あらすじ
江戸時代初期の実相に迫る、歴史ミステリーの傑作!
時は四代将軍・家綱の世。天下をゆるがした島原の乱の余燼がくすぶり、幕藩体制が盤石ではなかった時代。公儀の執拗な締め付けに苦しむ豊後・岡藩の第三代藩主となった中川久清が、山中で不思議な娘と出逢う。行方をくらませた娘を探し求めるうちに「中川の誇りを貫いてくれ」と言い残して逝った先代が秘してきた切支丹庇護の痕跡が次々と露わになり、祈りの場に娘の姿を見つけた時、久清の運命は大きく変わり始める。やがて自らの出生にまつわる壮大な秘密も明らかになっていき――なぜ大名はくじゅうの山に登ったのか? 見えない敵と戦ってきた大名が目指した理想郷とは?
【目次】
第一章 娘狩り
第二章 津久丸
第三章 一雲
第四章 遺言
第五章 空井戸
第六章 女傑
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Posted by ブクログ
豊後国岡藩の第3代藩主中川久清は、日本人離れした容貌と言われている。なぜそういわれるかというと、かなり目鼻立ちがくっきりした肖像画が残されているからだ。キリシタン摘発を目指しての絵踏みを行なった。久住連山の一つ大船山を愛し、「人馬鞍」と呼ばれる鞍を屈強の男性に担がせて何度も登山した。墓所は、自身が愛した大船山中腹1,300メートルを超える台地上に作られ、入山公墓と呼ばれる。岡藩中興の英主・天下の七賢将と称えられ、プライベートも充実していた、幸せな人生を送った大名のように見える。
ところが、諸田氏が描き出した久清は、これらの事実を全て裏返して作られた人物だ。彼の系図が冒頭に紹介されているが、有名人のオンパレードだ。賤ヶ岳の戦いで敵味方となり戦った中川清秀と佐久間盛政を曾祖父に持つ。祖父・秀成は、高山右近と従弟どうしで、父・秀成は、父親と戦った佐久間盛政の娘・虎姫と結婚した。母親紀為君は家康の異父弟・松平定勝の娘で、後に家康の養女となる。第四代将軍家綱のもとで老中となった酒井忠清や岡山藩主の池田光政とも、姻戚関係にある。更に、豊臣政権下で切腹に追い込まれた古田織部とも縁続きだ。