あらすじ
《ハーメルンの笛吹き男》伝説はどうして生まれたのか。十三世紀ドイツの小さな町で起こった、ある事件の背後の隠された謎を、当時のハーメルンの人々の生活を手がかりに解明していく。これまでの歴史学が触れてこなかったヨーロッパ中世社会の「差別」の問題を明らかにし、ヨーロッパ中世の人々の心的構造の核にあるものに迫る。新しい社会史を確立する契機となった記念碑的作品。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
読んでてすっごい楽しい本だった
誰でも聞いたことがある「ハーメルンの笛吹き男」という寓話に見られる、130人の子供が失踪したということは事実である、ということを述べた上で、この伝説の原体験を明らかにすることを試みる
その上、この体験が今ある伝説の形にどのような経過をたどって転化したのか、〈笛吹き男〉伝説の研究史をも鮮やかに描き出す
伝説の実情を解明するためにただ単に民俗学的なアプローチをするのでなく、事件を探る上で当時のハーメルン社会はどのようなものだったのか、子供とはどういう存在だったのか、子供たちを連れ去った「笛吹き男」とはどのように扱われていたのか、の三つの論点に分けて研究を進めていく
この過程で、「笛吹き男」というアウトサイダーの受容、中世市民社会の心身両方における荒廃、宗教改革によりカトリック教会への挑戦を試みたプロテスタント勢力の打算が絡み合った多層的な社会史が説明されている
中世社会における市民の困窮さは筆舌に尽くし難いが、その中でも特に1550〜53年にかけてのハーメルンは河の大反乱、飢饉、大火、さらには宗教戦争に巻き込まれ市内でも打ち壊しが起きるなどこの世の地獄の様相を呈していた
そのような流れでかつての悲惨な記憶である〈笛吹き男〉伝説を思い出し、これと照らし合せることで現状を相対化する民衆の営みには切なさを感じた
啓蒙主義の合理的精神により批判されたり、近代に入ってからはドイツ民族の統一国家を作るための「共通の遺産」として過度に高尚なものとして扱われた
こうした研究の過程で伝説が変貌していくことをライプニッツの書簡やグリム童話など様々なジャンルの文献を挙げていくことで、当時の「知識人」の思潮を追いながら述べる
しかしあくまで著者は「伝説は本来農民の歴史叙述である」という視点に立脚し、概説的なヨーロッパの社会史や経済史では触れられることの無い「庶民の社会史」を描くことに努めており、あくまで本書は「長い間知識人が行なってきた知的営為そのものに対する批判的反省」として位置づける
この姿勢には非常に感動した
著者がヴァンの理論に与えている
「この理論を構成する一齣一齣は、それぞれ人間の心にあるイメージを喚起する力をもっているのであって、この伝説には関係のないところで『人間の生涯』に触れてくる」
「幻想的な、読む者を思わずひき込んでしまうような魅力」
という評価は著者自身にも当てはまるものであり、文献に基づき冷静に論を進めながらも、民衆の気持ちを追体験しようと思いを馳せていることがありありと伝わった。
Posted by ブクログ
巻末の石牟礼道子の解説「泉のような明晰」も含めて、読んだ後胸がいっぱいになる歴史書。ハーメルンの笛吹き男の伝説の解明だけでなく「学者」も伝説の型(パターン)作りに多かれ少なかれ加担しているということ、それを持ってして民衆を中心にすえた歴史学を追究するために必要なのは知に驕らない謙虚な心構えであることなど、力強い言葉が綴られている。
Posted by ブクログ
阿部謹也氏が1988年に刊行した歴史学書。
私が大学入学とすぐに教授に薦められた本の中の一冊。
グリム童話「ハーメルンと笛吹き男」は実は13世紀に実際に起こった出来事である。という歴史に興味がなくても惹きつけられる例を基に、中世ヨーロッパの社会を解き明かしていく作品。
歴史学をこれから学ぶ大学生や、これまで歴史学に興味がなかった社会人などにオススメ。
作者と一緒にまるで謎解きをしながら歴史を解明していくような爽快感が魅力な作品です。
読みやすい
ハーメルンの笛吹き男という御伽話を立体的な解釈で、当時の背景を生々しく書き出している。記録や世相から分析して検証していく流れは、まるで推理小説のようであった。
Posted by ブクログ
歴史とともに物語を読むことで、今の自分では考えられない状況も、そよときならそうなるだろうと思わせられる。歴史とセットで物事を知ることの重要性を学ぶ。
Posted by ブクログ
ハーメルンの笛吹男の伝説というか、おとぎ話というか、この伝説がどうして生まれたのか、1284年6月26日にドイツのハーメルンで130人の子どもが失踪したという出来事が、歴史的事実であると確認した上で、渉猟した文献を丹念に紐解き、慎重に歩みを進めながら、ヨーロッパ中世における民衆の暮らしを浮かび上がらせるもの。知的好奇心を掻き立てる極めて興味深い一冊でした。
Posted by ブクログ
迫害、差別、そして、格差社会。
そんな時代背景が、この物語として語り継がれてきた核になっている。
いや、大半の物語がそうか?
どの国や地域にも、伝説として残っている話がある。
事実が問題だと深堀りすることも当然必要だろうけど、真意という意味では、史実がどうだとかはあまり関係も意味もない気がする。
そこに共通して感じるものは、何なのか?
大切なものと、どう向き合っていくのか。
一人一人に何かを芽生えさせる物語が大事ですね。
地政学とキリスト教。
ヨーロッパの歴史を知ろうとすると、この事象を通してでないと見えてこない事もある。
ハーメルンという街も、深い部分でそれが繋がっている気がした。
未来へ伝えられ、語られ、残っていく。
ミステリアスであることは、人の想像を掻き立て、考える余地を残してくれる。
もしかすると、はっきり分からないことこそ、人が活き活きと出来る大事なファクターだと感じる。
簡単に手短に、知れる、分かる、理解できる。
そこに、現代の闇が出てきているのかもしれないですね、、。
謎は解けないでもどかしい。
それが、ある意味、ベター!。笑
Posted by ブクログ
グリム童話の「ハーメルンの笛吹き男」。ドイツのハーメルンの町に現れた男が笛の音でねずみを駆除してやるのだが、町は彼に報酬を支払わない。怒った男は笛の音で町の子どもたちを連れ去ってしまうというお話。ちょっと怖いが教訓も含んでいる、よくできた有名な童話だ。
一方、中世ドイツの地方都市の文献を研究していた著者は1284年のハーメルンで130人の子どもたちが行方不明になっていた事実を知る。つながった童話と事実。なぜ子どもたちは消えたのか、笛吹き男は実在したのか、著者の歴史探求がはじまる。
本書では、中世ヨーロッパの社会や生活、宗教、差別などを説明し、笛吹き男のような旅芸人やネズミ捕りの職人が実在しことを明らかにする。また、当時は植民のための市民の大量移住が起きていたし、子供だけの十字軍も編成されていたらしい。著者はこれら事実を組み合わせ、先人の歴史家たちの発表なども紹介し、様々な説を検討する。
が、13世紀の小さな町での出来事だ。本書では断定的な決着までには至らない。しかし、それはしょうがないことだし、わからないままでいいんじゃないのか。ハーメルンでの悲劇が童話として現代まで語り継がれたことで歴史のすごさ、おもしろさを十分に味わえるのだから。
Posted by ブクログ
面白かった
歴史が時代の突出した部分や特異点ばかりを探していくのに対し、ここではそんな「表舞台」とされたものの裏にある、時代の変化に右往左往するしかない一般庶民、その反動として時に自暴自棄に極端に走ってしまう一般庶民の歴史が紡がれている。
事件が少ない故にあまりに長い、あまりに長い中世の一般庶民。場合によってはドイツでは19世紀まではそういうものが残っていたということで。
こういうのを読むと、キルヒャーの見え方も随分と変わってくる。
また、商業の復活などのルネサンスへの萌芽も見えてくる。
12世紀ルネサンスというものとは程遠い世界だが、中世後半にあって教会と諸侯の権力バランスの変化もあり激動の最中にもある。
まさにこの頃、アリストテレスの再発見などから世界が変わっていく準備が、進んでいる。
あとは、ゲルマン民族にとって、あくまでカトリックが外来の文化である、という感覚は面白かった。
土着の、ゲルマン的な文脈を見逃さないようにしている。
定着民による秩序世界と、放浪者の世界とが常に緊張感を孕んで接しているのも面白い。
ストレンジャーへの恐怖は、街の外の世界を知らない人がほとんどの定着民にとって、どのようなものなんだろう。
半ば、モンスター的な。レイシズムとは違う、まるでマレビトのようですらある放浪者への恐怖。
レイシズムは別にある。ユダヤ人へのそれだ。ユダヤ人はいつの時代も差別されている。それは、その閉塞的な規範のせいで、都市にいても常にストレンジャーだからだったのだろう。
そして、高利貸しの恨みもあった。
放浪の楽士が受け入れらるのは、定着によって、であり、放浪を続ける楽士は相変わらず差別されてたというのも面白い。
大事なのはやはり、定着しているか動いているか。
顔を、素性を知っているかどうか。
どこからともなくやってきて、変な音楽で人々をハイにしてお金なりなんなりを得て去っていくような、そういう存在は愉しさと恐ろしさが表裏をなしている。
ここ、と、ここではないどこか、とが中世にはあるのだ。
それは、都市と都市間や自然であったり、日常と魔術的世界であったり。
なので、ハーメルンの笛吹にあるのは、その間を動く人がいる、ということ、日常に非日常を持ち込む、もしくは日常を非日常に連れ出す、そういうインターフェイスが存在している、という恐怖なのではないか。
1284年6月26日という日付や、130人という数字は、歴史学的に重要かもしれないし、そこからこれだけの多くの視点がうまれるのには驚くべきことだか、どうしても普遍化して理解したくなる自分としては、この本を経て理解したのはそういうものだった。
そして恐らく、これは中世の日本にもあっただろう。
各地の申学とかがもたらしていたものには、ここに通じるものがあるんではないか。
Posted by ブクログ
歴史の真相が徐々に明らかにされていく様。
ゾクゾクした。
最初はそれほど多くなかったであろう資料を集めて読み解き、真実を追求していく学者魂に敬服した。
Posted by ブクログ
ハーメルンの笛吹き男の伝説がどのような経緯を辿って生まれていったのかということを、歴史的な文書を渉猟しながら、何より当時の庶民の生活はいかなるものであったかという実態を踏まえつつ考察されている。
およそ研究というものはかくあるべしというお手本のような書である。
Posted by ブクログ
グリム童話で知られる「ハーメルンの笛吹き」の説話の真実ついて、中世ヨーロッパの社会状況や宗教、民族、風習など、様々な観点から分析し、考察していく大変興味深い一冊。
最終章のドイツの老学者の話はちょっと胸が熱くなる。
Posted by ブクログ
内容はかなり本格的で重い。でも読んでいくと筆者と一緒に謎解きをしてるような感覚がして、それが面白くするすると読めた。
ハーメルンの笛吹き男の伝説を当時の一般庶民や更にその下の被差別階級の人たちの生活や文化をもとに紐解いていくという内容で、ハーメルンの笛吹き男自体の検証も興味深かったけどそれと同じくらいあまり語られることのない庶民の置かれな状況や歴史を知ることができるのが魅力的に感じた。
差別や階級化をされる側の描写が現代の基準から考えるとあまりにも悲惨で、そういった感情の発露として口伝でハーメルンの笛吹き男を含む色々な伝説が語り継がれていったんだなと。
一方で差別や階級を作る側の心情描写も興味深かった。自分とは違う存在への恐怖やその恐怖を発散させるための差別の正当化がリアルに感じた。
この本に書いてあるような庶民や被差別階級の人たちが抱えてる問題は現代においても決して無関係なことではなく、自分たちとは違う属性の人たちへの偏見やそこから生まれた都市伝説的なデマは現代にも沢山あるよね。
数百年くらい経ったらそれらもハーメルンの笛吹き男みたいに伝説になるのかな、それとも当時と違って当たり前に印刷やカメラやインターネットがあるからまた違った結果になるのかな。
Posted by ブクログ
前に読んだ際には、あまり面白くなかったのだが、最近、エロール・ル・カインの絵本を見て、ふと、思い出して読み直した。
深い!一気に読んだ。中世の街と民衆の暮らしや、伝説の変遷、研究の歴史がよくわかる。たぶん、前に読んだときは、謎解きミステリーのようなものを期待して、外れたんだろうな。
Posted by ブクログ
阿部謹也(1935~2006年)氏は、一橋大学経済学部卒、一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学、小樽商科大学助教授、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨学生としてドイツ連邦共和国(西ドイツ)滞在、小樽商科大学教授、東京経済大学教授、一橋大学社会学部教授・学部長、一橋大学学長・名誉教授、国立大学協会会長、共立女子大学学長等を歴任した、西洋史学者。専門はドイツ中世史。サントリー学芸賞、大佛次郎賞等を受賞。紫綬褒章受章。
私はこれまで、著者の著作では、『自分のなかに歴史をよむ』、『日本人の歴史意識―「世間」という視角から』を読んだことがあるが、今般たまたま新古書店で著者の代表作である本書を目にし、手に取った。
本書は、グリム童話で有名な「ハーメルンの笛吹き男」の話が、いかにして生まれ、今日まで伝承されてきたのかを、著者がドイツ滞在中に様々な文献史料に当たり、考察したものである。尚、グリム童話の話は、中世の時代、ハーメルンの街でネズミが大繁殖して人々を悩ませていたある日、街に笛を持ち、まだらの服を着た男が現れ、約束した報酬と引き換えに、笛で街中のネズミを川に誘い出して溺死させたものの、街の人びとが約束を反故にして報酬を払わなかったため、再び街に現れた男は、同様に笛で街の子どもたちを連れ出して、その130人の少年少女は二度と街に戻ってこなかった、というものである。
本書でまず確かめられるのは、1284年6月26日に、130人の子どもたちが、まだら模様の男に連れられてハーメルンの街から姿を消した出来事は歴史上の事実だということで、驚くべきは、その原因・背景について、既に17世紀から様々な研究が為され、その解釈は26にも上るのである。
そして、著者は、それらの様々な解釈について、仔細に分析・考察を行うのであるが、最終的に結論に至るわけではない。しかし、その過程では、それまであまり取り上げられることのなかった、中世の都市や農村の民衆(特に、都市下層民)の日常生活と、その思考世界が浮かび上がってくるのだ。
本書は1974年に刊行(1988年文庫化)され、日本中世史研究の網野善彦らとともに、中世史ブームを作るきっかけとなった作品だが、それらが気付かせてくれるのは、どの時代においても、歴史のメインストリームとして残るのは、支配者が書いた支配者側の歴史であり、実際には、そこには描かれていない大多数の人間の歴史が存在するということである。
グリム童話の一編をもとに、ヨーロッパ中世の民衆の生活に光を当てた、興味深い作品と言えるだろう。
(2023年12月了)
Posted by ブクログ
ランケ学派ではなく社会民衆史の嚆矢となった一冊。
「ハーメルンの笛吹き男」を当時の社会事情、庶民の動向などあたれる限りの資料をもとに、伝説の成り立ち、背景、変形の理由を解き明かす。そして当時(ヨーロッパ中世)の社会を浮き彫りにする。
「すごい執念」としか言いようがないけど、この手法だと大きな歴史のうねりを捉えるのは難しいような。いや、そう思えるのは、それだけ自分の考え方が硬直してるってことかな。
Posted by ブクログ
50年前の話なので、今の基準からすると、ややユルくも感じるが、臨場感があって面白い。最近、自分のルーツを考える上でも、日本の中世史を見てるんだけど、この本の解像度にはまだ達してないなと思った。50年前に阿部先生がドイツの文書館で史料を調べてたようなことが、オンラインでできるようになってきてるので、史学の民主化は進んでるかも知れない。
Posted by ブクログ
コロナ前の19年の国慶節で日本に帰った時、ちょうど増刷されたタイミングで平積みされていたのを見かけてお買い上げ。大学入学した時の学長だし。アベキン。でも、そのまま積読。
ハーメルンの笛吹き男はグリム童話の話だと思っていたけど、実は実話だったのね。笛吹き男が子供を連れ去った日はうちの結婚記念日だったのね。そして、アベキンって「世間」のことを語る人ってだけじゃなかったのね。
もとは論文として書かれたものを一般向けに再構成されたものだったので、すんなりと読めた。
Posted by ブクログ
ハーメルンの笛吹き男伝説の元となった子供の大量失踪事件(1284年、日本だったら北条時宗の死亡した年)が史実だったことを解き明かし、いかにして伝説化したのか、当時の社会情勢や被差別民の意義を踏まえながら論じている。馴染みの薄いドイツ中世史で、しかも著名な人物も出てこないので知らないことの連続だが、ついつい引き込まれて読み進んでしまう。
Posted by ブクログ
そんなにお気楽に読める本ではない。まず、舞台がヨーロッパの中世。
現代の日本人にはそれだけで理解が難しくなりますが、本書は史料を読み解きながら丁寧に時代とハーメルンの町と人々を叙述して行きます。
庶民や一般大衆を中心にした社会史は、網野善彦さん等の考え方に連なるものであると思うが、人間を根源的に解き明かす一つの考え方でもあると改めて感じた。
また、作者が巻末でふれている老学者のあり方も、作者の学問に対する考え方をよく表していると思う。
Posted by ブクログ
《ハーメルンの笛吹き男》伝説はどうして生まれたのか。13世紀ドイツの小さな町で起こったひとつの事件の謎を、当時のハーメルンの人々の生活を手がかりに解明、これまで歴史学が触れてこなかったヨーロッパ中世社会の差別の問題を明らかにし、ヨーロッパ中世の人々の心的構造の核にあるものに迫る。
ずいぶん前から積読していた。一般人向けではあるが、結構内容は難しくて、かなり時間をかけて読みました。結局伝説の裏の真実は分からない、というオチで肩透かしをくらったものの、丁寧に当時の背景を紐解く姿勢はすごいなと思った。学者ってこういう根気強く研究を重ねることで大発見が生まれるんだろう。ただ興味本位で読んだので、同じような内容を繰り返し書かれて少し退屈になってしまったのと、中世の市井の人々の過酷さに悲しい気持ちになった。人権がないって恐ろしいことだわ。
Posted by ブクログ
ハーメルンの笛吹き男の伝説について、包括的な解説がなされている。
東方ドイツ植民説、あるいはその過程での遭難説を否定し、ヴォエラーの主張する沼地での事故死説を支持する。
筆者の専門分野であろう、ヨーロッパ(特にドイツ)の民衆の生活の解説にかなりの紙幅が割かれている。巻末の参考資料の分量を見ても明らかである。
ヴォエラーの説を支持するのも、このような分野の解説ないし歴史観と繋げやすいからであるようにも感じるが…。
いずれにせよ、刊行されたのが1974年ということで、近年の研究が反映されていないことを念頭に置かないといけない。
Posted by ブクログ
事件を追うということで、当然事件のことだけでなく背景として当時の社会などを事細かく書いている。そのため地名など固有名詞が多くでてくるのでドイツに馴染みがありそれら名詞からマップなどをイメージできる人でないと理解が難しい。地図なども記載されているがすべてではないのでそこから想像するのも慣れてる人でないと中々に困難である。
結局犯人は誰なのかはわからない。資料が不足しているため答えはでないが、少なくとも実際にあった事件であるといってよい、といったところだろうか。植民説なども紹介されるが無理があるそう。この事件のことだけでなく、この事件に関わる研究史の本である。
Posted by ブクログ
ネズミ、笛吹き男、ドイツ、子供たちというモチーフしか知らなかったけどこの本を読んで包括的に当時の社会が分かった。「感染地図」のように一つの結論に向かって論をまとめていくというよりは様々な角度から調査、検討している。
Posted by ブクログ
テーマはすごく興味深い本であるが正直難しかった。特に序盤の知識がなくて読むの大変だった。思っていたよりもたくさん説があることが分かった。自分の読解が正しければ、有力な説は「笛吹き男」と「鼠取り男」が合体したということかな??
Posted by ブクログ
史料を丹念に紐解き、伝説が生まれた社会的、心理的構造を明らかにしていく。日本も当時は鎌倉時代。被差別問題も似たような構造であったことに気づかされる(外圧(モンゴル帝国:元寇)まで含めて)。思考過程も丁寧でそつがなく分かりやすい。
Posted by ブクログ
かなり学術的な内容だったが、面白かった。帯にあるようなミステリー的なものではなく、かなりしっかりした中世ヨーロッパに関する学術文献だと思う。謎自体は、他にも同じような話がある事からそれほど重要ではなく、どうしてそのような伝説が生まれたのかという社会背景を明らかにすることに主眼が置かれている。文体が独特で、70年代に書かれたからか、この筆者特有のものなのかは分からないが、巻末の解説も何となく似た文体で好ましかった。今はこんな文体にはお目にかかれない。少しいつもとは違う本を読みたいなぁという人にお勧め。