あらすじ
東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎、かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」――運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは……。その男、悪を超えた悪――絶対悪VS天才スリ師の戦いが、いま、始まる!!
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「掏摸」という言葉は、「獏」の文字に似ているからか、まるで動物の名前のように見える。この小説は、生活のための掏摸ではなく、掏摸という行為そのものに生きる男の話だ。無意識に取り、変装資金のために取り、愛する人が死んだ悲しさで手当り次第に取る。これはいわば「掏摸」という動物ではないか。
まず興味を惹かれるのは、華麗なる掏摸の技術の数々。標的探しから証拠隠滅まで、ルポルタージュのように闇の世界が描かれる。一般市民は身近に潜む危険にぞっとし、思わず財布の所在を確認してしまうだろう。
また、感情を排除した淡々とした描写が、読者を物語の深みへ引きずり込んでいく。財布を抜き取る手先の微細な緊張まで伝わってきて、その手を相手につかまれた瞬間は本当に身の毛がよだった。主人公の行いは、善か悪かで言えば間違いなく悪である。それでも読み進めるうち、彼のミッションの成功を我がことのように手に汗握って祈るようになってしまう。もちろん、自分の財布は鞄の底へ押し込みながらだけれど。
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Posted by ブクログ
スリ師で悪党だけども人間として1番大切な部分は欠けていなくて、運命を握られていたとしても紛れもないこの物語での主人公だった。彼を全肯定する訳では無いし、してはいけないこととして捉えてはいるけど、彼の人間味、芯を貫いたその姿がものすごく好きだった。読み終えて俯瞰して考えて初めて犯罪者と気づく程感情移入していた。自分のような奴が行き着く先を知りたいと言っていたけど、そんなのは戯言で、生に執着していたのも良かった。ただ純粋に掏摸が好きなだけだったんだ。
Posted by ブクログ
こういった小説のジャンルをノワールというのをこの作品の評価などを見て初めて知った。
現代でこのようなテーマを扱うなら半グレ・裏バイトになるんだろう。
タイトル負けしないスリ描写は緊張感があり良い。主人公自身はスリという生き方を受け入れつつも子供には真っ当な道を歩ませようとする心理描写、木崎のような裏社会の理不尽な闇も印象的だった。
短いながらも読みごたえがあり良かった。
この袋小路のような閉塞感はディストピア小説と読後感が近いと感じた。
Posted by ブクログ
木崎のような権力者、命令に従うしかない主人公、そして守られなければ生きられない子供。作中に並ぶ三者は、世界に埋め込まれた見えない階層を象徴しているように感じられた。生まれた場所で人生の輪郭が決まり、抗う術も与えられない世界。その冷たさの中で、人はどこまで「自分の意思」を保ち、貫けるのか──という物語だと思った。
あの子供には良い人生を送って欲しいな、、
Posted by ブクログ
単行本だが170ページで読むのにそんなに手間のかかるものではなかった。ただ前に読んだ「去年の冬きみとわかれ」もそうだったが、何かに優れていたり、異常になにかにとり憑かれた人を書くという作家なのか、日常生活には見られない主人公や周りの生き方が少し分かりにくくもあった。
分かるというよりも、まぁどんなテーマでも読み手の想像で筋をたどるのだが、読んでいてこういう世界もあるのかという感想だった。
恵まれない孤独な境遇の青年が、スリで生活している。
スリの手際もよく、効率のいい裕福そうな人を狙って、生き延びている。
底辺の法外の生活者、アウトローなので縛られる何物も持たない。ただ一時関係があった人妻が分かれた後、自殺してしまったという過去がある。
子供の頃、同級生が見せびらかしていた外国製の時計をすろうとして失敗した思い出があった、いまでは天性の勘と器用さで天才的な技を身につけ、つかまったことがない。
一時詐欺組織にいた男と組んだときは、彼のスリの技は人生の美にうつった。
闇の中から出てきたような男に仕事を依頼される。それは依頼というより、命がけの仕事だった。
得体の知れない男は頭が切れ部下も多く、危険な仕事を楽しんでいるようだった。
彼は、子供の人生を設計どおりに操った貴族の話をする。
傲慢で冷酷な自分を神になぞらえ、恐怖や悪といった感情と表裏をなす善を見据えてこそ、死の恐怖を超えることが出来る、という独自の悪の哲学のようなものを話して聞かせる。
仕事はまるで不可能なような三つの条件がついていた。失敗すれば知り合った子供とその母親の命がないという。
彼はその困難な仕事に挑んでいく。
リーダーでない限り、仕事はどんなにうまく行っても、駒の働きでしかない。彼は、ふと知り合った親子の命と、スリの腕に対する矜持と、わずかな希望で事に当たる。
悪には悪の世界がある。そう分かっていても、何か徹しきれないものがあるのが普通で、彼も恐怖や迷いから逃れられない。
作者の苦心が現れた作品だったが、世界が世界だけに割り切れない、雰囲気に乗り切れない部分があった。
ひとのもつ不思議な世界に挑戦しているような作品を二つ読んだが、後はどういった方向に行くのだろう。
余談だが、私は三度スリに会っている。三度とも給料をすられた。二度は定期券ごと盗まれた。定期は会社から半年ごとに支給されていたので少し距離のある通勤圏の私は使いはじめに盗られると痛手だった。もちろんなくせば自分で買わないといけない。
証明書を貰いに行くと経理の係りの人が、気の毒がりながらもあきれていた。紐をつけておいたほうが言いとアドバイスしてくれた。
給料日には本屋に行くのが楽しみで、長い時間本を見て歩き、中にある喫茶で少し読んだりして、宙に浮いた気分で混んだ電車に乗って帰っていた。
乗り換えの改札口で財布も定期もないことに気がついた。駅員さんに教えられて、そばにある派出所に届けたが、そういうものは出ないでしょうと無責任に言われて少し憤慨した。ぼんやり者にでも少しは優しい言葉を掛けてくれても、と思ったのだった。それ以後届けなくなった。
スリというものは知っていたが実在するというのを実感した。
テレビで空き巣狙いのピッキング技やスリの手際のよさを特集した番組があった。係りの刑事がその様子を見せてくれたが、三人組の芸術的ともいえる盗品のリレーに感心した。
外から見れば憎らしいスリだが、小説の主人公ともなると何か、うまくいって欲しいように思えるのは作者の腕かな。
Posted by ブクログ
全体的に薄暗く救いの無いストーリーで読後感が悪く、憂鬱な気分になりました、、
時系列がぐちゃぐちゃだったり、主人公の錯覚で描写が変わったりでところどころついていけなくなりました。
主人公だけでなく周囲もヤバいやつが多く人間らしさが感じられなかったですが似た境遇の少年をどうにか掏摸の世界から抜け出させようとしている主人公の姿に唯一人間らしさを感じました。
Posted by ブクログ
主人公の男にとってはスリが当たり前のこととして描かれていて、スリ師という影の生活を覗き見たような感覚に陥りました。自分にとっては関わりのない職業?のはずなのに、この世界には確かにそんな裏社会で生きている人もいるのだと思うと恐ろしくなります。自分の見えない世界だからといって存在しないということではなく、確かに存在はするけど自分が見ようとしていないだけなのかも知れないと思いました。
Posted by ブクログ
今までの自分の読者傾向をもとに、チャットgpt から強烈におすすめされて本だったが、微妙だった。確かに、木嶋とその組織の正体が謎である終わり方もいいと思うし、むしろこの小説にミステリー要素を求めるのはナンセンスなのだろうが、それは読んだ後にわかることで、若くて刺激を求めてしまう自分にはどうしても物足りなかった。やっぱり、主人公の過去、組織の正体、社会体制、構造反転など壮大なものを期待してしまった。この小説の冒頭の私小説的な件も「しゃべり始めたな」と正直思ってしまった。あとがきも真っ直ぐな言い訳を聞かされているようで惹かれなかった。自分は寡黙の美学のようなものを作者や芸術に求めてしまうのかもしれない。
Posted by ブクログ
普通に面白かった。
スリを覚えて実行して、結局は木崎に刺されてどうなったのかな?助かった?あの子供は施設に行けたのかな??
続きがあるみたいなので読まなければ。