あらすじ
自画像をライフワークとする美大三年生の小滝英哉は、教授からアルバイトを頼まれる。それは学内の事故で亡くなった彫刻家四年生・樺沢穂香の両親からの依頼で、肖像画を描くというものだった。故人を描くという難題を前に、穂香を知るため不可解な事故の原因を探ろうと小滝は関係者に話を聞く。その頃、周囲から天才と呼ばれていた同級生で、小滝の恋人でもある宇野ひなたが行方不明になっていた……。
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Posted by ブクログ
芸術を志す人たちの心情とは繊細でなんと苦難に満ちているのかと思い知らされた。
才能がない自分と向き合うことから逃げるために死を選ぶことも厭わないなんて、凡人には想像できない心理状態である。
小滝は突然連絡が取れなくなった恋人ひなたの失踪理由と作品制作中の事故で亡くなった学生樺沢穂香の肖像画を描く依頼を受け穂香の過去を辿る中で、自分を見つめ傷つき絶望していく様は心がザワザワして「小滝、死なないで」と祈りながら読んだ。
ツブキリュウの存在が救いでもあった。タイムリープものは好みではないが、この作品では大いにありだ。
岩井圭也さんの作品は好きで何冊か読んでいるが、これはお気に入りの一冊となりました。
Posted by ブクログ
芸大で油画を専攻する小滝と、突然行方不明になった彼女のひなたとの関係、そして小滝が肖像画を制作することになった故人、樺沢ほのかの死の真相、この2つを軸に展開されるちょぴっとSF(?)要素も含む物語
自分を知るために自画像を書き続けていた小滝ですが、ひなたの失踪を引き金にして自分自身の中にあった劣等感や虚栄心、ひなたへの少し歪んだ羨望にも気づいていきます。
恋人の失踪の真相に近づくにつれて、そういった自分の情けない部分にも容赦なく向き合う羽目になり、葛藤を抱えきれずに勢いのまま線路に飛び込もうとするのですが、、、。
とある人物のおかげで命拾いし、ほのかの死の真相にも納得のいく答えが見つかり、もう一度自分の人生と向き合う覚悟が芽生えていく小滝。
それを支えてくれたのは、ひなたの描いた自分の肖像画。
きっと描かれていたのは、見栄も虚栄もない等身大の自分だったのではないでしょうか。
ストーリー展開は2つの謎に近づいていく過程がとても惹き込まれ、非常におもしろかったです。
ただ、めちゃくちゃ個人的でデリケートな内容を、事情を知らない人もいる前で喋り始めたり勝手に口外してしまうのは、友達として(人として)どうなの?って結構本気で腹が立ちました。
そりゃ小滝も自暴自棄になってしまうわ、と。
確かにその件は必要だったかもですが、もっと他の手段もあった気がする、、、。
Posted by ブクログ
絵を描くということも含め、芸術作品を生み出すことはとても難しいことだと思う。正解があるわけではない。自分が好きなように、納得するものをつくりたい。だが、それを仕事にするには、人に評価されるものをつくらなければならない。知識や技術を学び努力した分、必ず評価されるというわけでもない。
この作品には美術に関わる多くの人がいる。それぞれが、それぞれの感情を持って、向き合っている。終わりがみえない苦しさを感じたり、時には諦めを決心したりする。認めたくない才能という壁や、自分の中で生まれる嫉妬などの感情。何かを努力した人間は、一度は感じたことがあるのではないか。
自分には絵を描くことしかない、だからこそ、それを失えば生きていく意味はない、という主人公の気持ち。それに対する、今までの思い出や大切な人たちの存在がありながら、自分は孤独だと思い込むことは身勝手で傲慢だ、というリュウの言葉。その言葉に、はっとさせられた。自分は孤独で苦しいのだと決めつけてきたことは、自分の人生にもあったから。
主人公は、本当なら今はもうこの世にいなかった。だが、生きている。一度失ったはずの人生だからこそ、ここからまた生きていくことができるのかもしれない。絶望の中から、希望の光へ。