あらすじ
宮内祐子はボーイズラブ小説を書き、オンラインで発表してきたアマチュア作家。還暦を過ぎ、定年を迎えた彼女に、ふと初めて「男女物」を書いてみたいという思いが兆した。自らの創作観、性愛観を振り返りながら、小説は書き進められていく。スリリングな構成、性愛の繊細さと読むこと=書くことの歓びに満ちた長篇小説。
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Posted by ブクログ
相変わらず設定が絶妙で、書きたいテーマを効果的に表現する巧妙な構造に舌を巻いた。
主人公は趣味でBL小説を書いてきた50代の女性。しばらく執筆から遠のいてきたが、今度は趣向を変えて異性愛ものを書いてみよう、と試みる中での創作ノート兼日記という体裁になっている。同性愛、異性愛、だけでなく、女性に対する眼差し、男性に対する眼差し、性欲、魅力の感じ方など、観察と思索が仔細かつ留保なく書かれていて、普段深く考えず「そんなもんなのかな」と思っていたり、「私だけかな」と思っているほんとにありふれたやり取りについて、あっ、と思わせてくれることが多かった。創作ノートという体裁を取ることで、何か独り言のような文体でニュートラルに疑問や気づきがスッと懐に届く仕掛けになっていて、すごいと思った。
閉経を迎えると女じゃなくなる、という言説の不思議さについては私自身も長年、意味が全然わからない、と思ってきた。実際に周りの女性が言っているのは聞いたことがないけれど、それに近いことをテレビや本でなん度もみたり読んだりしていて、自分には女であるという皆が持っているらしい実感が欠けているのだろうかとぼんやり感じていたこともあったが、本書の中の描写でやっぱそうよな、と思ったし、自分の実感、体感よりも世間一般で言われていることの方が正しいらしいと思ってしまっていた自分に少し憤慨した。
通俗的に言われている「男ってこう」「女ってこう」「恋愛ってこう」というものにぼんやりと流されずに、自分の実感をちゃんと感じながら人との関係を結んでいきたいなと思った。
この感覚は女性や若い女の子が他者からの視線によって描かれる輪郭に無理やりこちらの存在を合わせさせられて生きてきている感受性から自由になれる感じを味わった同じ著者の「最愛の子ども」とも共通している。そちらは読み終わるのが惜しいと思うほど気持ちが揺さぶられたが、今回はどちらかというと知的に面白く読める本だった。