あらすじ
取材のために訪れた向島は玉の井の私娼窟で小説家大江匡はお雪という女に出会い、やがて足繁く通うようになる。物語はこうしてぼく東陋巷を舞台につゆ明けから秋の彼岸までの季節の移り変りとともに美しくも、哀しく展開してゆく。昭和十二年、荷風(一八七九‐一九五九)五十八歳の作。木村荘八の挿絵が興趣をそえる。 (解説 竹盛天雄)
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Posted by ブクログ
取材の為に訪れた私娼窟で小説家の大江匡はお雪という女に出会い、やがて足繁く通うようになる。
新潮文庫で最初に読んで、ちょっと分かりにくい感じだったので、すぐに岩波文庫で再読。雰囲気がなんとなく良い感じで好み。当時の東京の様子やちょっとした皮肉のような感じも良いな。また読みたくなるような本でした。
Posted by ブクログ
向島を舞台にした小説の中で、向島を舞台にしようと取材している老小説家が、やはり若い女性と交流する筋の小説を書いているという、作中作のような構造を持っている。というより、登場するあらゆる人物はやはり作者荷風自身の像なのであって、正直なところ小説というより、随筆に近いといっていいのではないかと思う。「小説」とする必要性はよくわからないようにも思ったが、それはともかくとして、品格があってすらすらと余裕のある文体は、やはり当時の一流の作家の力量のなせるものだと感じた。恥ずかしいことに荷風先生の作品は他に読んでいないが、おそらく、私が内田百けん先生に対して抱いている感想と同様、この方に関しては小説よりも随筆を得意としているのではないかと感じた。
また、物語の筋などより、舞台とする場所の選択やその描写にこそ力を入れることによって、劇的な展開に匹敵する感興を読者に起こさせることのできるという、荷風の理論も面白く感じた(理解が間違っているのかもしれないが)。