あらすじ
【第174回直木賞受賞作】東京・上野の片隅にある、あまり流行っていない「カフェー西行」。食堂や喫茶も兼ねた近隣住民の憩いの場には、客をもてなす個性豊かな女給がいた。竹久夢二風の化粧で注目を集めるタイ子、小説修業が上手くいかず焦るセイ、嘘つきだが面倒見のいい美登里を、大胆な嘘で驚かせる年上の新米・園子。彼女たちは「西行」で朗らかに働き、それぞれの道を見つけて去って行ったが……。大正から昭和にかけ、女給として働いた“百年前のわたしたちの物語”。/【目次】稲子のカフェー/嘘つき美登里/出戻りセイ/タイ子の昔/幾子のお土産
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
とても良かった。上野のカフェーで働いてきた女給さんたちの物語。「嘘つき美登里」で、美登里も園子さんもカフェーの制服が可愛くて好きだから働いているという理由が可愛くて微笑ましかった。「出戻りセイ」では、背が小さく童顔な理容師の向井とハキハキとしたセイの何とも言えない関係性が良かった。タイ子さんと出征してしまった息子との文通も印象深くて、大変な世の中だったのだなぁと改めて感じた。終戦し、カフェー西行から喫茶西行になって働き出した幾子のお話で、戦地で病死した兄を引きずっている母に、私と父が生きているじゃないかと涙ながらに訴えるシーンで泣きそうになった。
Posted by ブクログ
大正ごろの上野にあった「カフェー西行」を舞台として、勤めていた女給たちがどのような人生を辿ったかが書かれる。通り過ぎた者もいるが、最終的に主要人物たちがまた戻ってくる話になっている。話に出てくる千駄木、谷中辺りはよく知っているので、あの辺かななどと思いながら読んだ。
なんとなくそれぞれの生き方は現代風で、言葉使いも古くない感じだなと思った。曾祖父母辺りが使っていた言葉使いとかが聞けるかなと期待したのは外れたようだ。
マスターがやたら優しいのと、美登里とくっ付いたのが印象に残った。
Posted by ブクログ
大正から昭和のカフェーを舞台にした物語。稲子から幾子まで緩やかに時代をつなげて、その時々を懸命に生きる人々を肩肘張らずにふんわりと柔らかく描く。今よりずっと制約のある不自由な時代にあっても、同じ顔の女はいない。学歴を生かして挑戦しようと奮闘するセイ、自由な恋愛をしつつも一人息子を大切に育てるシングルマザーのタイ子、カフェーの女給を一生の仕事にした美登里。それぞれの選択が戦争を経て喫茶展西行の穏やかな一日につながる。ハッピーエンドと言ってよい温かい物語だった。
一方、その温かさを引き立てるような戦争に男たちものみこまれていく。好きな人との結婚して自分の店を持つ夢を抱いていた向井の無念はいかほどか。夢や幸せを奪われる、異性を愛する気持ちも知らずに兵役に取られる、日々の飢え、大切な家族を失う、その悲しみが他の苦しみを生む。これだけ愚かな行為は他にない。「どうして戦争をしているのか、タイ子にはよくわからない。わからなすぎて不平不満は抱いていない」当時、ほとんどの日本人がこんな感じだったのではないだろうか。わからなすぎるのに戦争に突入する不条理の極み。
この前に金原ひとみさんの『ヤブノナカ』を読んだばかりだったので、女性蔑視も甚だしいこの時代をふんわり表現されたこの物語との落差に面白さを感じた。出てくる男性がいい人ばかりでほっとした。タイトル『タイ子の昔』にややウケ笑