【感想・ネタバレ】脱出のレビュー

あらすじ

昭和20年夏、敗戦へと雪崩れおちる日本の、辺境ともいうべき地に生きる人々の生き様を通し、〈昭和〉の転換点を見つめた作品集。突然のソ連参戦で宗谷海峡を封鎖された南樺太の一漁村の村人の、危険な脱出行を描く表題作。撃沈された沖縄からの学童疎開船・対馬丸に乗船していた一中学生の転変をたどる「他人の城」。東大寺の仏像疎開作業に従事する僧侶と囚人たちをめぐる「焔髪」など5編。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

吉村昭の3冊目。

硬質な文章であると思うのだけれど、自然の描写が美しく……、その美しさ故に、描かれている時代の悲惨が、より際立ってくる・・・。

「鯛の島」
・・・なんともやるせない。敗色濃厚な戦況が国民には隠されていたということ自体は、歴史に疎い自分にも周知の知識ではあったけれど、その隠蔽のためにあんなことが・・・。

「他人の城」
・・・巻末解説文で「神の名によって許されさえする」と描かれた、極限状態での選択……。
生き残った後に心を保てるのかどうか?
・・・自分だったら?・・・
平成日本に生きる我々には、想像すらできないな。

「珊瑚礁」
・・・その“地獄”を生き延びた人達が実在したのだよね。
・・・その彼ら、彼女らが、高度経済成長に浮かれる日本を、どんな気持ちで生きたのだろうか。そして、平成日本をどう見るだろうか。

★4つ、8ポイント。
2016.12.27.古。


※子供の頃、夏になると「火垂の墓」などを授業で見せられた記憶が。金曜ロードショー等でも、夏になるとよく流れていたかと。たしか中学生くらいの頃だったかと…。

中学生に「火垂の墓」も、、、まあいいけど、、、、

本書を、高校生の必読図書指定してもよかろうかと思った。

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2018年02月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

終戦という転換期を様々な場所で,かたちで,生きた人々の短編集。

全体として,たとえば燃え尽きた都会で玉音放送を聞いて・・・という感じではなく,どちらかというとあまり戦争らしい戦争を経験しないで終戦を迎えて,時代の急激な移り変わりを虚ろな目で見つめる,と言った感じ。
終戦と一言に言っても,色々な終戦があったのだなと思わされました。

「脱出」「焔髪」「鯛の島」「他人の城」「珊瑚礁」の五編が収録されているのですが,私の印象に残ったのは「他人の城」と「珊瑚礁」。もちろん他の作品もとてもよかったですが。

「他人の城」は,沖縄からの学童疎開船「対馬丸」に乗船していた中学生の話。
学童疎開船である対馬丸・亜米利加丸の沈没・・・民間人の多くが犠牲になったそうです。疎開船が沈没なんて,気の毒過ぎます。気の毒の一言じゃ済みませんが,乗っている船が沈没したらもう,為す術がないですね・・・。
対馬丸に乗っていて,沈没して,たくましく漂流して救助されるところまででも十分ドラマチックですが,さらにこの小説の魅力は,本土に残った学友たちが沖縄戦を闘い,散っていたことに対して主人公が負い目を感じていること。
疎開船が沈没するというだけで十分な被害者ですが,やっぱり本人の感情としてはそれだけでは済まされない。そういう葛藤が描いてあるのが良かったです。
そして改めて沖縄戦の悲惨さを思い知りました。日本で唯一決戦の地となり,10万人以上の人々の命が失われた沖縄戦。私の実感として,戦争と言えば沖縄戦,として語られることがあまりないように思うのですが(戦後生まれ,本州在住として),もっと学ばれて然るべきだと思いました。

「珊瑚礁」はサイパン島に住んでいた日本人が,米軍上陸によって山中を逃げ惑い,家族を失いつつ,捕虜になり,戦後を迎える話。
敵を恐れて家族で山中を逃げ惑う。うう。怖い。こんな生活耐えられないよなーとつくづく思いました。
毎日安心して布団で寝られる幸せよ。

昭和の転換点・・・とても興味深い短編集でした。
事実の悲惨さやむごさのようなものが中心に描かれるのではなく,主に少年の心の移り変わりのようなものが中心に描かれていて,そこが良かったです。

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2011年11月23日

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