【感想・ネタバレ】三浦綾子 電子全集 母のレビュー

あらすじ

『蟹工船』の著者・小林多喜二の母・セツの波乱に富んだ生涯を描いた伝記小説。

秋田の貧しい家に生まれたセキは、農家の小林家に嫁ぐが、長男の死を機に北海道小樽に一家で渡り、パン屋を経営する。伯父の援助で進学した次男の多喜二は、卒業後、銀行に勤め、家計を支えるようになるが、反国家権力の小説により、何度か投獄され、そしてついには・・・。

プロレタリア文学で後生に名を残した『蟹工船』の著者・小林多喜二と、その母・セツの波乱に富んだ生涯を描いた伝記小説。

「三浦綾子電子全集」付録として、「母」を元にした舞台上演への寄稿文、夫・三浦光世氏による「創作秘話」、愛用のパーキンソン病患者用の椅子写真を収録!

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Posted by ブクログ

中学の時に一度読んだきりの「蟹工船」だが、強い印象に残っている。その作者、小林多喜二の母の語りが本書だ。実話を元にしたノンフィクションとのこと。

今の時代では考えられないような貧しさだが、母の心の清らかさと温かさには首を垂れるしかしない。誰から教えられることもなく、ここまで人を清らかに優しく、純粋にさせるものは何なのかと思う。当たり前のように心から子供たちがすることを信じて背中を押す姿もとても印象的だ。母を迎えた多喜二の父も同様だ。多喜二の優しさと清らかさ、賢さ、一途さも、こんな人は今まで知らない。小林多喜二とはこのような人だったのか。

貧しさ故に学校に行くこともできず、子供の頃から働き詰めで、その上子供を殺される経験までして、80過ぎまで生きてきた多喜二の母。戦後の日本には、このような方がたくさんいたのだろう。そのような方々の存在を胸に留めておきたいと、改めて感じた。

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2025年09月07日

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最初から最後まで泣き通しでした。

明治初頭の秋田の寒村でうまれ、13歳で結婚、小樽へ渡り病弱の夫を支え、6人の子供を育てたセキ。

セキの大きな愛情と、明るさ、そして子供を信じるという、親としては至極当たり前のようなことだけれど、自分の子育てを振り返り振り返りしては、その懐の深さと、優しさと強さに感動した。

私にとって、とても大切な作品になりました。

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2025年12月02日

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小林多喜二の母セキが作者に語る形で綴られる小林多喜二の人生と母の思い。幼い頃の思い出、遺体が戻ってきたときの怒り悲しみ、死後の絶望。セキさんの真っ直ぐな性格とあいまって、多喜二への思いがぐさりと刺さる。北海道に1人やっていた長男もなくしていたというセキさん、若くして子供を立て続けになくす悲しみが辛すぎて電車の中では読み進められなかった。
それにしても昔の女性はこんなにも真っ直ぐに子供を愛せていたのかと思うと羨ましくもある。セキさんの言葉に自分の時間がとか自分の人生が、とか自己犠牲を嘆く姿は全くない。子供が大きくなったらその家々を回って布団を繕ってやることを夢見る、そんな人生。もっとも、セキさんのように家族に恵まれず犠牲を強いられて辛い人生を送った女性が大半であろうからこの時代がよかったとも思わないが、子供を目の前にしたときの純粋な愛のようなものを、現代の私は随分拗らせてしまったのではないかと考えてしまった。

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2024年05月21日

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ネタバレ

小説「蟹工船」で有名な小林多喜二の母・セキが語る、小林多喜二および小林家の歴史。
この小説のすごいところは、セキの語り口調が自然な東北(秋田?)の方言で、まるで実際にセキからインタビューしたみたいに書かれていること。
あとがきによると、三浦綾子さんは夫の光世さんから「小林多喜二の母を題材に書いてほしい」と言われて、取材をしたり資料を集めて書いたのだそう。「きっとこんなふうに話すだろう」と、母としての立場とその心情を想像しながら、それを小説に落とし込んでいったってことだよね。すごすぎ。
三浦綾子はやっぱすごい。

近藤牧師が「神の恵みです」と言いながら泣いたとき、私も一緒に泣きました。そうなんだよ、キリストと一緒にいたいと思えるって、神の恵みなんだよね・・・。

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2023年01月29日

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ネタバレ

秋田弁で人好きのする語り手は小林多喜二の母、セキがモデル。終始話し言葉なのに飽きないで読んでいられる。自分が話を聞いているようで心が和んだ。言葉からぬくもりを感じ、このおかあさんになら何でも話してしまいそうだ。
百姓の貧乏な暮らしから抜け出せない負の連鎖が辛かった。世の中を良くしようと立ち上がる人がいなければ変わらない。
神も子を失っているという視点を初めて得た。殺された多喜二をイエスに、セキをマリアに重ね合わせるのは確かにそうなのかもしれないと思わされた。
なによりも、セキが遺した文章に心が動かされた。幼少期勉強をしている余裕がなかったから、あとから文字を学んだという拙さがあるからこそ、心情を吐露したこの文章に率直さが表れていると感じる。言葉ってなんて貴重なものだろうかと思う。
文字を読めないセキに話して聞かせる多喜二や、絵を見せて語る近藤牧師のような、分け隔てなく学びの場を設け共に進もうとする姿勢に感銘を受けた。一生を通して考え続けることは決して無駄じゃないと思う。

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2023年01月05日

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小林多喜二は名前を聞いたことがあった程度で、三浦綾子も初めて読んだ。
語り口調でかつ訛りも入ってるのに、すごく読みやすくてページをめくる手が止まらなかった。
母の子を思う気持ちが溢れていて、私も涙が止まらなかった。
小林多喜二についてもっと知っていきたいし、三浦綾子の作品もどんどん読んでいこうと思う

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2022年11月05日

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多喜二のすること信用しないで、誰のすること信用するべ

母さんはいい母さんだ。体はちんこいけど、心のでっかい母さんだ。

そんな会話ができる子育て、素晴らしい。学歴じゃない!

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2021年02月20日

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何気なく手に取って買った本でこんなに感動するなんて・・・。小林多喜二=プロレタリア文学=『蟹工船』と昔暗記したあの小林多喜二の母の物語だ。特高につかまり,拷問を受け,亡くなった多喜二。そんな知識で彼の印象を決めつけていた自分が恥ずかしくなった。三浦綾子さんは多喜二の母になりきって,独特の口調で語りかける。学はないが,寛容で息子の選ぶことはすべて善と信じ切る母。貧乏の中で育った多喜二は,貧乏な人を救うには世の中を変えなくてはいけないと考え,小説を書き続ける。若くして女郎に売られたタミちゃんに恋心を抱いた多喜二は彼女を救おうと自分の財をなげうつ。しかし,彼は彼女に指一本ふれようとしない。自立した学ぶ者同士が結びつこうと理想を語り,読んでいていらいらするほど,実直に生きる。いたわりあう二人があまりにいじらしく,いつしか「母」と同じ視点で彼ら2人を見守っている自分に気づく。彼の死はあまりにむごかった。母は牧師と出会い,息子の多喜二の死とキリストの死をだぶらせる。それでも命日が近づくたびに,哀しみが打ち寄せてくる。その哀しみは限りなく深い。
私はこの本を読んで多喜二が好きになった。タミちゃんという女性を好きになった。時代がもう少しずれていたら,彼ら二人はきっと結ばれていたにちがいない。
読み終わった後,もう一度多喜二が小さい頃書いた夢を読み返した。

「うちの母さんの手は,いつもひびがきれて痛そうです。着物も年がら年中,おんなじ着物を着ています。・・・ぼくは,ぼくのお母さんにも,よい着物を着せて,小樽の町中,人力車に乗せてやりたいです。これがぼくの夢です。」
こんな多喜二が好きになった。

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2019年01月05日

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読み終わって一言。しんどい。とにかくしんどい。
読んでいてこれ程までに胸を締め付けられるような小説がこれまであっただろうか? そう自問する。

読めば読む程、(殺されていい人なんていやしないのだけども)この人程、こんな死に方をしてはいけない人はいないだろうに、そう思って苦しくなる。
こんなに優しい人が、こんなに家族想いの人が、どうしてあんなに酷い死に方をしなければいけなかったのか。そればかりが頭の中でぐるぐると回った。
作中でお母さんも口にした疑問。小林多喜二はあんな目に遭わなければいけないような極悪人だったのか。そんなわけがない。元からそう思ってはいたが、この小説を読んでますますその思いが強くなった。
人一倍優しくて、誠実で、真面目な普通の人だ。

今ならば誰に咎められることもないような、当たり前のことを当たり前に言って、殺されるなんて。そんなことがあっていい筈がないのに。

ただただ悲しくて、それだけがぐるぐると胸の内に渦巻いているような、そんな感覚。
会ったこともない、それどころか私が生まれるずっと前に亡くなった小説家に、随分と惚れ込んだものだな、と自分でも不思議な気持ちになる。
知れば知る程、彼の小説を読めば読む程、彼が遺した作品は勿論のこと、彼自身もどんどん好きになっていくのだから本当に不思議なものだ。

それ程長くはないとはいえ、最初から終わりまでほぼ一気に読み切った。頁をめくる手を止められなかった。文字を追うのをやめられなかった。悲しい最期は知っているのに。

いつも以上に何もまとまらないけれどこれ以上書こうとしても悲しいとか辛いとかそんなことしか書けない気がするのでこのあたりでやめにしましょう。また読んだ時に、もう少し整理して何か書けたらいいと思う。
何度読んでも同じことになりそうではあるけども。

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2018年04月07日

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小林多喜二の母が語る、多喜二や家族のこと。母の言葉そのまま書かれているからこそぐっと距離が縮まり、子への気持ちが手に取るように伝わってくる。子を虐殺された母、どんなに辛かろう。母は子が全て。だから多喜二が何をしたとか、世の中がどうとか関係ない。なぜ小説を書いて殺されなければならなかったのか。この一言につきる。多喜二が殺されて、数十年たち母はクリスチャンとなり共産党へ入党する。が、母の軸はここでも多喜二。多喜二がいいと言っていたのだから間違いはないと道を行く。宗教思想政治すら凌駕する母の想い。強く大きな愛。

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2017年07月08日

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本屋さんでふと手に取った文庫本
三浦綾子だし、小林多喜二だし、読んでみようかなあと
よかったあ!
一気読み
三人称で綴られていたらここまでの感動はなかったと思う
学校へは行かれなかったけれど聡明でまっすぐで愛情深い母セキさんの秋田弁の語り口がなんとも切ない
丹念な取材と文献を調べた結果だろうが、やはりキリストと多喜二を重ねた作者はすごいと思う
手に取ってよかった一冊
友人に薦めたい

治安維持法と共謀罪法案と根っこが同じようで空恐ろしいのです

≪ ただ信じ 息子の理想 後たどる ≫

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2017年04月20日

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三浦綾子にはまっていたのは2009年。「氷点」&「続氷点」、「道ありき」を読んだ以来8年ぶりに彼女の著書を手に取ってみた。
小林多喜二の母であるセキが一人称の形で綴られている「母」。面白く読みやすく一気に読んでしまった。
「蟹工船」は買ったもののまだ読んでなかったな。マンガバージョンでなら何度か読んだけど。

戦中、言論統制、思想統制が強くなる中、信ずることを表明し広め社会を変えていこうとした多喜二。針を刺されながらも血を吐きながらも世の中が間違っている、これからは人間こう生きていかねばならないと唱え続けることができるその姿を、イエス・キリストと重ねて見た三浦綾子。

三浦綾子だからかけた小説だなぁと思う。彼女の本引き続きもう少し読み進めたい。

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2017年02月20日

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小林多喜二の母の一人語りの形で書いてある。学はないが、愛情はたっぷりある、そんな母の視点で多喜二を描くのは易しいことではなかったと思うが、第三者視点の小説では成し得ない生き生きとした、かつ生々しい多喜二を知ることができる傑作だと思う。これは三浦綾子だから書けた、三浦綾子にしか書けない小説。
召天されて久しいが、再び戦前のようなキナ臭い今の時代に生きていたら、何を書いただろうか。

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2016年08月28日

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警察に撲殺されようとも信ずる道を突き進む多喜二を、人の心を掴むのが長けている母親が語りべとして朴訥と語る。その飾り気のない静かな語りが、かえって当時の凄まじさが際立たてせている。この本を読んだすぐ後に多喜二生家後に行った。小樽築港駅の線路端の砂利場で当時の面影はない。

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2015年12月11日

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某所読書会課題図書:小林多喜二の母 セキが方言を交えて語る形で家族の様子を示しているが、戦前の北海道、東京の描写が素晴らしい.家族思いの多喜二のエピソードで弟の三吾にバイオリンを買ってやる場面が良かった.銀行勤めの多喜二はかなりの高給取りだったのだ.タミちゃんとの付き合いも彼の真面目さが現れており、好感が持てた.それにしても特高の捜査は今から見ると酷いものだが、当時の社会全体がそれを黙認した責任も問われなければならないと思っている.それに似た状況が発生しそうになった場合、敏感に察知する感覚を持っておきべきだと考えている.

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2025年06月16日

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小林多喜二の生涯、人間性を母からの目線で書かれている小説です。
同時に母の生涯も描かれています。
お母さんがインタビューを受けているように書かれていて、東北なまりのしゃべり言葉が温かみを感じます。

まず、お母さんの人柄が良すぎます!
明るくて、優しくて、働き者。
このお母さんにかかれば、どんな人もいい人になってしまうのではないかな〜。
周りを明るく優しく包みこんでくれる存在なんです。

多喜二もこの親にしてこの子というような、親思い、兄弟思いなんです。
初任給で音楽好きの弟のためにバイオリンを買ってきたエピソードには泣けました…。(のちに弟はバイオリン奏者に)
そして、本当に平等を目指しているのに感動しました。
それが偽善でなく、芯から一貫しているんですよね。
それがわかるのが、タミちゃんの借金の肩代わりをして、自由な身にしたあとのこと。
「ここですぐおれのお嫁さんになってくれといえば、おれの金で救い出されたタミちゃんは断るにも断れん」と言って、手を出さないんです。

共産主義というと、理想は高いけれどなかなか行動が伴わないことが多いように感じていました。
しかし、多喜二は本当に理想を実践していたんだと思いました。
そのまっすぐさが死に追いやってしまったんでしょうね。

多喜二が警察に捕まり死んだ後の話は、子どもがいる人は号泣してしまうかもしれません(注意!)
子どもを拷問で亡くした親の気持ちは私には到底理解できないでしょう。
寄り添うことも難しいかもしれません。
そのときに寄り添ってくれるのが宗教なのかもしれないなと思いました。
お母さんもキリスト教に救われたんだろうな~。

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2025年01月20日

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純粋に「なぜ多喜ニは殺されなければならなかったのか?」その一言に尽きる。
母親とは言え第三年者目線視点から小林多喜ニの人生が描かれている。
読み手側は本書を通じて、小林多喜ニの人生とその時代を客観的に捉えることができる。

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2024年08月04日

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ネタバレ

朗読会の作品として取り上げられていたため、読んでみたかった。
三浦綾子作品はほぼ読んだつもりだったが、知らなかった。
蟹工船の作者である小林多喜二の母セキの物語。
セキが自分語りをする中で浮かび上がる、貧しさと明るさ、清らかさ。
7人産み3人が亡くなる。そのうちの一人が次男である多喜二。多喜二が身請けしたタミちゃんのこと。

日本一の小説家でなくていいから、朝晩のごはん、冗談を言い蓄音機を聞きぐっすり眠る、そんな夢も叶わなかった

もちろん時代も違うけど幸せの基本はここにあると痛感する。多喜二が警察で拷問を受け亡くなったとき、
私は多喜二だけの母親ではない、と生き続けたこと。
産んだ子を失う、それだけで十分に辛い。それが3人、そして一人は拷問を受ける。それを忘れはしないが、キリスト教の教えと、子ども、周りの人に支えられ生きていく様子が目に浮かぶ。
作中、いくつか疑問に思うこともあったが、それ以上の
『母』。

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2023年09月20日

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多喜二の母がご自身、多喜二のことを語るのを三浦綾子さんを通して書かれている。明治期〜戦前の様子がよく分かる。人と人の繋がりも今よりも濃厚だったのだなぁ。悲しみの中に優しさが溢れている本でした。

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2022年05月24日

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多喜二のお母さんの方言の語り口、すこぶる良かった。美しい日本語ってこういうのなんじゃないだろうかと、思った。多喜二もすごいしお母さんもすごい。最後はちょっと泣いた

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2019年12月07日

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「シルバーミウラー」まで残すところこの一冊だったので読み始めたのだけど、この作品に限らず三浦綾子作品は読後感が気持ちいい。何か得られたような、希望が持てるような気がする。読むというより、おばあちゃんのお話を聞いている感じだった。

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2019年10月13日

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ネタバレ

仕事関係の方に勧められた本
小林多喜二の書いた本を一冊も読んだことがないけれど
警察の拷問で亡くなった方というのは知っていた
その方のお母様の言葉として書かれた小説
やはり、切なく悲しく愛に溢れて、しかし淡々と書かれていた

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2016年09月04日

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死因・心臓まひ。実は特高警察による過剰な暴行が原因で、小林多
喜二は築地署で命を落とした。

その多喜二の母が本書の主役である小林キセ。88歳のキセが自分の生い
立ちから息子・多喜二の死、その死後の生活を読み手に語る。

生まれは秋田県角館。貧農であった生家から嫁いだ先も、貧困にあえぐ
一家だった。

明治のこの時代、東北地方の貧しさは今とは比べものにならない。家族の
生活を支える為に娘たちは人買いの手に渡される。

そう、あの頃は普通にそんなことが行われていたんだよね。女性が学校に
行くことすら叶わなかった時代だ。

貧しいながらも温かい嫁ぎ先、優しく思いやりのある夫。そして子供たちに
囲まれた幸せな頃もあった。

それなのに、親思い・兄弟思いの優しい孝行息子は小説を書いたことが
原因で無残な死を迎える。

「そうそう、多喜二がよく言っていた話があったけ。
 昔々、仁徳天皇っていう情け深い天皇さんがいたんだと。お城の上から
眺めたら、かまどの煙が、細々と数えるほどしか上がっていなかったんだと。
それで天皇さんは、国民はみな貧乏だと可哀想に思って、税金ば取らん
ようになったんだと。したらば、何年か経って見たらば、どこの家からも
白い煙が盛んに立ち昇っていたんだと。天皇さんは大喜びで、国民が
豊かになったのは、わしが豊かになったのと同じことだって、喜んだ
んだと。
 この天皇さんと、多喜二の気持ちと、わだしにはおんなじ気持ちに思え
るどもね。天皇さんとおなんなじことを、多喜二も考えたっちゅうことにな
らんべか。ねえ、そういう理屈にならんべか。天皇さんば喜ばすことをして、
なんで多喜二は殺されてしまったんか、そこんところがわだしには、どうし
てもよくわかんない。学問のある人にはわかることだべか。」

小説を書いただけで殺される時代だった。しかも、死因さえも誤魔化され、
特高を恐れて司法解剖を引き受ける病院も医師もいない時代があった。
日本の暗黒の時代は、決して癒えることない哀しみを抱えた母を生み
出した。

セキは文盲であった。それでも獄に繋がれた多喜二に手紙を書きたくて、
ひらがなを覚えた。同じように文盲だった野口英世の母・シカが、息子に
金釘流で書いた手紙のことを思い出した。

貧しい家に生まれ、学校へも行けず、子守りで駄賃を稼ぎ、年端も行か
ないうちに嫁ぐ。

きっとセキの時代には多くあった女性の生き方だろう。ただ違ったのは、
セキの息子が小林多喜二だったことなのだろう。

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2017年08月17日

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ネタバレ

「蟹工船」の作者、小林多喜二の母、セキの話です。
この本を知ったきっかけは、「平台がおまちかね」という本。
私は蟹工船を読んだことがなく、「ああ、学校の授業で習ったなぁ」くらいにしか覚えてなかったのですが、「母」を書いたのが三浦綾子さん、ということで興味を持ちました。
昭和初期、というのはどうも、どの本を読んでも思うことだけど、嫌な、暗い時代だったんだなと思う。
言いたいことを自由に言えない時代。
正しいことを言うと捕まる時代ってなんなのだ。
もしタイムマシンでこの時代に行けたなら、日本をこんな国にした奴(誰だか知らんけど)のところへ行って、「バカ」と頭を叩いてやりたい。
小林多喜二がどういう人で、どういう亡くなり方をしたのか全く知らなかったので、これを読んでショックを受けました。
常に貧しい人のことを考えていて、日本を良くしようと思っていた多喜二が、まさかあんな死に方をしなければならなかったなんて、セキさんの辛さは計り知れない。
俄然、蟹工船を読みたくなった。

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2023年09月20日

購入済み

信仰とは何ぞやと自分に問いかけ

30年の信仰生活を振り返るにあたり三浦綾子さんの本を昔のように読みたいと探し当てた2冊目がこの母でした
子を思う母の気持ちが良く伝わって来ました
読んで良かったです
ありがとうございます

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2014年03月23日

Posted by ブクログ

母の深い愛情と家族の信頼関係が
えがかれた作品。
なぜ多喜二があのような人生の
終わりを向かえなければならなかったのか
考えさせられました。

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2025年02月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

小林セキという小林多喜二の母の話。義理の兄の借金などで、ひどい貧乏に暮らしてきたが、そんな義兄もパン屋で当たって、小樽で夫婦で手伝うことになった。パン屋には、人夫たちも多くやってきて、苦労話や身の上話を手拭いで涙を拭き拭き語っていく。そんな人の話を聞いてあげることはとても良いことなんだと感じたものだという。
多喜二は拷問の末に命を落とすが、本書が一定の明るさというか、ほのぼのしさが漂っているのは、小林一家が非常に明るい、貧乏だけど底なしに明るい一家だったからだろう。
貧乏で暮らしが苦しい描写がおおいものの、親と子と兄弟と親戚と、その夫婦と、お互いに気持ちの通いあった者同士がいたのが救いだった。

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2020年10月18日

Posted by ブクログ

小林多喜二の母の口から語られる、小林多喜二の生涯。母の深い愛情が、秋田の方言で発せられる語り口に溢れ出ている。

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2016年05月14日

Posted by ブクログ

なんとも温かい家族の物語。
小林多喜二。学校の授業などで、その名前くらいしか聞いた事が無かったが、此処まで芯の通ったかっこいい男だったとは本書を読んで初めて知った。
もっと、この人について知りたくなった。

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2016年01月17日

Posted by ブクログ

想像していたより面白く、惹き込まれました。
小林多喜二のことは授業で習った程度しか知りませんでしたが、
わかりやすい内容で、すとんと胸の中に入っていきます。

ただ、三浦綾子さんだから仕方がありませんが、
終盤はクリスチャンにこだわりすぎて、一気に感動が醒めてしまいました…

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2015年08月29日

Posted by ブクログ

小林多喜二とその母をモデルとした小説。

この本を読んだ時は確か10代半ばくらいだったと思います。
とても敏感な時期に読んだので、かなりの衝撃を受けたのを覚えています。

十数年経って母になった今、読み返してみたら
当時とは違った目線で読む事が出来るのだろうな。
実家から引っ張り出してこよう。

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2015年06月07日

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