【感想・ネタバレ】黒人と白人の世界史――「人種」はいかにつくられてきたかのレビュー

あらすじ

「ヨーロッパ人は、アフリカ人を奴隷にしたために人種主義者になった」。
本書は大西洋奴隷貿易、奴隷制、植民地主義とともに、「人種」がどのように生み出され、正当化されていったのかを歴史的に解明する。

◎ル・モンド紙が「まるで小説のように読める」と評す、人種の歴史の新たな基本書。

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Posted by ブクログ

“Black Lives Matter”がメディアを賑わした際、「まだそんなこと言ってんの⁉︎」と思わず口をついて出てしまった。当たり前のように人種差別の愚かさを学校で習い、「人類みな兄弟」の風潮にどっぷり浸かってきたもんだから、不思議で仕方なかったのだ。
本書を知った時その出来事がフラッシュバックし、気づけば当時感じたモヤモヤもだいぶ大きくなっていた。

著者はブラック・アメリカを専門とするフランス人歴史家。フランスは移民大国で、著者の講義にもかつて領土だったアフリカやカリブ海出身の学生が目立つという。
「生物学的に人種は存在しない。しかし政治的、社会的現実として人種は存在する」
後者の忌まわしき概念が、ヨーロッパ人によってどのように形成・正当化されていったのかを本書は追う。

手間はかかったが、序文→(巻末にある)解説→本編 →再び解説の順で読むと、より理解が深まった。(プラス、各部の最後には結論がまとめられており、長い旅路を乗り切る良いアシストになる)

「こうして、ヨーロッパ全体が目をつむって悪夢のなかに飛び込んでいった」

第Ⅰ部 奴隷制と帝国
黒人の歴史を考える時にまず「奴隷制」を連想しがちだが、そもそも奴隷だったのは黒人だけではない!というところから第Ⅰ部は始まる。奴隷制は結婚と同じくらい古い制度で、起源はB.C.3000年のメソポタミアにまで遡る。奴隷に転ずるのは戦争捕虜だった。
アメリカ大陸の発見以降は先住民が、次第に黒人がターゲットに選ばれるようになる。この経緯まではあっという間だった…。

第Ⅱ部 ニグロの時代
「ヨーロッパ人はアフリカ人を奴隷にしたために人種主義者になった」
16世紀末-18世紀末。
18世紀の大西洋貿易を機に、「白人」「黒人」→「人種」の概念が誕生したようだ。
奴隷貿易はポルトガル商人の独断場と化し、アフリカ交易網の拡大にまで及んだ。1787年に出版された、元奴隷による自伝(!)の一部抜粋は本書で一番生々しい証言だった。
労働の強制及び反逆心を抑制するためにふるわれた暴力も、この頃は「善のための悪だ」と正当化されている…

第Ⅲ部 白人の支配
19世紀-20世紀中盤。
奴隷貿易と奴隷制が(公式に)廃止されるのに反比例して、植民地支配が活発に。「白人優位の物語」は加速し、人種の概念はいよいよ定着し始める。
ちなみに1899年の日英通商航海条約時、日本人は「文明化された国に属する国民」=「白人」として認定されていたらしい。さすがにこれは2-3度読みした。


白人とは、肌が白い人ではなく自分たちの支配的地位の自然さに同意するに至った人達のことだと著者は語る。そう考えると、上記日本人の白人認定も納得がいく。

同時に本書では、社会全体で共生していく関係を「親族性」と呼んでいる。しかし、それを許されない人達は確かにいたし、残念ながら今もいる模様。
「親族性」が人種概念根絶への鍵であるならば、「人類みな兄弟」は決して甘っちょろい考えではない。というか、甘っちょろくなくて良かった。

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2022年11月12日

Posted by ブクログ

戦後すぐにユネスコによって否定された「人種」という概念が今なお根強く存在する。本書は人種の起源を奴隷制に置いてその本質を明らかにしていく。
奴隷制は人種差別によって生み出されたのではなく、奴隷制こそが人種概念を生み出した。すなわち、奴隷制が解体される中で支配のツールとして白人、黒人という区別を設けていった。筆者は、奴隷の本質は親族性の否定と言う。そして、黒人は家族や国家の構成員ではないという意味で親族性が否定された下位の人種であり、奴隷と概念的に連続している。
本書は本体の人種に入る前に壮大な奴隷の歴史について論じている。ヨーロッパ諸国が奴隷貿易に関わる前の奴隷制の歴史から始まっていて、直前に読んだ『人間狩り』の奴隷観が表層的だっただけに印象深かった。

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2024年01月16日

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