あらすじ
『線は、僕を描く』の著者が描く、「水害」と「消防」その闘いと涙。
魚鷹が見守る町で、秋月龍朗は最高の消防士だった。五年前のあの日、濁流が町と彼の心に、癒えない傷跡を刻むまでは。現場を追われ、辿り着いた指令室。そこは、同じ痛みを抱える仲間たちと、声だけで命を繋ぐ場所。炎の中から命を救ってきたその手で、男は今、受話器を握る。
町と、そして自分自身の再生をかけた静かな闘いが、いま始まる。
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Posted by ブクログ
消防士の物語。現場で消火・救助を行う消防士のことも、現場には立たないが影で支える指令室のことも知ることができた。
絶対読むべきだ、と思ったけれど大当たりだった!
5年前に豪雨による水害に見舞われた町のベテランの消防士・秋月が新しく配置されたのは、119の電話をとる指令室の仕事だ。近年話題になっている、迷惑な119通報のことだけでなく、指令室がどのようなことをしているかもわかる。小説ならではの読書経験ができた。
秋月は水害のときも最前線で救助活動をしていたが、水がトラウマになっている。そのトラウマや過去とどう向き合っていくか、そんなお話だった。
つらい水害の記憶がいまだに町に残っている中で、生きること、助けること、そして助けられること。
周りにいる人たちが、過去の傷を抱えながらも相手を思いやる。人と人との繋がりが、最後に活きてきて泣けた。
誰もかれも、ひとりで生きていけるわけはない。そういうことを教えてくれる作品だった。
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主人公の秋月さんが現場の消防士から指令室への移動から物語が始まり、みるみる引き込まれてしまいました。
登場人物みんなが魅力的。すごくお馬鹿っぽいところや利己的にさえみえるところも、緊迫した現場との緩急に必要で知れば知るほど応援したくなりました。
がむしゃらな救助活動がいいわけではなく、どの場面でも救助者の、仲間たちの、そして自分の命の天秤に悩まされて、その悩む時間さえ与えられない過酷な状況に辛く苦しくもなりました。それでも消防士としての矜持を胸に日々戦っていることに感謝しかありません。
ラストの語りかけるところ。誰かが誰かによって進んでいける。強くもなれる。繋がりによって生かされてる。生きていける。涙でした。
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命をかけて人を救ってくれる消防士も、もちろん人なわけで。
葛藤とか苦しみとかいろいろなものがあることが改めて分かった作品だった。
最後の方の奥さんの思いが泣ける!
感謝しかないなと思った。
Posted by ブクログ
『いま日本人に必要な防災小説』
5年前の水害の爪痕が色濃く残る町。山や川、野鳥や祭りの描写から、被災前は日本中どこにでもある自然豊かな田舎町であったことが窺える。そんな悲しい過去を乗り越え、それぞれの立場から、それぞれの方法で町を復興させようと、もがき苦しむ人々の様子を描く「町の再生」の物語だ。
本書の主人公は消防士の秋月龍朗。水害のトラウマを抱えながらも、多くの人を救ってきた町のヒーローである。そんな彼が現場を離れ、指令室と呼ばれる“119番通報の電話番”へ異動してきたところから物語は始まる。当然のことながら、消防士にも色んな役割がある。現場の消火活動も、指令室の電話番も立派な消防士の仕事だ。当初は指令室の業務に困惑していた龍朗だが、消防署の頭脳としてプライドを持って働く仲間たちとの奮闘が本書の読みどころである。
消防士という仕事。あなたは「二度と帰れないかもしれない」と思いながら出勤したことはあるだろうか。身を挺して命と対峙する消防士には本当に頭が下がる。そんな確固たる信念を持って、私は仕事に取り組めていない。助けられなかった命。忘れられない現場。言葉で表現できない痛みややるせなさを抱えながら、今日も町の平和を守る消防士という仕事をリスペクトする。本書はそれに気づかせてくれた。
もの悲しさの中にも温かみがある独特の文体。砥上さんは、痛みを感じるのに優しくなれる物語を描く唯一無二の作家だと思う。作中にも出てくるが、文化伝統を守るか、防災工事を進めるか。その選択の正解は、被災したあとにしか気付けない訳ではない。命は天秤にかけられない。防災を後回しにした結果、みんな過去の闇に苦しみ、残された方も辛いのだ。防災意識を高めるためにも、いま日本人にとって必要な小説であると思う。
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消防士と言って思い浮かぶイメージは、、、
多くの人が現場で火災に立ち向かう姿、人命救助をする姿を思い浮かべるのではないだろうか
もちろん、それは立派な消防士です
だけど、それだけが消防士ではありません
想像してください
もしあなたが119番通報をしたとすると、どこに繋がりますか?
消防隊員のスマホに繋がりますか?
んなわけないですよね
繋がるのは司令室
市民からの通報の電話を取り、聴取し、車両を出動させる部署です
今、「なーんだ電話をとるだけの場所か…」って思った人がいたら手をあげてください
先生怒らないから素直に手をあげてください
先生怒らないけど、一言だけ言わせて!
そー思ったあなたは「ばか!」
もう一言だけ言わせて!
「ばか!ばか!ばか!」
緊迫した状況の中、この指令室の判断ひとつで状況は大きく変わっていくんですよ
たった一本の電話と、磨かれた応答、明晰な頭脳が多くの人の命を繋いでいく
1秒、2秒と残酷に過ぎていく時間の中で、可能性を言葉で押し広げていく
この司令室こそまさに現場の最前線なのです
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砥上さんの新作、とても楽しみにしていた。いつも落ち着いた文体の中に、静かに強い思いが込められている。今回も過去の出来事に対する自身の苦悩や葛藤する思いが、司令補の一つひとつの行動や選択として丁寧に描かれている。今この瞬間の幸せが続くようにと祈りが伝わってくる。様々な人の願いが今に繋がっていて、当たり前の日常を送れることの感謝を実感した。
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5冊目の砥上裕將さん。今までの水墨画を題材にした『線は、僕を描く』『一線の湖』、視能訓練士の野宮くんを主人公とした『7.5グラムの奇跡』『11ミリのふたつの星』とは打って変わって、今作は「消防士」さんのお話でした。
5年前に未曾有の大水害に見舞われ、いまだに町のあちこちにその爪痕が残されている瑞乃町で、キャリア20年を超える消防士の秋月龍朗はこの春、現場を引退し司令室勤務となった。
司令室と言うのは、119番に電話した時につながる場所で、電話を取り聞き取りをし、消防車や救急車などの出動要請をかける、実際に現場へ赴くことはないけれど、消防活動の中枢を担う重要な部署です。
秋月龍朗は士長の立石順平、女性隊員の三田夢菜、かつて同じ隊にいた樋口祐樹の3人とともに初めての司令室での勤務に奮闘し、自身の抱えるトラウマとも対峙していきます。
砥上さんの繊細で精緻な筆致で描かれる、とてもリアルで臨場感のある描写と、司令室の個性豊かな面々がとても素敵でした。消防士という仕事に対して、自分の命をかけ真摯に向き合う姿には、本当に頭が下がります。
最後、ちょっと盛り込みすぎな感じがしてしまったんですが、それでも今までの砥上さんの作品の中で一番好きでした。こちらもシリーズになるのかしら?続編期待したいです。
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火災に水害。大変な仕事と思っていたが、これほどとは。現場だけでなく、出動までに、これほどの手順が。「待つことが仕事そのもの。有事に備え準備することそのものが仕事。未知の可能性に対する一手は準備でしか作れない」頭が下がる。「考えないこと。正解を探さないこと。歩き続けること。それが生きる方法だった」でも、人はどうしても、振り返ってしまう。パラパラ漫画のような水墨画も楽しい。
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消防士カッコイイ!!!!と、何度も心のなかで叫びました。臨場感あふれる小説の、登場人物たちの救命の場面を読んで、今一度きちんと心肺蘇生法を覚えようと誓いました。あ〜消防士カッコイイ!!!
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読み終わりスーパーヒーローの登場、その名は消防士秋月龍朗、そして現場での活躍が終わり指令室勤務に変わってしまい、またそこでの苦労が痛々しく感じまた現場に戻りたいと思いつつ指令室での奮闘に清々しく感じました。過去の水害での痛々し話や命の尊さを感じる体験など読んでいて感動しっぱなしでした。消防士のことを深く考えさせられるほどの感動作でした。あなたも読んで消防士のすごさを感じて下さい。
Posted by ブクログ
河口の町の消防署で最高の消防士と呼ばれる秋月。五年前に町を襲った水害が彼の心に癒えない傷を与えた。今も残る水に対する恐怖と闘いながら、現場を離れ指令室の勤務に就いた秋月は戸惑いを隠せないでいたが…。
PTSDを抱えた消防士と、災害禍から復興しきれない町、その再生への小さな光を描く作品。
NHKの「エマージェンシーコール」が好きでよく見ているからか、指令室の仕事がいかに咄嗟の判断力を要し、大変な任務かは理解している。だからこそ、物語の中で同じ消防署の隊員たちが彼らを軽んじている様子がもどかしい。
火の中に飛び込んでいくマッチョさはないけれど、119番コールがない日を「町はただ平和で、誰も不幸にならなかった」と幸福を感じるその心持ちは十分に尊い。
物語的には、秋月の内面をかなり詩的に、情緒的に描きすぎていて読みづらかった。火災現場でのの一刻を争う場面での詳細な心情描写が邪魔で、こんなこと考えていられるのか?という思いも。
そういう意味での親和性がなかったように思う。
まあ、再生物語だからそこが描きたかったんだろうし、それがあったからこそラストでの感動もあるんだろうけれど。
ちょっと私にはハマりませんでした。