っているわけでもなく、ショットガンで殺人したジジイすら普通に生きているという…
やっぱいっちゃんおっとろしいのは狗神様じゃねぇ、狗神様を弑し奉ろうとする一般村人だべぇってなった。
タイトルは実は「狗神(より怖いのはやっぱり人)」なのかもしれない。
しかし、最初の男性もなにか血の関係がありそうだが、坊之宮家は絶滅してそうなんだよなぁ。
Posted by ブクログ
初めて読んだ坂東眞砂子氏の作品。トリックのあるミステリーなのか、ホラーなのか‥‥ホラーでした。濃い血の繋がり、いわゆる近親相姦と、閉鎖された山村での村八分が描かれています。ドロドロですが、先が気になって、あっという間に読破。
Posted by ブクログ
なんとも業の深い物語である。
前作『死国』と同じく作者の故郷、高知の山村、尾峰という閉じられた空間を舞台に、昔ながらの風習が息づき、「狗神」を守る坊之宮家とそれらに畏怖の念を抱く村の人々の微妙な関係をしっかりした文体で描いている。
前作『死国』でも感じた日本の田舎の土の匂いまでも感じさせる文章力はさらに磨きがかかっていると感じた。後に『山妣』で直木賞を獲るその片鱗は十分に感じられた。
そして今回は物語の語り方が『死国』よりも数段に上達したように感じた。
まず主人公の美希の人物造形である。
この41歳の薄幸の美人の境遇に同情せざるを得ないような形で物語は進んでいくのだが、次第に明かされていく美希の過去のすさまじさには読者の道徳観念を揺さぶられる事、間違いないだろう。
結婚を諦めざるを得ない原因となった高校時代での妊娠。
しかしその相手が従兄である隆直だという事実。
そしてその隆直が実の兄だったという三段構えで、この美希の業の深さをつまびらかにしていく。
その他にも、物語の前半で美希の人と成りを彩る色んな小道具が、実は美希の業の深さを知らしめるガジェットであることを知らされる。特に美希が毎日手を合わせる地蔵の真相には胸の深い所を抉られる思いがした。
まさか死んだ我が子がその下に埋められているとは。しかも尾峰の言い伝えである、死んだ赤子を路傍に埋め、石を載せないと甦るという迷信から石を地蔵に仕立てたなどという、驚愕の設定なのだ。
この坂東眞砂子という作家は、人間が正視したくない心の奥底に潜む悪意というものを眼前に突き出すのが非常に上手い。「これが人間なのだ」と決して声高にではなく、静かに読者に語りかける。云うなれば、そう、人間が獣の一種なのだという事実、獣が持つ残忍さを秘めている事を改めて思い知らされる、そんな感じがした。
そして坂東眞砂子氏の文学的素養というのも今回確認できた。
まず美希が晃と山中での雨宿りの最中に初めて交わるシーン。これは歴代の日本純文学から継承される恋愛シーンの王道だろう。三島由紀夫氏の『潮騒』を思い出してしまった。
私自身が一番好きなのは晃が美希と結婚することを決意した際に、不審な目で二人を見つめる村人の視線に真っ向から対峙したときに美希が晃を頼もしく思うシーンだ。これは私が結婚を決意する時の心情に似ていたからだ。
「もし世界中の人が俺の敵になっても、こいつだけが俺の味方だったら、それで十分だ」
この思いと等価だからだ。これはストレートに我が胸に響いた。
他にも美希に対しては住みよいとは云い難い尾峰を、美希が好きだというところの台詞、
「ここにおったら・・・、空に飛びだせそうな気がするき」
なんていうのも胸に響いた。
前作『死国』では物語のメインテーマ「逆打ち」を中心に色んな人々が状況に取り込まれていく様を描く、いわゆるモジュラー型の構成を取っているのに対し、今回は美希からの視点のみでしかも尾峰で起こることのみを語っている。このような構成上、前作よりも単調になりがちだと思うのだが、全く物語がだれることなく、終末へ収束していく。全く退屈する事が無かった。
それは前にも書いたように、手品師が一枚一枚、布を捲りながら種明しをするように、徐々に事実を明かしていくその手法によるところが大きい。この構成からも坂東眞砂子氏が格段に進歩したのが如実に解る。
構成といい、文章といい、もっと評価されてもいいのだが、子猫を殺すなんていうスキャンダルのせいで変なところで話題になっている作家である。実に勿体無い話だ。
Posted by ブクログ
著者の名前はどことなく聞き覚えがあり、読み終えて気づきました。
1999年に「リング2」と同時上演され、映画館で見た「死国」の原作者。
調べてみると高知県の産まれだそうで、納得。
映画「死国」も舞台はもちろん四国、本書の舞台も高知県の山里で、そこで暮らす美希が主人公です。
彼女の一族は「狗神筋」と呼ばれ、村人達から忌み嫌われていました。
「狗神」とは?
血が引き起こす恐怖の伝播。
そして、明かされた血の内容にはある種の戦慄を覚えました。
読み始めた時にプロローグとして始まる信濃•善光寺のシーン。
そこから舞台は高知県に移りますが、善光寺の「戒壇廻り」から始まらなければ本作の恐怖は味わえなかったと思います。
何故に人々が善光寺にお参りに行くのかも知ることが出来ました。
「リング」や「呪怨」程のホラー感はありませんが、思わず一気読みさせられました。
説明
内容紹介
美希の一族は村民から「狗神筋」と忌み嫌われながらも、平穏な日々が続くはずだった。一陣の風の様に現れた青年・晃が来なければ……そして血の悲劇が始まり、村民を漆黒の闇と悪夢が襲う。
内容(「BOOK」データベースより)
過去の辛い思い出に縛られた美希は、四十路の今日まで恋も人生も諦め、高知の山里で和紙を漉く日々を送ってきた。そして美希の一族は村人から「狗神筋」と忌み嫌われながらも、平穏な日々が続いてゆくはずだった。そんな時、一陣の風の様に現れた青年・晃。互いの心の中に同じ孤独を見出し惹かれ合った二人が結ばれた時、「血」の悲劇が幕をあける!不気味な胎動を始める狗神。村人を襲う漆黒の闇と悪夢。土佐の犬神伝承をもとに、人々の心の深淵に忍び込む恐怖を嫋やかな筆致で描き切った傑作伝奇小説。
Posted by ブクログ
いつもながら四国の情景に心奪われた。
田舎の嫌な人間関係と、畏れとのバランスが良かった。いつも男女関係があるけど、恋愛感情なしでは運命に勝つの難しいのかな、、
救われない話だったけど、それも儚い伝承の話の味を出していた。
いつも土地神様とか昔ながらの逸話が絡むので面白く読ませていただきたした。
Posted by ブクログ
横溝作品のどろっとした部分を抜き出してモチーフにしたような作品。
憑き物筋という家系に一生を翻弄される女性の諦観や情念がわかりやすく・でも情感たっぷりに描かれていて面白かった。
最後まで血筋に振り回され、ついに幸せを手にすることができなかった主人公・美希の無念さに涙。
「死国」に比べると大風呂敷を広げないし視点が主人公に固定されてるので話を集中して追えて、こっちの方がのめりこめたな。
Posted by ブクログ
再読。
序章の善光寺のお戒壇廻りは実際行ったことがあるし、怖さと物悲しさが相まって期待が高まるのになぁ。一歩を踏み出せばもっと違う生き方ができるかもしれないのに、年齢と過去の傷を言い訳に後ろ向きで他人を羨む美希にイライラ。先祖だって子孫のこんな姿見てたらイライラしちゃうよ。
自分じゃどうしようもできない血筋のせいで憎まれるのはかわいそうだったけど、最後はやっぱり自分本位過ぎた罰でもあるんだろう。
坊之宮一族の忘れ形見=蘇った先祖が廻り巡って村に復讐する続きがあれば、その方がおもしろそう。
Posted by ブクログ
坂東真砂子の土着モダンホラー。
おなじみの自立しているが孤独なシングル女性と、謎のある男性。横恋慕する過去の恋人や、秘められた過去。閉鎖的な田舎の人間関係など。
ヒロインの血の因果はもの悲しいが、この人の作品はクライマックスでいきなりファンタジーになるのが…。狗神というよりも、恐ろしいのは人の憎悪だと思った。田舎の窮屈さがわかる人には共感できる。海外で亡くなった作家の心境を投影したものだろうなと察する。