あらすじ
「『文學界』にこの作品が掲載されるときは、心配で夜も眠れなかった」(著者談)――本作は雑誌発売と同時に大きな反響を呼び、津村さんの不安を吹き飛ばす賞賛の声が相次いだ。2005年2月に舌癌と診断された、夫で作家の吉村昭氏。舌癌の放射線治療から1年後、よもやの膵臓癌告知。全摘手術のあと夫は「いい死に方はないかな」と呟き、自らの死を強く意識するようになる。一方で、締切を抱え満足に看病ができない妻は、小説を書く女なんて最低だと自分を責める。吉村昭氏の闘病と死を、作家と妻両方の目から見つめ、全身全霊で文学に昇華させた衝撃作。第59回菊池寛賞受賞。
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Posted by ブクログ
小説…とはいえ、ほぼノンフィクションと考えていい、津村節子が、夫吉村昭の舌癌発見から看取るまでの闘病記録的私小説。
死ぬことを克明につづった文章を読むのは、とてもストレスに感じる行為で、この本も読む前に覚悟をしたのだが、そのストレスは想像していたものとは違って、していた覚悟は別のものに変わっていった。
俺はどう死にたいのか?妻や家族を看取る時、どういう態度と行動をとりたいのか。観念的なものもそうだが、もっと行動に落とし込んだ具体的な気持ちの持ちようを考えるきっかけを作ってくれたと感じた。
俺も家族もいつ死に至る病気になってもおかしくないし、まして俺も妻も半世紀以上生きてきてるわけで、世間的にまだまだ若いと言われたところで、時間を追うごとに寿命に近づいているわけで…。いつまでも、まだ悲しいことを考えたくない、では済まされないと思う。
居住まいをきちんと整理しておくとか、自分の気持ち(延命治療についてとか簡単な遺言とか)を簡単でもいいのでまとめておくとか、保険とか財産(ほとんどないけど)の処し方とか。
痛いのは嫌いやし、忍耐なんて大嫌いなので、大病を患ったと分かった瞬間に、タイムリミットを決めて安楽死させてもらうようにしておこうと思っているが、それにはどうしたらいいのか等の下調べもしておかないと。
なんか読書感想から大きくずれてしまったが、夫妻の闘病記を読むにつれ、この夫婦はお互いを尊敬しあっていたのだなと思えたし、尊厳を認め合ったからこその闘病記だなとも思えた。
貧乏なのでお手伝いさんが云々とか、病院のDX個室みたいなところは無理だが、見習えることは見習いたいなぁと。
Posted by ブクログ
吉村昭が好きで、よく作品を読んでいる。若いころ結核で死を宣告されたも同然の時期があり、吉村昭の死への思いはとても強い。
その作家の最期はすさまじく、自分で呼吸器を外しての死だった。自分で安楽死した、というと語弊があるかもしれない。
その光景を見た妻がどう感じていたのか知りたくて購入したのだが、ここに現れない様々な苦労が滲んでいて、読み進めるのがつらかった。
あの年代だから、女性が作家として生きていることへの後ろめたさ、でも作家として生きていること、夫への思い、そしてそれらに全部寄り添ってきた夫。
うらやましい夫婦であると同時に、吉村昭は彼の作品にあるような死生観を、そのまま自分の最期に実行させたこと、そしてその現場の凄まじさ…言葉もない。
Posted by ブクログ
辛い。
健康に生きるのは簡単じゃないけど、死ぬのはもっと難しい。ちゃんと向き合いたいけど、そんなこと出来るだろうか。
津村さんの本を読んで、吉村さんの本を読んでみたくなりました。
Posted by ブクログ
この本を読む前、ご主人の吉村昭さんの「冷い夏、熱い夏」を読みました。
弟の凄絶な癌の闘病や死を書いた吉村さんが、ご本人が癌になった時、どう向き合ったのか知りたくて手に取りました。
この本は、同じ作家であり、吉村昭さんの妻である津村節子さんの目から見た、吉村さんの癌発覚から最期の様子を記した本です。
吉村さんは、辛い症状に苦しんでいたかもしれないけれど、病気を受け入れて、自分なりの死生観を貫いて、とても落ち着いて亡くなったのだなと思いました。
最期の最期の行動は、衝撃的だったけれど、本人にとっては一番納得のいく方法だったと思うし、それを受け入れた奥さんと娘さんも素晴らしいと思います。
日記に書かれていた奥さんに対する短い言葉に、感動もしました。日記、ちょっとつけたくなってしまいます。
淡々とした文章なのに、伝わってくる想いは大きくていい本でした。
Posted by ブクログ
まだ身近な人が亡くなったことがないのでグサグサ刺さったわけではないけど最後はザワッときた
こんな最後の最後まで想ってくれる人がおるなんて幸せやな、吉村さんの本も読んでみたくなった
Posted by ブクログ
吉村昭の最期の様子を新聞で読み、感動したものだが、その病気から臨終の様子を克明に淡々と描写していく。そして、合間合間に二人の作家の過ぎ去りし日々が語られていく。夫婦愛の物語でもあり、戦後を生きてきた夫婦の物語でもある。老境にさしかかりつつるある自分の身を振り返りながら読み進め、ずっしりと胸に響く一冊となった。