あらすじ
脳は「過去を思い出す」ときも「未来を描く」ときも、同じ場所を使っていた──記憶の正体に迫る
記憶とは、頭の中に情報を保存するだけでなく、感覚と結びつきながらその都度よみがえる動的な現象である──神経科学者であり心理学者でもある著者が、記憶=固定的なものというイメージを覆し、数々のメディアで年間ベストに選ばれた、知覚をめぐるサイエンス
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Posted by ブクログ
記憶、学習という領域に留まらず、過去をどのように位置づけるのか、どのような人生を送るのかといった事象にまで届く、たいへん興味深く有益な本だった。
記憶というものがどのような脳のしくみによって作られ、保持されているのかという生理学的なベースの話から、私たちが日常よく経験している実感のある話まで、著者は驚くほどスムーズに話を繋げる。脳の機能についての科学的な話が、これほど読み物として優れているのは珍しいし、ありがたいことだ。
記憶というのはスチール写真のように脳に刻まれているものではなく、思い出すたびに再作成されていると思ったほうがよいらしい。そして、思い出すたびに強化される。想起することは、再生と録画のボタンを同時に押しているようなものであり、ニセの記憶でさえ定着させることができる。想起されるたびに強化される記憶がある一方で、関連の枝葉の情報は忘却される。
間違いのほうから、人は多くを学ぶ。何十回も本を読むより、適切なタイミングでテストを受けるほうが記憶として定着する。間違いじたいが有益なのではなく、学習した内容を引き出そうと自らを駆り立てることからその効果は由来している。
人は忘れる、それは悪いことではない。不要な情報をそぎ落とし、意味のある情報を残すことで効率が上がる。忘れることは柔軟性を取り戻すことであり、新しい意味づけを可能にすることである。
記憶はゆがむ。後付けの情報で、正しい記憶が上書きされるし、上書きされたことに気がつかない場合もある。肯定的な情報(善行)より、否定的な情報(不正とか)のほうが記憶される。フェイクニュースは記憶に残りやすい。それまでの信念と合致する情報を強化するバイアスを脳は持っているし、強い感情をかき立てられると記憶に定着しやすくなるし、くり返し情報に接することでも強化されるし、情報源を信頼できると見なしている場合はより信じる度合いが大きくなる。
集団として作り上げて共有する記憶は、個人的記憶にも、アイデンティティー形成・構築にもちろん影響を与える。記憶とは「私とは誰か」という自己像の核でもある。グループで記憶を共有すると、声の大きい(発言が多い)人の記憶に干渉されて、一人ひとりの記憶は抑制される方向に働く。反対にグループのメンバーが協力し合い、個性と差異を尊重できる場合は、より豊かな記憶が残る。
何のために記憶というものがあるのか。もちろんただ、過去を振り返るためではなく、過去を教訓として、将来を予測し、いまこの瞬間によりよい選択をするために発達してきたということを本書はベースとしている。本書じたいが単に「記憶」についての科学的知見を紹介するという役割を超えて、人間とはどういう存在なのかという興味深い問いについての考察になっている。
Posted by ブクログ
本書は「記憶」についての認識を新たにさせる本である。本書では、最新の科学的な知見から、記憶は過去を保存するためではなく、未来を形作り、自己を保ち、他者とつながるための中核的な仕組みとして、解説されている。
「はじめに」で「記憶する自己」について問いかける。「あなたの<記憶する自己>はほぼすべての決断に影響を及ぼすことで、あなたの現在と未来を絶えずーしかも大きくー方向づけている」
記憶は、過去の記録ではなく、未来の行動を導くためのシステムとして捉えられ、その仕組みについて、脳機能イメージングや様々な実験が紹介されている。
記憶についての基本的な仕組みとして、かつては前頭前野がワーキングメモリーで一時的に記憶を保持し、海馬が長期記憶を担うと説明されていたが、そのような単純なものではなく、前頭前野は中央実行系として様々なネットワークの活動を連携させており、海馬はエピソード記憶を形作るものとして複数のセル・アセンブリと接続している。
さらに、ある瞬間の文脈をとらえた記憶を海馬が形成し、偏桃体はその記憶を生存回路と結び付けて生々しい感覚を生み出し、既視感については嗅周野が担っているという脳のより詳細な働きについてもfMRIなどにより解明されている。
そして、著者が強調しているのは、「記憶は未来を予測するためのものである」ということである。そして予測が間違えるとき(予測誤差)、現実とのギャップを探ってそれを解消し、新たな情報が記憶の中で優先される。
また、記憶を想起するとき、再生と録画ボタンを同時に押すように働くという。記憶は上書きされていくという点も科学的に説明されている。
実用的な内容としては、以下の点。
・後で見つけやすい記憶を形成するには、「意図」の力で「注意」を導いて具体的な物事に固定させること
・チャンキング(意味のある塊に整理・分割する)
・テストを行い、間違えることによって学ぶ(エラー駆動型学習)
・睡眠(「睡眠によって私たちは記憶を知恵に変えられる」)
【原題】
Why We Remember: Unlocking Memory's Power to Hold on to What Matters
【目次】
はじめに──〈記憶する自己〉を知る
第I部 記憶の基本
第1章 私の心はどこにある──覚えていることと忘れることがあるのはなぜ?
第2章 時間と空間を旅する──思い出すとその時間・その場所に戻れる
第3章 削減、再利用、再生──少なく記憶したほうが多く思い出せる
第II部 見えない力
第4章 単なる想像──想起と想像は分かちがたく結びついている
第5章 感情以上──記憶と記憶に対する感情が異なるのはなぜか
第6章 辺りは見慣れた顔ばかり──忘れていても学習はできる
第7章 振り返って未知と対峙する──新しいもの・予期せぬものへと記憶が導く
第III部 変化する記憶
第8章 再生と録画のボタンを同時に押す──想起が記憶を変える
第9章 多少の痛みが利益を増やす──間違いからのほうが多くを学べる
第10章 一緒に思い出すとき──人とのかかわりのなかで記憶がつくられる
おわりに──記憶は絶えず変化する
Posted by ブクログ
記憶は録画ではなく、未来を予測するためにある。よって不完全であり、忘却こそも効率化戦略であると。
お得情報満載といえば陳腐だが、唸る納得感を随所に得ることができる。
また、救われる。私たちの脳は思っているより優秀で、優しさに満ち溢れた機関なのかもしれない。
"私たちが現実をどう知覚し、何を選択し、どのような計画を立て、誰と交流し、さらには自分が何者かさえも、すべては記憶が方向づけている。"
記憶は未来だ。
Posted by ブクログ
記憶について、以前からのいろいろな研究をわかりやすく解説してくれている本なのだけれど、少し飽きて斜め読みしてしまった。225頁の子どもの記憶への家族が共通の経験を一緒に語り合ったり、自分の経験の感情的な側面を話す家庭の場合は10歳から思春期の子どもはその記憶を意味ある物語のなかに位置付けることができて、結果的に対人面でも学業でも、自分に自信が持てるようになるとの記述があり、記憶は起こったことを周囲の人がポジティブな記憶に書き換える働きをすれば、書き換えられていくことを自分の川に流された経験が良い方向に書き換えられた体験を示していた。これは過去の記憶への働きかけへの大切さをセラピストの働きかけにあると結論付けていた。
そして記憶は認知機能の低下にも働きかけることができるのではと今後の研究に言及している。
そしてSNSによって、大衆の記憶を書き換えることもできる怖さも書いてあった。
自己の記憶を良いものとして変えるのも自分による部分が大きいように読み取れた。