【感想・ネタバレ】好日日記―季節のように生きる―(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

私達はたくさんの「季節」の中で生きている。茶道に息づく二十四節気――梅の香り漂い始める「立春」、花吹雪が舞う「清明」、薫風吹き抜ける「立夏」、蟬の声が響く「大暑」、彼岸花が咲く「秋分」、鰯雲の浮かぶ「寒露」、木の葉が色鮮やかに染まる「立冬」、寒空に月が光る「大雪」、そしてまた季節はめぐり……。春夏秋冬の区分では見逃してしまう一瞬の美しさを綴った一年の記録。待望の『日日是好日』続編。(解説・小林聡美)

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Posted by ブクログ

森下典子『好日日記 季節のように生きる』新潮文庫。

『日日是好日』の続編。

その昔、森下典子さんは『週刊朝日』のコラム『デキゴトロジー』の執筆者の1人として活躍し、後に『典奴どすえ』というタイトルで京都での舞妓さん潜入取材記録を執筆した方である。『デキゴトロジー』は新潮文庫からシリーズで刊行され、全て読んでいる。勿論『典奴どすえ』も読んでいるが、テレビドラマにもなり、それも観た記憶がある。もう30年以上も昔の話だ。

あれから幾年月が過ぎ、森下典子さんが『日日是好日』という素晴らしいエッセイを書いていたことには心底驚いた。『デキゴトロジー』の頃は素人同然の文筆家が、これ程の成長を遂げるとは誰が予想したろう。

ページを捲ることが、まるで次々と四季を捲るような錯覚に陥る不思議な体験であった。何時の間にか静かな森の中で風や野鳥の声を聴いているかのような落ち着いた気持ちになっていくのだ。

日本人が忘れ掛けていた四季折々を茶道に息づく二十四節気に従って、茶道に於ける筆者自身の成長と移りゆく四季の風景や風物、自然の息遣い、匂いなどを描いた素晴らしいエッセイである。茶道の道具や菓子を描いたカラーイラストも良いアクセントになっている。

季節に応じた茶の楽しみ方、季節によって変わる菓子や道具、様々な自然を見事に表現する言葉の豊富さは日本人ならではであろう。

二十四節気は1月の『立春』から始まる。

読み進めると『春分』の章で紹介される『柳緑花紅』という言葉に目が止まった。『やなぎはみどり、はなはくれない』と読み、柳は緑のままで、紅にはならないし、花が緑になることもないという何でもない意味なのだが、変われないものを、変えようとしなくていいという深い意味を秘めているのだ。

昔、サーフィンの神様と呼ばれるジェリー・ロペスが語った『Flow is it.』という言葉がある。流れに身をまかせろ、成すがままにという意味である。サーフィンを経験したことのある人なら解ると思うのだが、大きな波を背にした時に身体の力を抜き成すがままに身をまかせることは極めて難しい。

ジェリー・ロペスがバンザイ・パイプラインで波のチューブをくぐり抜ける映像を観ると肩の力の抜けた極めて自然体で波と一体化していることに驚かされる。

我々が辿り着くべき人生の境地とはきっと『柳緑花紅』や『Flow is it.』ということなのだろう。長い人生、あがらえば、あがらうだけ傷を大きくし、得るものなど一つもないのだ。

還暦を過ぎて兎に角一年が過ぎるのを速く感じる。異常気象のためか四季を感じる間もなく、今年も過ぎようとしているようだ。冬が終わったかと思ったら短い春を楽しむ間もなく暑い夏が来た。この暑さが延々続くのかと思っていたら秋を通り越して、いきなりの冬。今年は春に筍やタラの芽、コシアブラを味わったものの、秋のきのこは全く口に出来なかった。それでも桃と梨、柿やりんごはイヤになるほど楽しんだので良しとしよう。

本体価格1,000円
★★★★★

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2025年12月05日

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