【感想・ネタバレ】有罪、とAIは告げたのレビュー

あらすじ

半歩先のリアルを描くリーガル・サスペンス!

東京地方裁判所の新人裁判官・高遠寺円は、日々の業務に忙殺されていた。公判、証人尋問、証拠や鑑定書の読み込み、判例の抽出、判決文作成と徹夜が続く。
東京高裁総括判事・寺脇に呼び出された円は、中国から提供された「AI裁判官」の検証を命じられる。〈法神2〉と名付けられたそれに過去の裁判記録を入力すると、裁判官の思考を〈再現〉し、出力するというのだ。果たして〈法神〉が一瞬で作成した判決文は、裁判官が徹夜し苦労して書き上げたものと遜色なく、判決も全く同じものだった。業務の目覚ましい効率化は、全国の裁判官の福音となる。しかし円は〈法神〉の導入に懐疑的だ。周囲が絶賛すればするほどAI裁判官に対する警戒心が増していく。
ある日、円は18歳少年が父親を刺殺した事件を担当する。年齢、犯行様態から判断の難しい裁判が予想された。裁判長の檜葉は公判前に〈法神〉にシミュレートさせるという。出力された判決は――「死刑」。ついに、その審理が開かれる。
罪は、数値化できるのか。裁判官の英知と経験はデータ化できるのか。目前に迫るあり得る未来に、人間としての倫理と本質を問うリーガル・サスペンス。

※この作品は過去に単行本として配信されていた『有罪、とAIは告げた』 の文庫版となります。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

中山七里『有罪、とAIは告げた』は、「AIを司法判断に活用したらどうなるのか?」という問いを、SFではなく“ほとんど現実”の距離感で描き出すリーガルミステリだ。これは近い将来起こり得るどころか、すでに世界のどこかで始まっているかもしれない物語でもある。

人が人を裁く――その判断ひとつで、人の人生を決定的に方向づけてしまう。そんな究極の意思決定の場である司法・法廷に生成AIを持ち込んだら何が起こるのか。本書はエンターテインメントとしての読みやすさを保ちながら、じわじわと本質的な問いを読者に突きつけてくる。

ここで浮かび上がる問いは大きく二つだ。

一つは人間に対して。「人間らしさとは何か?」

劇中のAI裁判官「法神2号」は、被告人の偽証を見抜けない。被告は兄を庇うために、自分に疑いの目が向くよう証拠や証言を偽っていた。兄が弟を想う心情、父によって家庭が崩壊したやるせなさ――そうした感情から生まれる非合理な行動は、AIには判断できなかった。

ただ、これは「AIが人の心を見抜けなかった」というだけの話ではない。そもそも人間側がその偽証に気づけなかったために、証言や記録として残らず、結果としてAIの教師データになっていなかった、という構図がある。データ化されなかった人間の感情や行動は、AIにとっては「存在しなかったもの」として扱われてしまう。

もう一つはAIに対して。「AIの知識は完璧か?」

本作でAIは、尊属殺事件の未成年被疑者という、極めて判断の難しいケースに使われる。ところが劇中では、尊属殺に関する重要な判例が、意図的にAIの学習データから除外されていた。これにより、尊属殺に対する判断が恣意的に厳罰化に傾くよう設計されていた、という設定が明かされる。

これはつまり、人間が学習させるデータの範囲や偏りをコントロールすることで、AIの判断をいくらでも誘導できてしまう、ということを意味している。AIの「客観性」や「中立性」は、データ選定という人間の意思から決して自由ではない。

さらに重い問いとして浮かぶのが、「AIが下した判決が誤りで、冤罪だったとしたら、その責任は誰が取るのか」という問題だ。
おそらくそれは、最終的には人間になる。

責任を引き受ける主体であることだけは、人間から剥がすことができない。
そう考えると、人間とAIの関係性ははっきりしてくる。AIは「作業の代行者」にはなれても、「判断の代行者」にはなり得ない――本書はそのことを、物語の形で強く伝えているように感じた。

生成AIを仕事で使う人は、これからもっと増えていくだろう。だからこそ、AIと共に働くことになった人たちに、ぜひ読んでほしい一冊だ。自分とAIの距離を、もう一度静かに問い直したくなる物語である。

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2025年12月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人間の行いに対する判断を、AIに任せる。
しかも、一人の人生を決める、裁判という場面で。

AIが急速に発展している今、あり得ない話ではない。AIは、事務処理や資料整理などといった場面では、効率的に働き、プラスになることが多いとは思う。
しかし、判決を下すのはどうか。事件の背景や、犯罪の中に潜む人間の感情を数値化する、というのは正直、遠い未来でも想像しにくい。時代の流れに対応できるのかどうかも。

ただ、知識が乏しい私の意見ではあるが、裁判官によって判決が異なるというのも、不公平に感じる。多くの時間をかけて、調べて悩んで考えた結果、判決を下すというのは、そこにある葛藤を想像することすら失礼であるほど難しく、複雑なことだと思う。裁判官という職がどれだけ多忙で、多大なる知識が必要で、世の中に必要不可欠な存在であるかということは言うまでももない。
しかし、AIはある意味、よく言えば公平な判断を下すのかもしれない。ある意味では冷酷な。
だが、そもそも法律というものが公平であり、時代に即したものであるのか、ということにすら疑問を持ってしまう。

ここまでくると、AIが導入されるべきか否かという話とは離れてくる。だが、現段階では、判決文を書くような重要な場面に関わらせることは無理であり危険だと、本作を読んで改めて感じた。責任の所在の問題ももちろんあるけれど、やはり人間の感情というものは人間にしか読み取ることができないと思う。
また、AIはすでに、私たちのすぐ近くにある存在である。何かの記事でも、AIによる要約を読んで、効率的に概要を知ることが増えている。しかし、事件に直接的に関係のない人間でも、そこにある背景を知り、自ら考えることが大切なのではないかと、私は感じた。

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2025年12月09日

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