あらすじ
流産した哀しみの中にいる夫婦が捨て猫を飼い始める。モンと名付けられた猫は、夫婦や思春期の闇にあがく少年の心に、不思議な存在感で寄り添ってゆく。20年の歳月が過ぎ、モンは最期の日々を迎えていた。濃密な文章力で、生きるものすべての心の内奥を描き出した傑作。
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Posted by ブクログ
沼田さんは、猫がゴロゴロと喉を鳴らす音を「猫鳴り」と書いている。猫とともに知る生きることと死ぬこと。
迷い猫「モン」と暮らした日々を三部に分けている。
いつも胸の奥深くにある、確かに分身と思える自分の心、それを暗く厳しく、日常生活の中で見つめる作者の目はここでも健在だ。
その中に沈んでいる、生きていく日々の悲しみややるせなさ、孤独感が重くにじんでいる作品が、薄い本の中で充実している。
特に三部の「モン」との別れは、胸を締め付けられる。
沼田さんの作品を読むと、生きることにまっすぐに向かう強さと、書いているテーマの重さに読むのが苦しくなることがあるが、情に流されない乾いた筆致がこの作品では、時に揺れる。
「モン」に託した視線の暖かさや人の優しさに胸を打たれる。
長くなりそうな、「モン」の一生に付き合う話を、三部に分けた書き方も、語り巧者だと思う。
第一部
泥だらけで迷い込んできた手に中に納まるような小さな猫が、疎ましくて信枝は新聞紙にくるんで捨てた。だがなぜかよろよろと帰ってきた。今度は少しはなれた林に捨てた、だがまた帰ってきた。また捨てた、猫は林の中にずんずん入っていった。
信枝はやっと出来たわが子が流れて8ヶ月、何もいわないが夫の藤治も仔猫のことが心配げだった。
玄関を開けると女の子が立っていて猫を置いていったという、有山アヤメという子は猫を捨てたと知ると、林に向かって走っていった。藤治と信枝が追いかけていくが猫は見つかったが女の子は姿を消していた。
猫と藤治と信枝、猫の様子を見に来て居間に上がりこんで、肉じゃがを食べていくアヤメ、藤治の仕事仲間で将棋を指しにくる弟分の暮らしが始まった。「モン」は飼い易い猫だった
第二部
母子家庭で父親にも構われなく育ち、世間を憎み不登校になった中学生が、公園で幼児を刺そうとして偶然に未遂に終わる。
幼児の母親に通報され警察の呼び出された時、親心に触れ、初めて親しい感情を持つ。
アヤメと他を威圧するほどたくましく成長した「モン」との付き合い
第三部
信枝も亡くなり、アヤメも結婚して遠くに行った。老猫になった「モン」と暮らしている藤治。
「モン」は動きが少しずつ緩慢になり、食も細くなってきた。医者に見せると腎機能が病んでいると言う。手当ての方法が無く、食を補う注射をして、口に塗るペースト状の食材をくれる。「モン」は嫌がったが口に塗ると少し食べた。二階の信枝のベッドの下から出てこなくなり、名前を呼ぶと返事をして尻尾をパタパタと床に打ち付けた。
それも次第に弱しくなっていった。子供の頃から毛をすくと喜ぶので綺麗にすいてやり掃除機で吸い取るとそれも気持ちよさそうにしている。好きなところをなでてやるとゴロゴロと体全体が震えるほどの猫鳴りが聞こえる。
果物籠を見つけて入れてみると大きなからだが丁度収まった。ブランコのように揺すると嬉しそうな金色の目でジッと見つめてくる。だが籠がだんだん軽くなった。ベッドから出てくることも無くなって、綺麗好きの「モン」の毛が尿でぬれているようになった。からだをずらして拭いてやる。
美しい金色に輝いていた毛並みが汚れている、拭いてやると嬉しそうに顔を見た。だが何も食べなくなって皮膚が腹の下に滑り落ち、顔もとがってきた。
夜中の二時頃に、ベッドの下をのぞき込むと、奇妙な無表情さが猫の全身を覆っていた。呼吸もあやふやであるような気がした。
「モン」
名を呼んだ。
猫は半分はもうモノになりかけていた。それでも、尾がはっきりと応えた。床をうつてハタハタと優しい音を立てた。
もう一度呼び、もう一度応えた。
見事な別れを果たしきった猫を、やんやと褒めそやしてやりたい。その想いをありったけ指先に込めて、見開かれたままの琥珀色の眼も最後にそっと閉じてやった。
猫を飼う人は必読です
とてもとても深いです。
猫と暮らしてる人、暮らしてた人、暮らす予定の人、読んで損は絶対に無いと思います。
私はまだ猫を見送った事が無いので、見送る生々しい描写のこの本が読めて本当に良かったです。
猫との時間を大切にします。
Posted by ブクログ
猫好きには辛い描写もありましたが…
第三章で藤治が、モンは近い将来自分にも訪れる死というものがそれほど恐ろしくはなく、自然なものなんだと教えてくれていると考えるシーンがありました。
私も飼い猫が亡くなった時、初めて死というものに触れました。死を認識し、体験し、理解したという感覚です。(長い年月が必要でしたが)でも私にとって死は恐ろしいものでした。きっと、彼にとっても恐ろしく苦しかったと思います。
モンは穏やかに、緩やかに最期に向かっていて、だから、藤治は取り乱したり後悔をすることは幾度となくあっても、最後の最後は、あのように穏やかに送り出せたんだと思います。モンがそうだったから。
Posted by ブクログ
3つの中篇連作です。
一篇は流産直後の中年夫婦、とりわけ妻側のささくれ立った心と奥底に垣間見える狂気に鳥肌が立つ作品。拾ってきた猫を捨てようとし森に赴くものの、うまくゆかず。そして、その猫を捨てたという身勝手な関西弁の女の子が有山アヤメまたホラーな感じ。
二篇目は殺人衝動を持つひきこもり中学生男子が主人公。父子家庭で父に難癖をつける日々。更には、幸せそうな男児への殺人衝動が喉元までこみあげてくる今日この頃。
ある日、難癖を真に受けた父が貰ってきた仔猫が死んでしまい、その遺骸を埋めようと公園にくるとそこにいるのは有山アヤメとふてぶてしい猫で…。
三篇目は一篇から20年以上たった場面。中年夫婦の夫が主人公。
その時には妻はもう亡くなり、かつて貰ってきた猫もいよいよ死期を迎えようとして来ていた…。自分もいつか死ぬし死に方にも思案するところ、その猫から死への態度を教わるような有様。淡々と描かれる風景にそこはかとなく猫への愛情が溢れ出す佳作。
・・・
一篇、二篇とよみ、これはイヤミスかも(ミステリじゃないけど)、と思いつつ、ページをめくる手が三篇に突入すると雰囲気やトーンがいつの間にか変調している。
一篇・二篇と「人」がメインであったものの、三篇では完全に「猫」がメイン。20年生きた猫が死を迎えるとき、諭すような態度と行動をみて、人が感じ取る何か。
私も実家では猫をかれこれ三匹飼いました。
死に方はそれぞれ違いましたが、うち一匹は死ぬ前の「おしらせ」を感じました。猫のみならずペットや動物は人間よりも先に死んでゆくことが大半でしょうが、ペットを亡くしたことが有る方には胸に響く短篇だと思います。
・・・
ということで久しぶりの沼田作品でした。
相変わらず人の汚らしい心を描くのが秀逸。狂気の描き方がすごい。
他方、最後の三篇目の人と猫とのやり取りが非常に印象的でした。そのギャップは凄いのですが、前半の気持ち悪さに耐えられるのならば三篇目目当てに是非読んで欲しい作品ですね。
Posted by ブクログ
小説でフィクションなのに、とてもリアルなお話でした。
行雄の一線を超えそうなギリギリなところを行ったり来たりする様子は嫌悪感や恐怖を感じさせました。
また、猫の段々と死に近づいていく様は悲しいはずなのに、自然の摂理だと言われるとその通りに感じ、悲しさよりもすごいなぁと感じる気持ちの方が大きかったです。
Posted by ブクログ
最初の猫を捨てる描写と
男の子と女の子の話は
気持ち悪くてつまんなかったけど
奥さんがなくなってからの
夫と猫だけの話はよかった。
猫ちゃんの最期を看取ることが出来て
夫もちゃんと死ねるんだと思う。
天国で奥さんと猫ちゃんと会えますように。