あらすじ
建築不況、食品偽装、市場混乱、メディアスクラム、裁判員制度……。日本停滞の背景には「法令遵守」からさらに進む、なんでも「遵守」の害があった! コンプライアンスの第一人者が問題を鋭く指摘、解決策を示す。(講談社現代新書)
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Posted by ブクログ
日本人が、本質、大局を見ずマスコミの指し示す方向に突っ走り、社会が悪い方へ悪い方へ行っていることを指摘する。社会のその性向は、太平洋開戦から何も進歩がないと。
東京地検特捜部を経験した著者は、日本の裁判所、検察が、恐ろしい状態にあり、経済状態にも本質的な悪影響を及ぼしていることを指摘する。司法が閉じた世界で、他の分野の専門家を導き入れることもなく、他国とは比較できない悪制度の裁判員制度を導き入れ、その問題点を指摘する道も封じていることも。
不二家「事件」、伊藤ハム「事件」、実情を伝えようとしないマスコミによって作られた虚像を信じこまされていたようだ、と感じることができた。
不二家が TBS の捏造報道によって陥れられたことは、証明できていると言ってよさそうだ。
伊藤ハムは、柏市保健所の誤った条例解釈により、本質に関係ない事実を公表させられ、マスコミによってバッシングを受けた経緯も、よくわかった。
日本をまともな方向に導くためには、たとえば伊藤ハムが受けた行政指導の違法性について国家賠償請求訴訟を提起する道があるということも指摘している。
四年前の本、残念ながらその時点から改善されたことは何もないようだが、著者には注目して行きたい。
Posted by ブクログ
日本社会に蔓延る「法令遵守」そのものの自己目的化、絶対化の影響について論じた本。当書では不二家など食品会社の不祥事、耐震偽装、ライブドア事件などの経済司法、裁判員制度、社会保険庁の「宙に浮いた年金記録」、マスメディアの報道問題など多岐に渡ってこの問題を扱っている。
全体的に言えるのは、「法令違反だから」という理由で猛烈にバッシングしておきながら、真相が明らかになる頃には皆無関心を決め込む、バッシングのみに関心が集中して本来の問題が忘れられるという傾向が日本に見られることである。
それはマンションの耐震偽装については、1981年の建築基準法改正前に立てられた物件の中には、偽装物件より耐震性の低い物件が多くあったのに偽装叩きのみが盛り上がったことが例として挙げられる。
また、裁判員制度は官・民(日弁連)の間でろくに議論されないうちに「司法に『市民感覚』を採り入れないより採り入れた方がいい」という理由で導入された。このように著者は思考停止的に事件が国民に受容されている問題点を的確に抉り出す。
最も根深いと思ったのはマスメディアの問題。納豆ダイエット捏造による関西テレビの「あるある大事典」事件、みのもんた氏が不二家の単なる形式的会社基準違反(それでも社会的悪影響は大きいが)を執拗に(TBSでは1か月間、1日平均15分かけてこの事件を取り上げる)バッシングして経営困難に陥らせた「朝ズバッ」事件などが挙げられている。
著者はこうした事件が起こる根底に、単なる放送事業の過剰な営利追求姿勢の他にも、マスメディアが自らの虚偽を認めることが隠蔽するままよりも評価されず、不利益になることを指摘する。特に「あるある」の場合は捏造そのものは追及されたのですが、それだけという感じが以前からしたので、なるほどと思った。
このように「法令遵守」そのものが水戸黄門の印籠の如く扱われる日本の風潮について、著者は日本人にとって法令は「伝家の宝刀」であると説明(アメリカ人にとっての法令は「文化包丁」)しています。日本では法令が非日常的であり、社会の実態と法令の間にズレが生じているにも関わらず、単なる崇拝の対象として扱われる(アメリカでは、法令は日常的であり、社会的要請に答えるための道具、手段)。
この状態から脱却するためには、法令の趣旨、目的、基本的解釈を各々が自分の頭で理解し、「印籠」に頭を上げて直視することが求められる。そのようにして法令を媒介として、上命下服ではなくルールとして互いに尊重する関係を築いていくべきであることを著者は主張する。
単にルールに従うことを有り難がり、はみ出し者を親の仇の如くバッシングし、後は野となれ山となれという態度を決め込む日本社会の側面を炙り出した素晴らしい一冊だと思う。
ルールに従うことでマゾヒズム、はみ出し者を叩くことでサディズムを満たしているということだろうか。マスメディアの報道のやり方や、ネット上でのニュースの反応を見ていると、本書の内容に思い当たる節は枚挙に暇がない。
Posted by ブクログ
思考停止社会か。本書に出てくる、事件は当時メディアでよく騒がれていた。年金の問題、食品偽装、livedoor事件等。自分も思考停止に陥っていて、「ああ、また悪いことしているよ」と思っていた。
それは何故か。今、出た答えは、固定観念が強くて知ろうとしなかったことがデカイのかも。
でも、そこから知ったきっかけは何だったんだろう。うーん。