【感想・ネタバレ】国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上)のレビュー

あらすじ

世界にはなぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか?
『銃・病原菌・鉄』のジャレド・ダイアモンド、ノーベル経済学賞の歴代受賞者が絶賛する全米ベストセラー!

上記の問いに答える鍵は、地理でも、気候でも、文化でも、あるいは為政者の無知でもない。問題なのは政治・経済上の「制度」なのだ。
ジョン・ベイツ・クラーク賞を受賞したMIT教授のダロン・アセモグルと、気鋭のハーバード大学教授ジェイムズ・A・ロビンソンが、15年に及ぶ共同研究の成果をもとに国家の盛衰を決定づけるメカニズムに迫る。本書から明らかとなるのは――

○メキシコとアメリカの国境で接する2つのノガレス、韓国と北朝鮮、ボツワナとジンバブエ――これほど近いのに発展の度合いに極端な差があるのはなぜなのか?
○現在の中国はこのまま高度成長を続け、欧米や日本を圧倒するのか?
○数十億人の人々を貧困の連鎖から脱出させる有効な方法はあるのか? etc.

古代ローマから、マヤの都市国家、中世ヴェネツィア、名誉革命期のイングランド、幕末・明治期の日本、ソ連、ラテンアメリカとアフリカ諸国まで、広範な事例から見えてくる繁栄と衰退を左右する最重要因子とは? 21世紀の世界を理解する上で必読の新古典、待望の邦訳。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

世界にはなぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか、本書は、政治・経済上の「制度」による違いがその理由であることを古代ローマから、マヤの都市国家、中世ヴェネツィア、名誉革命期のイングランド、幕末・明治期の日本、ソ連、ラテンアメリカとアフリカ諸国、現在の中国といった広範な事例を用いて説明するもの。
 これからの日本を考えると、既得権益に縛られずに、世の中のニーズに応じた創造的な技術・仕組み・取組みが自由活発に進められる社会により良く変えていくことが重要で、政治・行政としてもその基盤を作ったり、後押しすることが役割になろうと感じました。
 今後の日本、また世界を考えていく上で必読の良書です。ちなみに、筆者は同じヨーク大学・LSE出身の政治経済学者で親近感があります。

【ポイント】

・豊かな国には自由で公平、開放的な経済制度があり、技術革新・創造的破壊による持続的な発展のインセンティブがある(一方で、権力者が国家を食い物にして民衆から収奪する仕組みあり)。また、法の支配、民主主義、多元主義といった政治的基盤がそれを支えている。

・日本の明治維新とその後の経済発展は、イギリス名誉革命、フランス革命と並んで偶然性も相まった稀有の出来事。

・現在の中国の急速な発展も、既存技術の導入などに留まっており限定的で、政治的な開放がなされていない統制的な経済制度では、長続きしないのが歴史的な必然。

・あくまで制度という人間によって左右できるものが主要因であることは楽観的、一方で、人の問題であるがゆえ一度形作られた制度は硬直的でなかなか変わらないことは悲観的(奴隷制、植民地時代の制度が未だに残っているアフリカ、南米など)。

・これまでの国際機関や開発機関による「開発援助」は往々にして途上国の時の権力者を肥太らせ、また国際機関から現場に至るまでに幾重にもピンはねされるために、真の援助が必要な大衆には届かず、必要な制度を作るにも至っていないのが現状。一方で、何もしないよりは何かした方がマシなのも事実。

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2014年05月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

国家が貧困を免れるのは、適切な経済制度、特に私有財産と競争が保証されている場合に限られる。
エジプトが貧困なのは、砂漠や気候、土壌、文化的特性、イスラム信仰、間違った政策、ではない。限られたエリートによって支配されてきたから。
イングランド、フランス、合衆国、日本、ボツワナ、ブラジルで政治変革が起きたために、豊かになった。

アリゾナ州ノガレスと、メキシコのソノラ州ノガレス。同じ地域、気候風土だが、生活は全く違っている。メキシコは独立後50年間、政情不安にあった。アメリカの銀行は、競争があった。メキシコの銀行間にはなかった。政治家は、選挙で勝つためには銀行と結託したくても続けられなかった。メキシコのカルロススリムは、イノベーションによって財を成したのではなく、政治的モネによって、民営化された独占通人企業を手に入れたことで財を得た。

経済制度は経済的インセンティブをもたらし、イノベーションを起こす。どのような経済制度を受け入れるかは政治的プロセスであり、これを決めるのは政治制度。政治家が国民の代理人になるか、自らの権力を乱用するか。成文憲法や民主的制度にとどまるのではなく、社会のあり方も決める。
制度と法の支配と安定性と継続性が保証されているからこそ、繁栄に向かうインセンティブを生む。
繁栄は経済制度で決まるが、それを決めるのは政治制度。

不平等の原因としての地理説では、豊富な生物と植物がいるインド、中国を説明できない。新石器革命が起きたのは、中東だたが、オスマン帝国の支配により貧しいままとなった。
コンゴは中央集権化された国家だったが、銃を奴隷を捕まえて輸出するためにつかった。コンゴは王によって、没収や課税のリスクを抱えていた。新しいテクノロジーを取り入れるインセンティブはなかった。鋤をつかって農業生産力を上げても、取り上げられる危険があるため、奴隷輸出を選んだ。
中国は、数百万の飢餓の経験から、共産主義から市場的インセンティブへの転換を図ったため、成功したが、これは政治が変わったから。
繁栄の達成の多くは、政治的問題の解決にかかっている。政治問題は解決済みではない。

韓国は民主的ではなかったが、私有財産と市場経済を認めた。そのため急速な経済成長がおきた。北朝鮮は私有財産をもてないため、生産の増進や維持のインセンティブがない。新しいテクノロジーを受け入れる余地がない。
収奪的な経済制度と包括的な経済制度の違い。私有財産、イノベーションだけでなく教育にも及ぶ。
収奪的な政治制度と包括的な政治制度の違い。政治とは社会のシステム、ルールを選ぶプロセス。
その前に、中央集権化された国家権力が必要。ソマリアでは多元的な政治勢力が争うため、実質的な権威が不在。
収奪的な政治制度と経済制度は、互いに支え合い持続しやすい。
包括的な経済制度は包括的な政治制度の上に作られる。恣意的な講師を抑制する。
経済成長は創造的破壊から起きる。収奪的制度ではそれが恐怖となり、イノベーションを抑え込もうとする。

オーストリア=ハンガリー帝国とロシア帝国は、貴族階級が強く、失うものが多いため、産業化が阻まれた。
成長が進むのは、経済的特権の喪失を心配する者、政治権力が失われることを心配する者、による妨害がない場合。

現代のコンゴ民主共和国は依然として貧しい。成長を促す経済制度がなく、収奪的な経済制度になっている。一部のエリートに政治権力が集中しているため、経済発展を促すインセンティブがない。中央集権化も起きない。取って代わる政権も、収奪的制度を繰り返す。

経済制度が収奪的でも、エリートたちが生産性の高い活動に投資すれば経済成長は起きる。カリブ海諸国、ソビエトの経済成長の例。
韓国は、経済制度が包括的だったため、収奪的な政治制度を維持する必要がなくなった。軍隊や政治を支配しても、得るものは少ない。
どちらもケースでも、中央集権的な国家がなければ成り立たない。部族間の対立があると、取って代わった勢力も収奪的にならざるを得ない。

ペストはヨーロッパを襲ったが、少しの違いから収奪的制度を壊す働きをするか、より収奪的制度の出現を許すか、の違いが起きる。
スペイン国王は、アメリカ帝国から金と銀を得たが、イングランド国王は財政的に豊かではないため、増税のため議会の承認を得る必要があった。
イギリスでは国王は貿易を独占できなかったが、スペインやフランスはできた。これが産業革命につながった。
東欧は農奴がいたが、西欧では少なかった。
ベネティアは、一部の独占エリートが収奪的制度を復活させた。
北米は、英国、フランスの植民地政策で決まった。ラテンアメリカはスペインの植民地政策で骨格が決まった。中東はオスマン帝国の植民地政策で決まった。
中国はアヘン戦争のあとも絶対王政を崩そうとしなかった。日本は、外圧と明治維新で包括的な政治制度ができた。

中央集権的体制があれば、なんらかの規則を実施することができる。収奪的制度であっても、富を奪おうとすれば富を生み出す必要があり、資源を特定分野に集中させることで成長はできる。既存の技術を下にした成長しかできない。ソ連の例。成長は早いが終了するのも早い。
経済的インセンティブはない。エリートは、持続的変化を嫌う。
スターリンは、インセンティブがないと働かないことを理解していて、その仕組みを作った。しかしボーナス制度は、常に業績不振がスタートの方が都合がいいことに気づかなかった。利潤動機ではなく、算出目標が同期だとイノベーションは怒らない。良いアイデアを思いつくことは強制できない。

コンゴ共和国の川を挟んだ2つの部族、レレ族は貧しいが、ブショング族は裕福。はなぜ起きたか。政治制度が違う。ブショング族は収奪的で絶対王政ではあったが、中央集権体制があった。収奪スべき富を生み出すために、ある程度の経済的繁栄は動機される。富は少数エリートに集まる。しかし、包括的な政治制度の場合と全く違うのは、それが持続不可能ということ。支配が続く場合は、創造的破壊とイノベーションが不足するので、成長は長続きしない。内紛と政情不安がおきると、政府は転覆するが、その後に出現する政治もやはり収奪的である。
ベネチアの遠距離貿易は、国営化し貴族のものになったことで、没落が始まった。包括的制度は反転することがある。小さな相違ははかないもの。
ローマ帝国は共和国から帝国へ移行して収奪の比重が増し、内紛や内戦がおきて崩壊した。
労働者の抑圧に基づく経済、奴隷制、農奴制、はイノベーションとは無縁。
いまでも、アフガニスタン、ハイチ、ネパールなどは政治的中央集権体制が欠けている。これは工業化の前提条件。

エリザベス一世とジェームズ一世は、靴下の機械化の特許を却下した。失業が生まれれば政治的不安定を生み、国王の権力を脅かすと考えた。収奪的制度はイノベーションを歓迎しない。
イギリスでは、名誉革命で王の収奪的制度を破壊した。専売品は国王のものではなく、国家のものになった。同時に中央集権化も進んだ。これが産業革命への糸口となった。包括的経済制度のたまもの。

オスマン帝国は、活版印刷が発明されても印刷を禁止した。民衆に知識をつけないため。印刷機の創造的破壊に反対した。

スペインは絶対王政が樹立されていたことが収奪的制度が持続した原因。イングランドでは名誉革命で絶対王政が敗北したことで、発展した。スペインは、むしろ絶対王政が強固になった。私有財産の曖昧さ、貿易の独占、公職の世襲など。
ロシアやオーストリアハンガリー帝国では鉄道も権力者の反対で敷設できなかった。国家が人々の繁栄を望まなかった。農業中心の社会のほうが都合が良かった。鉄道で革命がやってくる、と考えた。
明、清が交易に反対したのは、創造的破壊への恐怖から。国内市場は大きかったがイノベーションを起こすほどではない。
エチオピアでは、国王が気まぐれに土地を与えたり取り上げたりした。そのため、耕し、面倒を見るものはいなくなった。自分が収穫できるとは思わないから。

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2025年02月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「国家の衰退は制度がもたらす」「地理は関係ない」という主張に、思考が非常に刺激された。包括的制度(自由?)の重要姓を主張するので、人によっては自由主義野押し売りと感じるかもしれない。

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2021年05月29日

Posted by ブクログ

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マックスウェーバーは国家の本質を『合法的な暴力の独占』と定義した。中央集権していない国家は政情不安を招き、混沌となる。そしてその盛衰は文化や地理的気候が決めるのではなく、国家の政治・経済制度が決める。収奪的制度(≒共産主義?)を採る国は一部のエリートが富を得ることで、それ以外の人々との内紛や政情不安を必ず引き起こす。エリートは情報を操作し、自由な発想や創造的なものを破壊してしまうからだという。
つまり十分に中央主権された強力な国家と多元的価値観を認める政治・経済制度の共存が、繁栄できる条件なのだ。

植民地時代においても王に集権していたスペインと多元的なイギリスとの差がその後の繁栄を分けた。
更に植民地にされた国(特に資源が見込まれる国)は搾取を容易にするため、収奪的な政治・経済制度を強要され、繁栄を妨げられた。
人間の欲望が人間を支配する起源であることがよく分かる。
資源も少なく、タイミングよく明治維新が成功した日本は、こうした世界の潮流に飲み込まれなかったのかのように思えたが、やはり集権的な時代には数度の戦争に突入した。
集権・多元を繰り返すことが今後も国家の宿命なのだろうか。

まだまだ集権的な中国やロシアといった大国は、今後どのような方向に進むのか。

宗教で集権化されている国々はどうなっていくのか。

読んでいて根本的な問いが生まれるのは良書の証拠なのだと思う。

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2013年10月20日

Posted by ブクログ

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支配層が既得権益を守るために制度を閉鎖的にし続ける限り、経済発展は阻害され、貧困と停滞の悪循環から抜け出せない。どんなに資源が豊富でも経済的に発展できないのは収奪的制度のせい。名誉革命によって国王より議会になったイギリスは産業革命の土台を築いた、という論理を繰り返してる。まあそういう考えもあるとは思うが、この論理が必ずしも貧困の国が作られる正解ではないと思った。

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2025年02月18日

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