あらすじ
古人が遺した技術を調査に赴く文明の守り手。
レストランから逃亡し革命に身を投じるファブリカント。
施設から脱出を模索する老編集者。殺し屋に追われながら取材を続ける女性ジャーナリスト。
究極の旋律を探る若き音楽家。交易船の上で次第に衰弱してく公証人。
強者が弱者を貪る世界の果てには何が見えるのか。
雲が空を横切るように、魂は時代を横切る。人間と世界の歴史を映しだし、クラウド・アトラス(雲の世界地図)はついにその円環を閉じる。21世紀世界文学の金字塔たる六重構造の物語がついにその全貌をあらわす。
時代も場所も形式も異なる6つのお話。19世紀の若きアメリカ人公証人が書く航海日誌、第一次世界大戦後のベルギーからイギリス人作曲家が親しい友に宛てて書く手紙、1970年代のアメリカで一人の女性ジャーナリストが追うスキャンダル、現代イギリスの老編集者が綴る回顧録、近未来のアジアで交わされるファブリカントと記録官の対話、口伝される遠い未来のハワイの物語。過去から未来に進み、未来から過去に戻っていくという、入れ子のような順序で綴られたこの作品は、上下巻で非常に長い上に、どのお話にも身体のどこかに彗星のあざを持つ人が現れたり、少しずつリンクしていたり、文体が全く異なっていたりと非常に複雑ですが、読み終えた後にもう一度読み返したらまた違う発見がありそうで、気に入ったお話だけを読み返してみたくなるような「読書の楽しみ」を感じさせてくれます。ちなみに、もし「読みにくいな」と感じたら、映画で観てから読んでみるのもオススメです。
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Posted by ブクログ
借りたもの。
上巻とは対照的な章立て。時間軸は遠未来から過去へと向かう。
登場人物たちは己の物語の中でふと其々の作品に関わるシーンを思い出し、それを布石に過去に遡るような時間軸の章立てだ。
しかし、各々の物語の中で時にそれは覆される。
過去と未来の時間軸を超越する様は、世界を、歴史を俯瞰で捉えている。
弱肉強食、社会の体制と革命――
人間は生きるために文明を築いたようだが、時に文明によって虐げられる。それに対し否と叫び生きるために闘う人間……
未だ解決できない人間の原罪と苦悩を投げかける。
『ユリシーズ』を思わせる文書は同時に、人間のコミュニケーションの多様性を強く意識させた。
それは触れ合う描写にも言及されているのではないだろうか。
多くの切り口のある、読みごたえある小説だった。
Posted by ブクログ
下巻は解決編になっており、未来から過去へ、6話が語られる。先の時代で搾取され、虐げられたきた者の声が、次の時代にどう反響していくのかが明かされる。生まれ変わり、輪廻というのも本書のテーマの一つではあるようだが、基本的には救いのない話でもあり、「彗星の形の痣」を引き継ぐ者は各話ごとに変わる(虐げられる立場の者は毎回、かわる)。
Posted by ブクログ
普通こういうタイプの作品は、
重厚かつ難解で、ズドーンと来て、
深い深い余韻に浸る、てな感じになってくもんだが、
そうじゃないところが素晴らしい。
結構楽しく読めて、好きな作品でした。
幕の内弁当や松花堂弁当的お得感もあるし。
ちょっと違うか。
映画は興味ないなぁ。
Posted by ブクログ
文体を変えながら紡ぐ6つの物語。SFだったりサスペンスだったりミステリーだったり日誌ものだったり。各々の物語は緩く繋がっているものの、相関や伏線はほぼなく、そもそもの個々の物語自体はいったい何の話なのか見失いがちになってしまい、あまり楽しめなかった。機会があれば映画版を観てみたいと思う。
Posted by ブクログ
上巻とは逆に未来から過去へと辿ることで、人類の愚かさと滅びへの必然性を描きつつも、そして過去を描いた最後の章では逆に希望が語られる。
時代を超えた6つの物語がどう交錯するのか楽しみにしていたが、連関のつなぎ目が見える程度であり、カタルシス的な面白さは味わえず。まぁこれはこれで好いか。
大長編だが最後まで放棄しない程度の面白さ、というのが正直な感想。
Posted by ブクログ
時代も舞台もジャンルもスタイルさえも違う6つの物語がシステマティックに練り上げられた小説。映画にもなるくらいなので、こういう構造がかちっとした小説には珍しく、それぞれの話が派手めでドラマティックだったりする。
冒険風味のサイケな航海日誌から、貧乏を脱出するために有名音楽家の屋敷でエロティカルに立ち振る舞う音楽青年の話、スパイ的陰謀渦巻くサスペンス風味満載の脱原発的社会派ドラマ、借金取りから逃げるためにドタバタと逃げ回るおじさんのスラップスティックコメディ、クローンが精神的に上昇して革命家のイケメンといい感じになりながら世の中を変えようとするSF、んで、未来のその先を舞台としたやるかやられるかの殺戮物語。
6つとも前半は始まりの予感みたいなのが散りばめられつつも中々話が進まなかったり分断されたりするんだけど、後半ある時点を境にして一気に滑り落ちるように展開する。それはもうついていけないくらい早く。
てか、ジャンルも舞台装置も全然違う上に、日記やら手紙やら小説やら映画やらあれっぽい丸やらと媒体も違って、もちろん文体も違いつつ、それぞれがマトリョーシカ的に関連してたりもするので、単純に小説6つ分書くよりも労力かかってるよねこれ。普通にめちゃくちゃ面白いし。