あらすじ
樽見京一郎は京都の僻村に生まれた。父と早く死に別れて母と二人、貧困のどん底であえぎながら必死で這い上がってきた男だ。その彼が、食品会社の社長となり、教育委員まで務める社会的名士に成り上がるためには、いくつかの残虐な殺人を犯さねばならなかった……。そして、功なり名を遂げたとき、殺人犯犬飼多吉の時代に馴染んだ酌婦、杉戸八重との運命的な出会いが待っていた……。
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Posted by ブクログ
昭和22年9月20日、青函連絡船「層雲丸」は颱風の影響を受けて転覆。854名の乗員乗客のうち半数が死亡する大惨事となった。対策本部がある函館警察署の弓坂吉太郎警部補は、乗客名簿に該当しない男性2名の遺体があることに注目する……。
同日の朝、函館から20㎞ほど離れた岩幌町にて全町の⅔が焼失する大火災が発生。火元と見られる質店の一家強殺犯による放火が原因と推定された。警察は同年3ヶ月前に仮釈放された受刑者2名と、彼らと行動を共にしていた大男“犬飼多吉”による犯行と断定。その行方を追うも捜査はなかなか進展しなかった……。
青森県大湊の娼婦 杉戸八重は軌道車で知り合った関西訛りの大男を客に取った。“犬飼多吉”と名乗った男は返礼に6万8千円の札束を渡して去る。戸惑う八重だったが曖昧宿への借金返済と、上京・再出発への資金に用いんと決意する……。
戦後間も無い、ヤミが跳梁跋扈する日本社会が舞台のミステリー作品。ヤミに頼らねば生き残れぬ都市部の厳しさと、ヤミすら手に入らぬ地方部の貧しさ、そして双方の住民たちの生存への執着の描写が凄まじい。また内田吐夢監督の映画版と比べ、本作では弓坂の執念の捜査や、八重の苦難と強かさがより詳細且つ叮嚀に描かれている。これは下巻にも大いに期待できる!
Posted by ブクログ
水上勉の視点が大変に好きだ。その土地に根付いたような、寄り添うような視点で描いてくれる。車窓から田畑を眺めて土地の生活を想起するような、僕の理想としている見方に近い。まだもう少し書きたいが未だ興奮さめやらぬ
越後つついし親不知に続いて2作品目。北国らしさがひしひしと伝わる。北海道に下北に舞鶴、近畿に住む僕には全て北国に見えてしまう。いつか現地を歩いてみたい。