あらすじ
恋人をフロリダに残し、ブルックリンへと逃亡したマイルズ。彼を待っていたのは、一軒の廃屋と将来への不安を抱えた三人の仲間だった。気のいいドラマーのビング、画家志望のエレン、博士論文執筆中のアリス。景気が後退の一途を辿る中、不確かな未来へ踏み出そうとした彼らに突き付けられた無慈悲で甘くない現実とは……。失うものの方が多い世界で、まだ見ぬ明日を願った若者たちの物語。(解説・松村美里)
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Posted by ブクログ
期待に違わぬ素晴らしい作品でした。リーマンショック後の先の見えない時代を背景に、心が損なわれた主人公と取り巻く人達が、傷ついた心や厳しい生活を抱えながらも互いをいたわりながら日々を懸命に生きていく様は、強い共感を覚え心が癒されます。
Posted by ブクログ
リーマンショック後の冷え込んだ景気のアメリカで、4人の若者がサンセットパークの廃屋に不法滞在してシェアハウスする物語。
金融危機で起こった不景気による先行きの見えない不安と未来に対する絶望感は今の日本の感覚とも通じるものがあり、解説でも語られている通りの「いま・ここ」にしかない切迫感が凄まじい。それは立ち退き期限の迫った廃屋の不法滞在という腰の座らなさがそのまま若者たちの「寄る辺なさ」へと繋がっており、夢や目標のために節約しているというより本当に行き場がなくて迷い込んだような感じなのがたまらなく切ない。群像劇視点ながら主人公含む4人ではなく、主人公マイルスの父親であるモリス・ヘラーの視点も混じっているのがこの手の青春群像にしては珍しく、社会的には成功していながらも、息子の失踪によって負った傷や妻との不和が描かれており、その孤独感と喪失感に年齢は関係ないことが伝わってくる。個人的に自身の年齢もあってか刺さったのは父親視点のページであり、息子を心配する立派な父親であると同時に、死の匂いを振り払えない一人の人間としての孤独が痛烈に胸に刺さった。
それぞれの視点で描かれてるのは高学歴の貧困であったり、性的に満たされていない行き詰まった芸術家であったり、自身のセクシャリティに悩みつつもパンクな反抗心を捨てられない青い若者であったりと、どの視点も内省的であり物語はあるようでない印象である。そう劇的なことは起こらないのが逆にリアリティがあり、オースターらしいと思うと同時に幕切れは悲劇的で、突然の立ち退き勧告から積み上げたものが壊れるものは儚くも一瞬であり、若い恋人ピラールや父や母との再会で持ち直したかに見えたマイルスが、警官へのパンチ一発で文字通り全てを失ってしまうラストは衝撃的でありながらも、小説全体を通して伝わってくる喪失感に一貫性はあったように思う。
Posted by ブクログ
リーマンショック後のアメリカを舞台に、野球、映画、家族(と家族の死)などオースターが一貫して書いてきたテーマに加えてちょっとセックスの要素が多く他の作品ほど感情移入はできなかったけれどもサンセット・パークの住人4人のそれぞれの視点から構成される各章は面白かったです。
The Best Year of My Life(オフコースじゃない方)観てみたいな。