あらすじ
妻を亡くし、息子の夏樹を一人で育てるフリーライターの海老原。そんな彼に雑誌『月刊クリスタル』編集部から、戦後の殺人鬼が起こした事件をもう一度掘り下げて検証してほしいとの依頼が入った。殺人鬼の名前は北川フサ。彼女は戦後の混乱期に5人の男を立て続けに殺し、死刑となっているという。取材を始めた海老原は、フサが赤の他人である少年とともに行動していたことを知る。そして、その当時の少年は、今も存命だった。単なる週刊誌の連載のはずが、いつしか海老原は、フサに導かれるように、事件に没入していく……。
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Posted by ブクログ
★5 敗戦直後の浮浪児、家族の事故で苦しむ現代人… 人間の生き様を力強い筆致で描くミステリ #月白
■あらすじ
妻を亡くし、息子とふたりで暮らしているフリーライターの海老原、彼はかつての知り合いから戦争直後の女性殺人鬼についてルポルタージュ記事を書いてほしいと依頼を受ける。彼女は五人を殺害して死刑になっているらしい。
取材を進めていくうち、事件の背景や彼女の関係者に関係者が浮き彫りになっていく。そして彼女のことを知っているらしき老人に出会うのだが…
■きっと読みたくなるレビュー
★5 力作、そして完成度高すぎ。そのまま映像化を希望します!
いつもエモさ抜群の作品を提供してくれる宇佐美まこと先生、本作はさらにレイヤーがひとつ上がった感じがしますね~
本作で描くのは人間の生き様。家族の事故を経て、思い通りにいかない人生に苦しんでいる現代のジャーナリスト。敗戦後の動乱期、生死彷徨う中でからくも生き抜く少年少女。真剣な目つきで闘っている姿が目に浮かんできて、読んでると応援せずにはいられなくなっちゃう。
主人公の海老原誠、彼の懊悩がホントよく書けてんのよ。誰しもトントン拍子な人生を送れるわけではなく、色んな壁にぶつかるのが当たり前。それでも今日を生き、明日を迎えなければならないのです。自分自身にも似たような経験があってさー、辛いよね。
妻の事故から回復しつつある父と息子の関係性が素晴らしいんよ。当たり前のようで当たり前でない、微妙な距離感の会話がリアリティが高すぎ、マジ泣いちゃう。
それでも働かなければ食べていけない。当初は思い悩みながら取り組んでいた仕事も、取材を進めるうちに向き合い方や少しずつ変わってくるのです。厳しい世の中だけど、やっぱりいろんなことに挑戦して、失敗して、経験してってのか大事だよな~
精一杯生きている彼の姿をみてると、勇気をもらえるんですよ。生きるって、こういうことだと思い出させてくれる。そして後半に入ると、もうひとりの重要人物が登場する。女性殺人鬼ではない、というところが本作の上手なところ。
敗戦直後の東京、そこに生きる浮浪児たちの現実が描かれるのですが… 相当の覚悟をもって挑んでください。殴る、盗む、奪う、騙す… これらの犯罪行為が当たり前の世界。なぜ犯罪に手を染めるのか、やらないと死んでしまうからです。毎日毎日、死が目の前にあるのです。もはや人間ではなく生き物でしかない。
女性殺人鬼とその人物との関係性はどういうものだったのか、そして何があったのか… 魂の叫びと驚愕の事実に、もはや刮目せずにはいられません。
いやー、素晴らしかった。これまで自分はどんな信念をもって人生を歩んできたのか、振り返りたくなるような作品でした。
■ぜっさん推しポイント
戦争なんてもちろん嫌だけど、もし負けてしまうとどんな現実が待っているのか痛いほどよくわかる。私も戦争を知らない世代だから、このまま平和な生活を送れると思ってしまいがち。
もし戦争が現実になってしまったら、絶対に負けられないすね。子どもたちを守らなきゃ… 何も武装化する必要はないと思うけど、いまのうちに何をしておくかってことは、真剣に考えるべきだと思いました。
Posted by ブクログ
1年前に事故で妻を亡くし、一人息子のために勤務先の新聞社を辞めフリーライターとなった海老原誠。その彼のもとに大きな仕事の依頼が入る。戦後すぐに起きた連続殺人事件。その犯人である北川フサ死刑囚についてのルポルタージュだ。初めのうちはあまり気乗りしない誠だったが、調べを進めるうちにある謎が判明し……。
終戦直後の闇市と現在が交互に描かれていく。巻末に掲げられた参考文献を活かしたリアルな戦後が感じられた。本筋とは関係ないサブストーリーの充実ぶりも特筆ものだ。ちょっと瑕疵の見当たらない秀作だった。
Posted by ブクログ
「憎しみだけを支えに生きてきたんだ」
余りにも辛く寂しい人生ではないか…
戦後80年。戦後を扱った作品の中で一番重たく、忘れかけた真実に気付かされる物語だった。
Posted by ブクログ
美しいタイトル「月白(げっぱく)」の持つ意味がもうひとつの「つきしろ」の情景とは違い、とても深くて激しくて冷たい。妻を亡くしたルポライターの誠が戦後混乱期の女殺人鬼フサの人生と事件を追いながら気付く自分の中にも巣食うもの。フサの傍にいたとされる少年、靖男の回想が1番読んでいてつらかった。家族を亡くし飢えと寒さと孤独の寂しさと病と、これでもかと続く過酷な状況に気が塞ぎながらも先が気になり後半夢中で読んだ。フサはなぜ5人もの男を殺害したのか、真実を知ることは叶わなくても3人に通じるものを誠は感じたはず。最後にやっと少し救われた気持ちになれた。
Posted by ブクログ
戦中から戦後にかけての、人々のリアルが生々しく描写されている。
特に戦争孤児の現実は胸が締め付けられる。
現代のフリーライターが日本が戦争に負けた時代、5人を殺害した罪で逮捕された「北川フサ」を追いかける。
凶行に走った「北川フサ」の憎しみ。
「フサ」と同行していた「大垣靖男」の憎しみ。
ジャーナリスト「海老原誠」の憎しみ。
それぞれが持つ憎しみをテーマに物語は進む。
事故で他界した「誠」の妻は決して悲劇のヒロインではない!!
Posted by ブクログ
私には衝撃でした。戦時下や戦後の人々の暮らしはそれなりに勉強してきたつもりでした。まさか、戦争孤児のその後がこんなにも過酷であったとは⋯戦時中も酷い暮らしであったけれど、親がいたから髪も衣服も清潔にできていたとのくだりには胸が詰まりました。大切に思ってくれ養ってくれる人がいなければ子どもの幸せな暮らしはありえないのだと痛感しました。青白く光る月を見るたびに思い出す作品になりそうです。
Posted by ブクログ
また読み返したい。でも、読み返したくない。
呼んでいる途中から、相反する感情が頭の中をぐるぐると回っているようだった。
昔の話を紐解いていくタイプのミステリかと思っていたが、実際は人間ならば誰しもが持つ『憎しみ』について戦後と現代を舞台に描かれている話だ。
戦争孤児や女性について描かれているシーンは、読んでいると気分が沈んでいくようだった。それだけリアリティ溢れる描き方がされていた。
学習の一環で戦後について学んできたはずだが、まさかこんなに壮絶だったとは……きっと、現実は想像すらできないほどだったのだろう。
親がいたら…そもそも戦争がなければ……
読みながら何度そう思ったか計り知れない。
一方で、自分の置かれた状況下でも抗い、立ち向かおうとする女性たちの姿には同性として惹かれるものがあった。
最後は救われたような、そうでもないような…
ただ、ふぅ、と肩の力が抜けたような感じがした。
Posted by ブクログ
境遇や時代を越える感情のつながり。憎しみという感情と、それを抑える理性。憎しみを持つ人々が選ぶ、それぞれの生き方。
戦後を生きた子供達の生活は想像以上に過酷なものだった。秩序などというものが存在しない世界で、今日を生き抜くためだけに必死に戦う人々。そのためには手段を問わず、他人を切り捨てる人間の惨さがある。戦争は、人の心も何もかもを奪ってしまうのだろう。
戦後の殺人鬼は何を考えたのか。その時代に正しさなんてものはあったのだろうか。全て奪われ、何も持たず、まっとうに生きる術もない人に、誰が善悪を問えるのだろうか。
憎しみという感情が、過去を生きた人間と、今を生きる人間を繋いでいた。全て読んだ後に最初の場面を読み返すと、とてつもなく切ない気持ちになった。非常に読み応えがある一冊だった。