【感想・ネタバレ】ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗のレビュー

あらすじ

1960年代から80年代にかけて、多くの子どもたちが夢中になったウルトラシリーズ。ミニチュアや着ぐるみを駆使して、あたかも実写のように見せる独自の特撮技術を有し、日本のみならず世界の映像業界をリードしてきたはずの円谷プロは、なぜ、乗っ取られてしまったのか。(講談社現代新書)

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長年、子供たちに夢を与え続けた「円谷プロダクション」。その裏側では大人の事情によって一族間でも内紛が絶えず、映画会社、テレビ局、おもちゃ会社の思惑に振り回され、ついに創業者一族が経営から退場せざるを得なくなりました。本書は、そんな裏事情を生々しく描いたノンフィクションとしても読むことができます。ヒーローの設定が、こんな勝手な事情で決められていたのかと哀しくなりつつも、赤字を積み上げながら良いものを創ろうとした初期の頃の熱気も存分に味わえます。
なぜ、ウルトラマンが泣くことになって、仮面ライダーは復活することができたのか。非常に興味深い内容です。著者は、特撮の神様・円谷英二の孫にあたり、円谷プロダクションの社長も務めた方です。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ビックダディ?と突っ込みを入れたくなるくらい、ウルトラマンは子だくさんだ。びっくりするくらい親戚もいる。クリスマス玩具商戦になると意味のない戦闘機に乗り、お正月になれば地球の平和とは関係無く着物姿で見世物となる。「特撮の神様」円谷英二が健在のうちは想像できなかったことだ。
この本を読んであらためて、多くの疑問が氷解した。本書によると円谷プロは経営状態の浮き沈みが激しく、そのたびに幾度となく選択を迫られ、結果として苦戦を強いられるという悪循環が続いていたのだ。そのたびに派生キャラが増え、ヒーロー像が膨らんでいった。
サクセスストーリー本が多い中、挫折体験話は貴重だし勉強になると思うが、正義のヒーロー像が崩れてゆく様は読んでいてとても辛く、切なかった。愛すべきウルトラマンや怪獣達のためにも、彼らに何が欠落していたのかを考えるとともに、円谷プロが凋落していく様子をしっかりと心に刻みたいと思う。

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2014年06月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あのウルトラマンシリーズを輩出した円谷プロの一族の方が著者の新書。
リアルタイム世代ではないが、夏休みのウルトラマンフェスタにより、相当はまった幼少期だった。
TBSだったことにはまったく意識していなかったが、ビジネス的な側面を本書において確認する事ができた。

バンダイなどと組んでいたにもかかわらず、ガンダムのようなキャラクタービジネスの成功にウルトラマンがなぜ至らなかったのかを当事者が赤裸々に語っているし、夢を作る仕事の現実感をありのままに語ってくれた良書であると思う。
もちろん、ウルトラマンに心酔したことがあるからだが、そうでない人にもビジネスのヒントは満載であろう。

お家騒動によって成功に至らなかった経緯は非常に残念であるが、このキャラクターの価値は永久である。
特撮かくありなん。すばらしい書籍でぜひ一読を推奨したい。

■目次
はじめに―怪獣が身もだえしたわけ
第1章 円谷プロの「不幸」
第2章 テレビから「消えた」理由
第3章 厚かった「海外進出」の壁
第4章 円谷プロ「最大の失敗」
第5章 難敵は「玩具優先主義」
第6章 円谷商法「破綻の恐怖」
第7章 ウルトラマンが泣いている
おわりに―祖父・円谷英二が残した日記

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2014年02月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

"ウルトラマン"という名を聞いて、知らない日本人はほとんどいないだろう。
M78星雲から地球を救うためにやってきた、あのヒーローである。

しかし、そんなウルトラマンを生み出した「円谷プロ」が幾度も失敗を重ね、ついには創業者一族全員が会社から追い出されてしまうという悲劇を迎えていたことを知っている日本人もほとんどいないだろう。

P116 L3 「二〇一二年時点では、バンダイが扱う多くのテレビ番組関連キャラクター商品の中で、最も売れているのは「機動戦士ガンダム」シリーズです。ウルトラシリーズはその一〇分の一以下に過ぎません。」

著者円谷英明は創業者円谷英二の孫にあたる人物である。
創業当時から会社をその目で見つめ、自身も6代目社長を務めた彼が栄光の日々とその失敗の要因に迫っている。



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円谷プロ失敗の要因を簡単にまとめるのであれば、
それは、①過剰な支出と杜撰な財政管理 ②経営のワンマン化 ③人材確保の軽視
この3点に尽きるのではないだろうか。

ウルトラマンの制作にはお金がかかる、グッズの売り上げが上がってくるからどうしても当初は赤字計上となってしまう。これらの要素は致し方のない点である。
だがしかし、大きな問題点はここからでウルトラマンの政策をいわば聖域として捉え、支出の拡大やむなし、という判断が繰り返されていたこと。
また、極端な支出削減に伴って視聴率が下がってしまったことから、制作費を維持したという点自体は問題なかったのかもしれないが、ではどこからその分の資金を補うのか。この点を蔑ろにしてきたことが当然なから大きな問題点である。
次作が始まれば、それまでの作品単体としての収支ではなく、合算して捉えてしまうことで最終的な利益が見えてこない。そんな杜撰な管理が繰り返されていた。

経営のワンマン化、創業者一族円谷家による経営は八代目まで続くこととなる。
一族経営、一家経営と聞くと、どこかで停滞や風通しの悪さがイメージされるのは致し方ないことかもしれない。
しかし、著者も作中で語るようにこれは間違えなくワンマン経営による弊害なのである。経営を支えてくれていた東宝やTBSとの決別によりワンマン化は猛スピードで加速し、その上経営陣の私的な資金の流用などは表沙汰にならなかった。

そして人材確保への軽視。創業当初こそ円谷英二のもとに集まった優秀な製作陣、梁山泊とも言えた当時の円谷プロであったが、出費がかさみ経営が苦しくなってはじめに着手したことが人件費の削減である。確かにそれは致し方のないことかもしれないが、この人材への軽視はその後継続することとなる。それは製作陣に限らず、経営陣においてもそうだろう。とにかく必要な人材のパーツをその場しのぎで確保し、その都度の戦力としてしか確保しない。これらの失敗に本来歯止めをかけることができるセーフティーネット、つまり保険に円谷プロは加入しないまま突っ走ってしまったのである。


しかし同時に注意が必要なのは、この作品が当事者である円谷英明によるものであるという点だ。当事者目線というのは、まさに生の視点、当時の実際の出来事について主観的に語られる貴重な視点であり、文献であることに違いはない。
一方でこれらの作品が客観性を欠いてしまいがちであることには注意しなくてはならない。著者は自身のおじにあたる3代目社長の皐や4, 8代目社長の一夫を痛烈に批判する場面が散見される。著作の通りであれば確かに経営者として、適切でない状況が幾度もあったと言えるが、それはやはり色眼鏡がかけられた主張であることを否定しきれない。それぞれの視点や第三者からの視点、こうした立体的な分析がなされて初めて円谷プロの失敗がどういった点にあったのかを客観的に分析できるのであろう。

この作品はそのひとつのパーツとしての役割をこれ以上にないほど全うしていると言えるが、これ自体がその答えであるとは言えないだろう。
しかし、そういった点を抜きにしてもこの作品の臨場感やその歴史には引き込まれるものがある。


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P19 L7 「むしろ、祖父がこだわったのは壊れ方です。たとえば、鉄塔が怪獣の吐く光線で溶け落ちるシーンを撮る場合、鉄なのに燃えて炎が見えてはダメだというわけで、いろいろな素材を試した結果、ロウで作ったグニャリと溶け落ちるようにしてありました」

P86 L2 「子供向けヒーロー番組の作風の根本が違っていたのです。アメリカでは、より現実味のある等身大ヒーローが主流でした。スーパーマンもバットマンも、スパイダーマンもキャプテン・アメリカも、長く子供たちに愛されてきたヒーローは等身大に限られています。」「ヒーローが持っている超能力も、ある程度、科学的に説明のつくようにしています。」

P88 L4 「あえて言わせていただけば、円谷プロの経営の問題は、同族経営ではなく、ワンマン経営にあったのです。」 

P93 L8 「結果として、円谷プロは、草創期に育ててくれた東宝とTBSという恩義のある会社を、両方とも自ら切ってしまったのです。」

P94 L10 「円谷プロはしょせん下請けの中小企業ですから、相手次第で面白くない思いをさせられることも多々あります。しかし、そこで意地を張らず、恨みつらみを乗り越えて良好な関係にもっていくことができれば、その結果から受けるメリットは、円谷プロのほうがはるかに大きかったのです。」

P101 L14 「怪獣ショーは一日に多いときで五回行われたのですが、無料なのに客の入れ替えをしませんでした。ショーが終わっても、次のショーを見たいからと、客はずっと最前列で座って待っています。そのため、後から来た客は、ショーを見たくても入れず、不満の声が広がりました。」

P104 L6 「番組制作のほうでは、億単位の赤字が積み重なっていて、プラスマイナスすると実際は儲かっていないのに、入金の数を見ると、熱に浮かされたように舞い上がってしまうのです。」

P105 L6 「キャラクターや舞台設定など、番組コンセプトのめまぐるしい変転が、視聴者をとまどわせたという面もあったと思います。」
P115 L10「ウルトラシリーズには、その時々で適当に変えてしまうご都合主義=「しょせん子供番組なのだから何をしても許される」という言い訳が、常に付随していました。」
P116 L10 「「ガンダムは、初期のクオリティやポリシーを守ろうとしている。実際は失敗した作品も多いんだけど、道を踏み外してはいないと思う」というものでした。ガンダムシリーズには、作る側と一緒に育てたいというファンの共感がありました。それこそが、ウルトラシリーズには決定的に欠けていた要素でした。」

P122 円谷プロに必要とされていた3つの頭
①番組制作能力に秀でていること 
②放送枠を確保するため、テレビ局の編成局や政策局の幹部、それらの部署のトップである役員に営業をかけること。
③キャラクターを商品に使ってもらうために、玩具メーカーや文具メーカー、食品会社などに営業すること

P163 L11 平成三部作の一つ「ウルトラマンダイナ」の制作費について、
「当時、ゴールデンタイムの一時間の連続ドラマの制作費が、人気女優を主役にしても二〇〇〇万円と言われていましたから、実にその倍以上で、後から考えれば、ずいぶん馬鹿げたことをしたものです。円谷プロの制作費四〇〇〇万円に対し、テレビ局から制作費として支払われたのは一五〇〇万円程度に過ぎませんでした

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2025年08月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ウルトラマンにそれほど思い入れはありませんでしたが、興味深く読ませてもらいました。

恥ずかしながら、ウルトラマンを手がけた円谷英二がもとはゴジラの特撮を手がけていたというのを本書を読んで初めて知りました。

本書に書かれている慢性的な赤字経営、創業家の会社の私物化、お家騒動の話はファンにとってはショックな話題かもしれません。

そして、最終的には企業買収され、本来の円谷プロは消滅したということで、このことは付き合いの深かった玩具メーカー・バンダイにも影響が及んでいます。
(丁度、バンダイがナムコと合併する時期とも近い)

著者は先代の円谷英二の遺志を継ぐべく、中国での特撮番組を立ち上げようとした話も書かれていました。
結局、それも中国の独特な文化を前にカモにされてしまうという、なんとも後味の悪い話でした。
やはり特撮はコストがかかり過ぎて、今の日本では維持するのが大変なのですね。

調べてみると、ウルトラマン自体は今も新作が作られているようですが、頑張ってほしいものです。

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2021年02月27日

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