【感想・ネタバレ】本と歩く人のレビュー

あらすじ

老書店員と少女が織りなす現代のメルヒェン

本を愛し、書物とともにあることが生きがいの孤独な老書店員が、利発でこましゃくれた九歳の少女と出会い、みずからの閉ざされた世界を破られ、現実世界との新たな接点を取り戻していく物語。
老舗の書店〈市壁門堂〉に勤めるカール・コルホフは、特定の顧客にそれぞれの嗜好を熟知したうえで毎晩徒歩で注文の本を届け、感謝されている。カールは顧客たちをひそかに本の世界の住人の名前(ミスター・ダーシー、エフィ・ブリースト、⾧靴下夫人、朗読者、ファウスト博士など)で呼び、自らの暮らす旧市街を本の世界に見立て、そこで自足している。
ある日突然、シャシャと名乗る女の子がカールの前に現れる。ひょんなことからカールの本の配達に同行するようになり、顧客たちの生活に立ち入り、カールと客との関係をかき乱していく……
歩いて本を配達するふたりの珍道中と、曲者揃いの客たちとの交流、そして思いがけない結末を迎えた後はほのぼのとした読後感に包まれる。読書と文学へのオマージュといえる、いわば現代のメルヒェンのような作品。
二〇二〇年の刊行後、ドイツで一年以上にわたりベストセラーの上位を占め、六十万部を記録した。現在、三十五か国で翻訳されている。

【目次】
第一章 独立の民
第二章 異邦人
第三章 赤と黒
第四章 大いなる遺産
第五章 言葉
第六章 未知への痕跡
第七章 夜の果てへの旅
謝辞/訳者あとがき

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Posted by ブクログ

老舗の小さな書店に勤め、店舗に留まっているのではなく、顧客の注文に応じて、本をリュックに詰め、徒歩で配達して歩く72歳の老人と9歳の女の子の物語です。

その顧客というのは、夫の暴力、自尊心、文盲の劣等感、修道院の戒律など、みんな何らかの理由から、家の中に閉じ込もっている人たちばかりなので、この顧客たちにとっては、配達される本と、その本を運んで来てくれる老人は、外の世界との接点となっていると同時に、顧客もどんな内容の本を届けてくれるのか楽しみにしています。

老人はこの仕事に誇りを持ち、街を歩いて顧客の手元に本を届けることを生き甲斐としているのですが、

ある日、ひょんなことから活発で賢い9歳の女の子に突然声をかけられ、初めは戸惑いますが、それからは本の配達にこの女の子が同行するようになります。72歳の老人と9歳の女の子が一緒に歩いて本の配達する姿を想像すると、なんともほのぼのした感じがします。

そのうち、老人が顧客に本を配達した後、この女の子も同じように顧客に別の本を手渡していたことを老人が知るのですが、その時の老人と女の子の会話です。

「で、きみはおじさんと張り合っていたというわけか」
「とんでもない。あたしは本を売るんじゃなくて、プレゼントしているんだもの。」
「お客さんたちが読むべき本を?」
「そうよ、あの人たちを幸せにしてくれる本をね。おじさんにはその気がなかったから、あたしは貯めてあったお小遣いを全部はたいたのよ。」

女の子は老人と一緒に顧客を訪れ、老人がそれまで接していた以上に顧客と交流する中で、自然と顧客たちの真の姿や好み、顧客にとって本当に必要と思われるものを感じ取っていたのだと思います。

老人のプライドは傷つきますが、本の配達を一緒に続ける中、顧客も女の子の訪問を歓迎するようになります。次第に老人は自分にとってこの女の子がとても重要な相棒であると認識するようになります。

しかし物語の終盤、女の子の父親からの苦情をきっかけに、老人は書店から解雇され仕事も失い、さらには女の子を心配する父親の誤解から、老人は身体に怪我を負わされてしまいます。

すっかり生き甲斐を失い、生命の危機にも瀕した老人ですが、賢いこの女の子の活躍もあって、顧客のみんなに愛されていたことが再認識され、みんなの力で再び本の配達に復帰していく姿は、感動ものでした。

本を愛してやまない老人が女の子と本を配達している中で言った言葉があります。

「表紙と表紙の間にある思想の中には(中略)、癒しが込められていることのほうがはるかに多かった。そればかりか読者が罹っていることに気づいてもいなかった病まで癒してくれることもときにはあった。」

そしてこの本の最初のページには、

「すべての本屋さんへ
困難な時にあってもみなさんはわれわれに心の糧を与えてくれる。」

と書いてあります。

さらにこの本の目次の前のページには、

「小説とは読者の魂をかき鳴らすヴァイオリンの弓のようなものである。」

というスタンダールの言葉があります。

まさにこの作品は「本へのオマージュ」と言っても過言ではないと思います。

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2025年11月24日

Posted by ブクログ

古本屋に勤めるカールは毎日注文された本を配りながら歩く。ある日から9歳の女の子シュシュも一緒に歩くようになる。

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2025年11月04日

Posted by ブクログ

ミニマリストとか、断捨離とか、持ち物を厳選し身軽にするとこは良いことだと思うけど、いつの間にか、関わることさへもそうなってしまったような…

シャシャという女の子が出てくるのですが、子供だし、みたいな感じで、グイグイ踏み込んでいっても物語に違和感がないんです(^^)
最後は、私まで抱きしめてもらったような気分になれて。

日々の生活に疲れている、大切な人さえも断捨離していまいそうな人に読んでもらいたいと思いました。

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2025年09月12日

Posted by ブクログ

原題「Der Buchspaziener」は作中登場人物の造語であり、主人公カールのことでもある。邦題も迷ったそうだ。カールは、基本的には本を配達する人物であり、直訳するなら本の配達人だが、敢えて“本と歩く”と形容したのは、カールの本に対する愛着を込めている。

 老舗の書店市壁門堂に勤めるカール・コルホフは、特定の顧客にそれぞれの嗜好を熟知したうえで、毎晩徒歩で注文の本を届け、感謝されている。カールは顧客たちをひそかに本の世界の住人の名前(ミスター・ダーシー、エフィ・ブリースト、⾧靴下夫人、朗読者、ファウスト博士など→さあ、本のタイトルは何でしょう?)で呼び、自らの暮らす旧市街を本の世界に見立てている。ある日突然、シャシャと名乗る女の子がカールの前に現れ、ひょんなことからカールの本の配達に同行するようになる。好奇心旺盛な彼女は、顧客たちの生活に立ち入り、カールと客との関係をかき乱していく。

  ​1823年ハイネが「書物を焼くものは、早晩、人間を焼くようになる」と、記したように、ドイツでは禁書としてユダヤ人作者の書籍が燃やされた。しかし現在では、焼かずとも紙媒体の本をなくす方法はある。電子化である。現代社会においては、本書自体が、ひと昔前の話である。そもそも紙媒体の本の配達は、実物を見ずして発注ができる、インターネット販売に適している。カールのような経験豊かな書店員はむしろ店にいてもらい、配達には書店の人材を割かずとも好い。敢えて本書では配達に人を割くことで、配達員本人の生活に変化が起き、書物を受け取る人たちにも同様の変化が起きる。直接会い、会話を交わすことで起こる変化を肯定的に捉えている内容だ。もちろん実際に出会うことで、手痛い思いをすることも、感情の行き違いもある。それでも世界を閉ざさず生きれば、カールとシャシャのように、年齢を越えた友情を築くこともできる。

2020年に刊行されベストセラーになり映画化。

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2025年08月09日

Posted by ブクログ

長年「市壁門書店」で働いていた老書店員カール・コルホフは、顧客に頼まれた本をリュックに入れ、歩いて配達している。
カールは顧客の本名を覚える代わりに、好きな小説の登場人物の名前を当てはめて記憶していた。
本の配達に向かっている途中、シャシャと名乗る女の子がカールの前に突然現れ、本の配達に同行したいと伝える。
カールの顧客の多くは自分の人生に問題を抱え、そこから抜け出す術を見いだせない環境にいた。
カールが勧める本は顧客を幸せにすることは出来ないと、シャシャは説教じみたことを言う。
そしてシャシャは自らの小遣いを使って古本屋で安価な本を選び、勝手に顧客にプレゼンをしてしまう。
シャシャ効果はてきめんで、驚くことに彼らの変化のなかった日常を攪乱しながらも、生活環境に変化が現れる。
そしてカールも、これまで読んだ本の世界に囚われていた世界観に変化をもたらすことになる。
知り合った頃はこまっしゃくれた生意気な小娘と思っていたカールだったが、ある日からシャシャは姿を消してしまう。
ただ一人の大切な友と気付いたカールは、必死になってシャシャを探すのだが⋯

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2025年07月30日

Posted by ブクログ

読んでてほっとする話というか、すごく優しい内容で、大切に丁寧に読み進めたくなる本でした!

まだ自分は誰かを想って本を選んだり、プレゼントしたりする経験はした事ないけど、いつか周りの大切な人達に本を選んでプレゼントしてみたいな〜!って凄く思いました

まだまだ読みたい本は沢山!
読書欲も刺激されたところで、また次に読む本を探しに行きます。笑

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2025年07月05日

Posted by ブクログ

本を届ける老人が、少女と出会い人生や本との向き合い方を再確認する物語。静かでハートフルな展開で、時折挿入される本の哲学、本の価値といった描写がとても印象に残ります。読書や本が好きな方におすすめしたい素敵な海外文学。

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2025年06月22日

Posted by ブクログ

歩いて本を配達する老いた書店員
そこに現れた少女シュシュ
彼女は利発で好奇心旺盛で本が好き
老人は迷惑がるが少女は気にしない
何回か一緒に配達するうちに
一筋縄ではない顧客にうちとけていく

しかしシュシュの父親の暴力で
老いた書店員は傷ついてしまう
おまけに書店を解雇されてしまい
絶望の中シュシュと父親 個性豊かな顧客が駆けつけ
新しい希望を見つけて再び本を配達するシュシュと一緒に

ちょっとメルヘンかな
でも顧客の生活は現代の社会を反映した有様で考えさせられる

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2025年11月07日

Posted by ブクログ

老書店員カールの世界は、6色の色鉛筆で穏やかに描かれていた。
しかし出会った少女シャシャの豊富なアイデアで、カールの6色の色鉛筆の世界は、12色になり、24色になり、時には色を失ったり、色鉛筆が折れてしまったりするけれど…シャシャとの出会いで数え切れない程の色鉛筆がカールの世界を描くような、そんなお話しでした。素敵なフレーズに何度も心奪われました。その中の1つがコチラです。「どんな本の中にも誰かが読んでくれると脈を打ち始める心臓がある。読む人と心を通わせるからだ。」

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2025年09月25日

Posted by ブクログ

映画化されているようだけど、本を読んでると映画みたいな映像、空気感が伝わってくる本だった。

正直、シュシュは苦手だけど映像化を見たら好きになれるかもしれない。

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2025年08月14日

Posted by ブクログ

カールとシャシャのほのかであって熱ーい物語。
最後にカールが彼女の名前を決めたときこちらが熱ーくなった。

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2025年07月17日

Posted by ブクログ

やさしい空気が流れるお話だが、非常に遠慮がちに現代社会の病や闇を幾重にも指摘している。果たして私がどの程度気が付けたか。ドイツっぽい作風で、エンデの『モモ』を思い出した。私はそんなにドイツの作品を読んでいないし、『モモ』にいたっては大昔にネットであらすじを確認したことがあるだけだけど(笑)。
ラストは子供の絵本のような終わり方で心がほっこりした。

私の勘どおり、筆者はドイツ人。この作品はドイツでベストセラーとなり映画化されたらしい。和訳は本作品が初めて。

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2025年06月21日

Posted by ブクログ

現代の本だなあという感じと、ドイツ文学の流れというのか匂いを感じる作品だった。なんだろうなー、エンデ作品とか飛ぶ教室とか思い出す。ドイツというのは子供時代にとっての読書に厚い国な気がする。
どうなるのか気になって一気に読んだ。作者の本好きの気持ちが盛り込まれた所々の一節一節に共感して楽しめた。

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2025年10月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

歳を重ねてくると、これまで培ってきた生活環境や慣習、信念や考えに対して、変化は受け入れ難いもの
確固たる自分に、あからさまなNOは完全拒絶できるも、小さなさざ波のように繰り返し訪れたら、人は変わるだろうか
カールだけではなく父親や他の登場人物に対しても、思うことがあるが、平穏だった生活から一変、大切なものが一切なくってしまったカールの絶望には、本当に苦しくて胸が痛い

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2025年08月04日

Posted by ブクログ

タイトルの意味は、注文のあった本を歩いて配達している老書店員のこと。彼が訪ねる顧客とのやりとりをメインにした本好きにはたまらない物語だ。途中から彼について回る早熟な少女とのやりとりが楽しい。
古い時代の話かと思いきや、これは現代の話なのだ。ドイツでも本を読む人は減り、書店は苦境に立たされているようだ。だが彼のやり方はなんの解決策にもなっておらず、店主からは白眼視されている。
主要な登場人物たちがそれぞれ抱える苦難があり、多少の息苦しさは感じるものの、物語全体を通しての印象は良好だった。

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2025年06月20日

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