【感想・ネタバレ】仮釈放のレビュー

あらすじ

浮気をした妻を刺殺し、相手の男を刺傷し、その母親を焼殺して無期刑の判決を受けた男が、16年後に刑法にしたがって仮釈放された。長い歳月の空白をへた元高校教師の目にこの社会はどう映るか? 己れの行為を必然のものと確信して悔いることのない男は、与えられた自由を享受することができるか? 罪と罰のテーマに挑み、人間の悲劇の原型に迫った書下ろし長編小説。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

・あらすじ
浮気した妻を刺殺し、間男を刺し、男の実家に放火しその母親を焼死させた罪で無期懲役の判決を受け服役中の菊谷史郎。
25年後に仮釈放され、保護司の指導や援助のもと就職をし、貧しいながらも自立して生活できるようになっていた。
傍目には更生したように見える菊谷だが、25年間の服役生活を送っても心中では未だ己の行為に対して後悔の念は持っていなかった。
そんな男の逃げきれない運命の話。

・感想
えっ……つらっ。
読んで2日ほど経ってるけどまだちょっと引きずってるし、表紙見るだけで陰鬱になる。

吉村先生の作品はこれで6作目なんだけど、今まで読んだ本の中で1番精神を抉られた。
ずーーーっと陰鬱な雰囲気なんだけど、順調にいきだしたかな、と思った矢先にとても雲行きが怪しいぞ??あれ?あれ??やめて…ってなってラストはため息が漏れた。

序盤は出所後の変貌した外界への戸惑いや不安感、焦燥感などが描写されて重苦しく、そんな中過去のフラッシュバックが起こるたびに妻を殺害した事を当然の報いだと確信してる菊谷の心情のゆらぎに読者であるこっちも翻弄されたり…。

もちろん菊谷が起こした事は犯罪で庇う気にはなれない。けど情状酌量の余地はあった、とも思う。
彼は悪人とか善人とかじゃなくて、文中に出てくる同僚の「幼稚なほど真面目」な人間という評価が適切だと思う。
内向的だし、限られた人間関係の中で刺激の少ない人生をおくることが性に合ってた性質の人間なんだろう。

後半の展開なんてすべてが空回りした結果。
他人からしてみたら善行でも、受け取る側からしたら余計なお節介というか的外れというか…。
他人が本当はどう思ってるかなんてわからないし、「こうしてあげたい」という思いやりだって本人のためにならない事なんて往々にしてあること。
しかも選んだ相手が無神経だったのが最悪だった。
読んでるこっちも女の無神経さにイライラしてしまった。
それは本作が菊谷の一人称で書かれて感情移入しやすい状況だったという事もあるけれど、あれだけ無理解で図々しく、無神経な人間に自分の都合の良いように土足で踏みじにられたら反感も持つよ…。

「これが自分のさだめであり、どうすることもできないのだ」
「自分ひとりの世界に身を潜めることができたが、所外の社会にはあまりにも多くの人がいてわずらわしく、自分には不向きであったのだ」

これが本作の全てなんだろうな、と思う。
他にも「更生とはどういうことなのか」「人間が何十年と社会から隔離されるとはどういう事なのか」なども考えさせられる。

そして最後の「改悛の情などおれにはない。憤りの気持ちしか持たないのになにをどのようにして謝れば良いのか」という菊谷の心の叫びにも「幼稚な真面目さ」がでてるな、と思った。
自分の利になるように、謝罪の気持ちなんか持ってなくても外観上謝罪したように見せる強かさというか、ずる賢さを持ってたら多分こんな事にはなってないんだろうね。

彼が殺人を犯す際には「憤りも憎悪もなく、感情というものが欠落していた」と描写されていて、それは自身の容量以上の刺激を受け止めきれずキャパオーバーして思考停止してるって事なんだとは思うけど、それで放心して呆然とするのではなく「相手を排除しよう」と無意識に行動する加害性を自覚できないからこそ菊谷は「どうすることもできない」んだと思った。
解説でも「彼の体は意思とは無関係に動く」と書かれてあるけど、私はやっぱり(少なくとも妻に関しては)殺そうという意思を持って殺したんだと思う。
だから彼は決して改悛しない。

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2025年04月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

もう、バッドエンドの極致。
ちょっと間違えればどんなふうにでも転がっていくということか。
暗くて、深い。

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2015年07月15日

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